3 新宿

 



「母ちゃん、母ちゃん。久しぶりの新宿だね」


「だーね。しかし、人が多いね」


「母ちゃん、母ちゃん。交番のとこにいるの、妹に似てるね」


「だね。自分に似てんのが3人いるって言うから、その1人だろ」


「痛っ!」


「どうした?」


「足、踏まれた」


「踏み返してやりな」


「母ちゃん、母ちゃん。相手は登山靴だから、踏んでも効果ないよ」


「だね。……ん? 登山靴? 新宿のど真ん中で? ……ま、いっか。ファッションは自由だわさ」


「母ちゃん、母ちゃん。アベックが交差点の真ん中でチュッチュチューしてるよ」


「バーカ。あれは頭突きで喧嘩してんだよ」


「あっ、違う。ペコちゃんとコルゲン坊やの置物だ」


「あら、そうだわ。懐かしいね。菓子と薬がタイアップする宣伝かな」


「母ちゃん、母ちゃん。見て、人がビル登ってるよ」


「バカだね。あれが、かの有名な“スパイダーマン”じゃないか。新宿に来てたんだ」


「違うよ。窓拭いてる人が落っこちそうになってんだよ」


「あら、そうかい。脳だけじゃなく、目もイカれてきたかな」




「母ちゃん、母ちゃん。腹減った」


「もーかい? さっき食べたばっかじゃないか」


「あれは、朝ごはんだよ」


「だっけ? ……この辺にダ○ソーはないかい?」


「えー?外食もダイ○ー?」


「ヤなら、キャ○ドゥでもいーよ」


「どっちもどっちじゃないか」


「それより、新宿に何しに来たんだっけ?」


「ア○タの前で、芸能人待ち伏せしに」


「……そか。電車賃使ったんだから、元取らないとね」





「母ちゃん、母ちゃん。人が多くて、入口見えないよ」


「だね? ……しゃーない、諦めて帰るか」


「母ちゃん、母ちゃん。妹がいないよ」


「何言ってんだい。さっきから母ちゃんが手つないでるよ」


「母ちゃん、母ちゃん。それ、腰が曲がったおばあちゃんだよ」


「ゲッ! どーりでシワっぽい手だと思ったのよ」


「母ちゃん、母ちゃん。おばあちゃんが、礼言ってるよ」


「ああ、どーも。……あ、いえいえ、どーいたしまして」


「母ちゃん、母ちゃん。さっき交番にいたの、そっくりさんじゃなくて、本人だったんだよ」


「だね。どーする? 芸能人見てからにする? それとも、食べてからにする? 交番行くの」




「ウエ~ン。かーちゃん! にーちゃん! シェーン! カムバック!」

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