オトボケ親子

紫 李鳥

1 携帯電話

 



「母ちゃん、母ちゃん。ガキンチョが人んちの壁に落書きしてるよ」


「ったく、どんなしつけをしてんだろね、今どきの若い親は」


「若くない。母ちゃんと同じぐらい」


「……あら、そうかい」


「母ちゃん、母ちゃん。その横でオジンが立ちションしてる」


「ったく、もう。そういうオジンを見ると、蹴っ飛ばしたくなるね。ああ、情けない。大の大人が」


「ううん、小柄な大人」


「……あら、そうかい」


「母ちゃん、母ちゃん。チャリに乗ったお巡りさんが泥棒追っかけてるよ」


「日本の警察は優秀だから、すぐ捕まるさ」


「あっ、お巡りさんが泥棒にチャリ盗まれた」


「……トホホ」






「母ちゃん、母ちゃん。オジンがニヤニヤしながらブラジャー触ってるよ」


「あら、いやらしい、愛人へのプレゼントかしら。それとも自分でつけるのかしら」


「あ、ブラジャーだと思ったら、安眠マスクだった」


「……見間違いもはなはだしいね?」


「母ちゃん、母ちゃん。太ったオバンが万引きしてるよ」


「ったく、こっちは安月給で、どうにかこうにかヤリクリしてるってぇのに。そっちはタダでいただきかい。腹が立つね」


「あ、サイズ間違えて戻しにきた」


「……未遂かい」







「母ちゃん、母ちゃん。お菓子が3個で100円だよ。買っていい?」


「そうかい、そうかいって、いいわけないだろ? 早く、チラシにあった、5個100円の納豆買ってきな。ったく、電話切るよっ!」


 プープープー……


「母ちゃん、母ちゃん。……あれっ? 圏外かな? 母ちゃーん! 母ちゃーん!」

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