理由は、恋してるから
その夜、1人暮らしの私の家で巴と夕飯を食べていた。
「えっ、女だって信じちゃったの!?」
大きな声で聞き返した巴に、
「うん、信じちゃった」
私は答えた。
「そしたら張り切っちゃって、男だって正体を明かす前にどこかへ行っちゃった」
私が最後まで話したら、巴はあちゃーと呟いて手を額に当てた。
「里美ちゃんも何してくれてんのよ~」
「…里美も反省してるから許してあげてね?
当分は人前で見せないって言ってるし」
巴の様子に私は息を吐くと、両手で頭を抱えた。
「それで、どうするの?
相手は完全に俺のことを女の子だって信じちゃっているんでしょ?」
巴はほろよいの白ぶどうを飲みながら言った。
「それに関しては、私がちゃんと説明して巴が男だってことを伝えるから。
だから、巴は何もしなくていいから」
私が言い返したら、
「百聞は一見にしかず」
巴はさらに言い返した。
「な、何て?」
「ちゃんと言うよりも、相手に見せた方がいいんじゃないかなって思って」
「えーっと、それって…」
まさかとは思うけど、そうじゃないってことを信じたい。
「俺が直接会って、男だってことをバラしちゃう!」
巴はニヤニヤと笑った。
「えーっ、それって相当なまでのダメージじゃない!?」
私が驚いて言い返したら、
「だからだよ、そしたら相手もわかってくれるだろうし」
巴は得意気に笑った。
「あんまりムチャしないでよ…」
呟くようにそう言った私に、
「大丈夫だって、うまく行くよ!」
巴は大きな声で笑いながら言い返した。
…これが酔っ払いの戯言だったら、どんなに楽なことだろうか?
今はお酒に弱い私にあわせてチューハイやカクテルを飲んでくれているけれど、巴はものすごいと言っていいほどにお酒に強い体質だ。
焼酎とかウイスキー、日本酒――それもロックで――を好んで飲んでいる。
新入社員時代に飲み会で酒豪と名高い他の部署の上司と飲み比べをして圧勝したうえに、自分の部署の存続危機を作って大変なことになってしまったと言う武勇伝(?)もあったほどだ。
「…本当に、巴は何もしなくていいから」
そう呟いた私の声は、
「めありは何もしなくていいよ」
巴に聞こえていた。
非の打ち所がないと言うのは、こう言うことを言うのだろう。
昔はいじめられっ子だったくせに、私が守っていたのに…と、そんなことを思ってしまった。
好きだからほっとけなかったし、巴の趣味にもつきあっている。
彼は知らないだろう。
私が昔から巴に恋をしていることを。
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