ずっと好きだった

その夜。


「アハハ、今思い出しても笑えるわ!」


お腹を抱えてゲラゲラと笑っている巴に、

「その後で必死に謝って事情を説明した私の気持ちを考えようか?」


私は言った。


巴が自分のことを男だとバラした後、私は安井くんに全ての事情を説明した。


「…まあ、何となくそんな展開だろうなとは思ってたよ」


安井くんはそう言って許してくれたのだった。


「正直なところ、男なのがもったいないくらいに美人だったよ…」


多少のショックは受けていたけれど、結果的には解決できたからいいか…。


「しかし、本当に信じちゃう人がいるとは思ってもみなかったな」


巴は笑い過ぎて出てきた涙を指でぬぐうと、ほろよいのサイダーサワーを口に含んだ。


「女の私も嫉妬するくらい美人だよ、巴は」


そう言った私に、

「嫉妬って…」


巴は苦笑いをした。


そんな彼の顔を見ながら、私は自分の指で唇をなぞった。


――巴にキスされた…


理由はよくわからないけれど、酔った勢いに任せて聞いてしまおうか。


私はグレフルソルティを口に含むと、

「巴」


名前を呼んだ。


「何?」


首を傾げて聞いてきた巴に、

「――どうして、私にキスをしてきたの?」


私は聞いた。


巴はキョトンとした様子で私を見つめた。


幼なじみならではの悪ふざけと言うヤツだろうか?


聞いたのは自分のくせに、答えが聞くのが怖いって我ながらどうかしていると思った。


巴はフッと笑うと、

「彼女だからでしょ?」

と、言った。


「…えっ?」


予想もしていなかったその答えに、何が何なのか全くと言っていいほどに理解ができなかった。


「彼女って、誰が?」


「めあり」


「誰の?」


「俺」


「はあああああああああああっ!?」


ジョーダンはエイプリルフールに言ってくれ!


「私、いつから巴の彼女になったの!?」


早口でまくし立てるように質問した私に、

「5年前から」


巴はその質問に答えた。


「ご、5年前!?」


そんな昔から私は巴の彼女になっていたの!?


「私、何にも聞いていないんですけど…」


勝手に彼女にされていたその事実に、ただただどうすればいいのかわからない。


気持ち的には嬉しいと言えば嬉しいんだけど。


「ちゃんと告白したよ」


「な、何て?


と言うか、いつ告白したって言うの!?」


もう何が何でどうなっているんだ、おい。


「何月何日何時何分何秒、円広志がどこまで飛んで行ったところで告白をしたって言うの!?」


「…まず、円広志は関係ないと思う」


巴はやれやれと言うように息を吐くと、コホンと軽く咳払いをした。


「5年前の夏くらいに、めありと居酒屋で一緒に飲んでいた時」


巴はそこで言葉を区切ると、

「――俺、めありのことが好きだわ…って」

と、言った。


「えっ?」


――俺、めありのことが好きだわ


何杯目かのビールでほろ酔い状態になっている、あの時の巴の顔が浮かんだ。


「あ、あれ、告白だったの!?」


それに対して聞き返した私に、

「告白だったのじゃなくて、告白だったの」


巴は言い返した。


「マジですか…」


「うん、マジ」


「…酔っぱらいのジョークだと思ってた」


「えっ、ひどい」


それはこっちのセリフじゃい!


「だって、酔ってたじゃない」


私がそう言ったら、

「酔った勢いに任せればいいかなって思ってた部分もあった」


巴は言い返した。


「めありは俺のことを幼なじみだと思ってる訳だし、俺の趣味にも幼なじみだからつきあっているだけなんだろうなって」


「そんな訳ないじゃない!」


私は巴を見つめると、

「私、巴のことがずっと好きだった!


幼なじみとしてじゃなくて、男として巴が好きだった!」

と、言った。

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