我慢させた分の支払い

「巴は私が幼なじみだから自分の趣味につきあっているんだろうなって思っているけど、それは違う。


巴が好きだから趣味につきあっているんだよ。


どんな巴も受け止めたいって思ってるから」


バッと、巴は私から目をそらした。


「巴…?」


その様子に名前を呼んだら、

「ちょっと待って…俺、どんな顔をしていいのかわからない」


巴は言った。


「まさかの両思いだった事実に動揺が隠せないんだけど…」


そう呟いた巴の顔は真っ赤だった。


お酒のせいじゃない。


「俺のこと、好きなんだよね?」


確認するように聞いてきた巴に、

「好きよ、巴が大好きよ」


私は答えた。


「好き好き連発するなよ、マジで恥ずかしいから…」


「巴も好きだって言ったくせに?」


「それとこれとは話が別だよ」


巴は真っ赤な顔で私を見つめたかと思ったら、すぐに目をそらした。


「巴?」


「抱きしめたい、キスしたい、今すぐに押し倒したい…」


巴はブツブツとそんなことを呟いていた。


「なっ…!?」


驚いたその反面、私も同じことを思っていたことに気づいた。


「5年も我慢していた自分を褒めたい…」


今さらながら、5年って長いよね。


と言うか、よく我慢してたよね。


私が気づかなかったと言うか、勘違いをしたから我慢せざるを得なかったのでしょうけれど。


気持ちを落ち着けるように深呼吸をすると、

「――我慢、しなくていいよ…」


私は言った。


「えっ?」


巴は顔をあげて、私を見つめた。


「巴とキスしたいと思ってるし、抱きしめられたいし、抱きしめたいし、それ以上のことも…」


その後を言わせないと言うように、巴が私を抱きしめた。


華奢だと思っていたその躰は、意外にも筋肉質だった。


「と、巴?」


巴は私と目をあわせると、

「こう見えても、俺も男だからね」

と、言った。


「我慢させた分を全て払うつもりでいるから」


そう言った巴の顔は、幼なじみの私も見たことがない“男”の顔をしていた。


初めて見たその顔に、自分の心臓がドキッ…と鳴ったのがわかった。


「巴…?」


「今すぐに、めありと愛しあいたい」


「――ッ…!」


そんな恥ずかしいセリフをサラリと言った巴に、何も返すことができなかった。


「めあり?」


名前を呼んだ巴に、

「――私も、巴と愛しあいたい…」


私は、そう言うのが精いっぱいだった。


「かわいい」


そう言った巴の端正な顔が近づいてきた。


どこか妖しく漂っているその色気に飲み込まれてしまいそうだ。


「――ッ…」


巴の唇が私の唇を重なったその瞬間、私は目を閉じた。


初めて交わしたそのキスに、心臓がドキドキと早鐘を打っているのがわかった。


「――んっ…」


唇が離れたその瞬間、巴はヒョイッと私を抱きあげた。


「――と、巴…?」


「何?」


「…私、重くない?」


意外と筋肉があるんだなとは思ったけれど、大丈夫なのだろうか?


巴はフッと笑うと、

「全然、むしろ軽いくらい」

と、言った。


当たり前だけど、巴は男なんだなと思った。


「そう聞くって言うことは、愛しあうのが怖くなった?」


そう言った巴に、私は首を横に振った。


「巴となら怖くないから」


私はそう返事をすると、彼の首の後ろに両手を回した。


「どこでそのセリフとテクニックを覚えてきたんだよ。


いろいろな意味で本当に爆発しそう…」


私を抱えたまま、巴は寝室へと足を向かわせた。

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