危険な予感しかしない展開
「あっ、安井くん」
私が声をかけると、
「よっ」
安井くんは手を振った。
彼も同期で、男性社員の中ではよく話をする方だと思う。
「安井くん、聞いてよ!」
里美がお願いしますと言わんばかりに安井くんに声をかけた。
「えっ、何?」
興奮した様子の里美に戸惑っている安井くんは箸を手に持つと、しょう油ラーメンをすすった。
「めありの幼なじみの巴ちゃんがすっごくキレイなの!」
「ちょっと、里美!」
安井くんに何ちゅーことを話しているのよ!
「巴ちゃん…?」
案の定で、安井くんは訳がわからないと言う顔をしていた。
「めありの幼なじみなの!
ほら、この子なんだけど」
「あっ…」
里美は私の手からスマートフォンを取りあげると、安井くんに画像を見せた。
「どれどれ…」
安井くんが画面を覗き込んだかと思ったら、ピタッと麺を持ちあげていた手を止めた。
「ねえ、かわいいでしょ?」
里美はニコニコと笑いながら問いかけている。
安井くんからは何の返事もない。
「安井くん…?」
何の反応もない彼の顔の前で、私はヒラヒラと手を動かした。
どうしたんだろう…?
里美も何事かと言うように私を見るけれど、私も何が起こったのか全くわからない。
そう思っていたら、
「――めっちゃかわいい…」
安井くんが呟いた。
それからピシッと箸で画面を指差すと、
「武田、この子と知りあいなの!?
めちゃくちゃかわいいじゃん!」
と、早口でまくし立てるように私に言ってきた。
「う、うん、幼なじみだけど…」
私がコクコクと首を縦に振りながら返事をしたら、
「ねえ、紹介してよ!
この子に会いたい!」
安井くんが興奮した様子で言ってきた。
「えっ、会いたい?」
私の聞き間違いじゃなかったら、彼はそんなことを言ったはずだ。
「うん、会いたい!」
安井くんはフンと鼻息を荒く吐きながら答えた。
…うん、聞き間違いじゃないね。
「あ、あのー…」
里美が話しかけるけど、
「彼女の都合のいい日にあわせるから!」
彼女の声は耳に入っていないと言うように、安井くんが言った。
「安井くん、あのね…」
「俺、楽しみにしてるから!」
安井くんは里美の声を無視すると、勢いよくラーメンをすすった。
「ごちそうさまでした!」
安井くんは元気よく言うと、フンフンと鼻歌を歌いながらトレイを持ってこの場を立ち去ったのだった。
その後ろ姿を見送ると、
「めあり、どうするの?
巴ちゃんが男だなんて、とてもじゃないけど言えなかったよ!」
里美はオロオロとしていた。
「あの様子だと、巴に恋をしたみたいだよ…」
私はどうしたもんじゃろかと言うように腕を組んだ。
本当に、何だか危険な予感しかしない展開になっちゃったよ…。
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