2 海水浴
「母ちゃん、母ちゃ。やっぱ夏は海だね」
「だーね。ほら、パラソルん中でアルキメデスなんか読んでないで、ちっとは歩きメデス。なーんちゃって」
「…………」
「めったに来れないんだから、今日中にコンガリ焼きな」
「母ちゃん、母ちゃん。急激に焼いたら、肌に悪いんだよ」
「バーカ。焼いたら、その年は風邪引かないんだよ」
「母ちゃん、母ちゃん。違うよ。海に入ったらだよ。けど、それはむかーしの話だよ」
「……あら、なんで?」
「オゾン層の破壊によって、紫外線は皮膚ガンの要因とされてるんだ」
「……あら、そーかい。あれっ、父ちゃんたちは?」
「泳いでるよ」
「あら、ホントだ。絵に描いたよーな、仲むつまじい親子の光景だね」
「母ちゃん、母ちゃん。泳いできていい?」
「ダメだよ。今日中に真っ黒クロスケに焼きな」
「……母ちゃん、母ちゃん。ボクがガンになってもいいの?」
「ガーーーンって。バーカ。一日焼いたぐらいでなるわけないっしょ?」
「……かな?」
「ほら、ジリジリ太陽でヒリヒリ焼きなって」
「……母ちゃん、母ちゃん。なんで、そこまで勧めるの?」
「友だちに聞かれたら、ハワイ行ったって、見栄張るためさ」
「母ちゃん、母ちゃん。みんな、うちの経済状況知ってるから効果ないよ」
「転校生やあんまり親しくない子を狙うんだよ」
「母ちゃん、母ちゃん。無理って。それに、日帰りなのにハワイ往復できないよ。うちに着いたころはまだ、ハワイに着いてない計算になるもん」
「あら、そうかい。けど、男は時には見栄も必要だよ」
「母ちゃん、母ちゃん。無駄だよ。下手なアリバイ工作しても、すぐバレるって」
「ったく、も。おまえはロマンのない現実派だね」
「……かな?」
「父ちゃんを見てみ。夢を追って、ん10年。派閥を避けて、地道にヒラで頑張ってんだよ」
「……?」
「ヒラでも夢を捨てない勇気。ステキだろ?」
「母ちゃん、母ちゃん。父ちゃんの夢って、なに?」
「もちろん、おまえたちをハッピーにすることさ」
「……そか」
「かーちゃん、かーちゃん。とーちゃんが、いっしょにおよごって」
「あら、そーかい? どれどれ、ビキニの紐を蝶々結びにしてっと。かわいいを演出しないとね。クッ」
「……?」
「……?」
「じゃ、泳いでくるよ。あなた~!」
コテッ!
「あっ、かーちゃんがころんだ!」
「ったく。おっちょこちょいだな、母ちゃんは」
キャッキャッ! (波打ち際から聞こえる母ちゃんのはしゃぐ声)
バシャバシャ!
「あっ、とーちゃんとみずかけっこしてる」
「なかむつまじい夫婦の光景だな」
ゴボゴボ
「あっ、とーちゃんがもぐった」
シュワーッ! (父ちゃんが海から飛び出した音)
「あっ、母ちゃんを肩車した」
キャッキャッ! (波打ち際から聞こえる母ちゃんのはしゃぐ声)
ゲラゲラ!
「にーちゃん、にーちゃん。みんながわらってる」
「……いいじゃないか。母ちゃんは父ちゃんを愛してるんだ。そして、父ちゃんも母ちゃんを愛してるんだから」
バッシャー!
「あっ、かーちゃんをうみにおっことした」
バシッ!
「あ~あ。父ちゃんにビンタだよ」
ゴボゴボ!
「あっ。また、とーちゃんがもぐった」
ゴボゴボ!
「あっ、母ちゃんももぐった」
シュワーッ!
「あっ、とーちゃんとかーちゃんがうきあがってきた」
「げっ。ラッコみたいに抱っこっこしてら」
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