美少女な彼は男です

武田めあり(タケダメアリ)、26歳。


大学卒業と同時にコスメ専門店『レンブラント』で営業事務をしている。


「うわっ、マジでかわいいじゃん!」


昼休み、私は同期で友人である里美と一緒に食堂で昼食を食べていた。


スマートフォンを見せたとたん、里美は声をあげて目をキラキラと輝かせた。


画面に表示されているのは、昨日の巴とのツーショットだ。


「巴ちゃん、本当にかわいいよねー。


ああ、もうこんなにもキレイな子が男だなんて信じられない!


美少女だよ、び・しょ・う・じょ!」


里美はバンバンとテーブルをたたきながら説教をするように言った。


「ちょっと里美、みんなが見てる」


時間も時間で場所も場所である。


それまで食事を楽しんでいた社員たちが何事かと言うように私たちのテーブルを見てきた。


「すみません、すみません」


私はペコペコと周りに謝った。


「こんなキレイな子が幼なじみだなんて、ホントにうらやましいよ!」


恋する乙女のように息を吐いた里美に、

「…まあ、巴は女顔ですからね」


私は呟くように言い返すと、カレーを口に入れた。


夏野菜カレー、美味い。


藤井巴(フジイトモエ)は証券会社に勤務している私の幼なじみだ。


家が隣同士なうえに母親同士も仲がいいので、彼とは20年以上もつきあっている。


色白の肌にサラサラでツヤのある黒い髪、二重の切れ長の目に小さな鼻、大きな口がエキゾチックな感じだが、そこも彼の魅力が出ているポイントだと私は思っている。


168センチの身長に華奢な体型、一流の職人が丹精を込めて作ったような人形のように美しい顔立ち…と、巴は昔から女の子に間違われることが多かった。


そのことから小学校の低学年の時は周りからかわれる――プラス、その当時は私よりも背が低かった――ことが多く、そんな彼を周りから守るのが私の役目だった。


そんな彼に転機が訪れたのが小学5年生の時、学芸会の時だった。


吸血鬼を題材とした話だったのが、そこで美しい魔女の役を演じた巴はその女顔も相まって、あっと言う間に学校の人気者になった。


それがきっかけで巴は自分の容姿に自信を持ち、中学高校は演劇部に所属して女形として活躍をした。


そして現在――巴はコスプレ趣味になり、私はそんな彼の趣味につきあっていると言う訳である。


「めありがうらやましい、こんなキレイな子が近くにいるなんて…」


里美は巴のファンで、彼のコスプレ写真を見せるたびにうらやましがられていると言う訳だ。


「だから、男だからね?」


私がそう言ったら、

「何してんの?」


その声が飛んできたかと思ったら、隣に誰かが腰を下ろした。

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