第13話 陽華 過去編

私、密月陽華。10歳。最近、妹が生まれて、お姉ちゃんになったばかり。正確には義理の妹になるらしいけど、難しい話はわからないわ。


そう、10歳の夏。絶対に忘れることはできない、悲しい思い出。


あのとき私は、家族ぐるみの付き合いがある隼人家の次男、団三と遊んでいたの。

まだ無邪気だった私たちは、冗談半分で結婚の約束を交わしていたの。


「陽華が行き遅れたら、僕のお嫁さんとして引き取ってあげるよ」

「なんか言い方が嫌だから、そんなときはなるべく早めにプロポーズしてちょうだい」


・・・今から思えば、完全に10歳の会話じゃないわね。


草原で団三は、花束の冠を作って私にプレゼントしてくれたけど、照れ隠しのために、逆に団三の頭に被せてあげたの。私の顔は完熟トマトのように紅色に染まり、団三はずっとニコニコ笑顔で私を見ていた。


そんな細やかな日常も、ある事故によって終わりを告げる。


光陽のお母さん(私・陽華の叔母)が運転する車に、私と団三が乗っていたの。密月家は全員が激嵐学園出身で、研究者の家系。当時は、初等部に所属する華恋お姉さんを迎えに行ってる途中だったわ。


華恋お姉さんの常軌を逸した頭脳は、既にデーモンクラス(高校レベル)と言われていて、飛び級扱いで中等部に混じって研究のお手伝いをしていたの。初等部と中等部の距離はとても遠くて、車での送迎が日常茶飯事だったわ。


そして、その日は偶々、私と団三が後部座席でじゃれあっていたの。送迎が日常茶飯事だったから、他愛もない内容だったと思うけど、記憶にないの。


事故前後は記憶がすっぽり抜け落ちて、気がついたら病院のベッドの上で目覚めたの。隣のベッドでは、包帯を巻かれてミイラみたいになった団三が点滴に繋がれて寝ていたわ。私の方が早めに目覚めたのよ、多分。きっと。なぜなら団三よりも、私の方がちょっぴり年上だもの。


華恋お姉さんと交流があったカヴァンゲリヨン氏(当時は名前なし)が異世界のお医者さんだったらしく、通常の手術とかでは手の施しようがなかった私と団三の命を救ってくれたの。


どういう技術かわからないけど、私と団三の心臓が入れ替わったらしいの。


「ここからは、ボクが説明を引き受けよう。」


密月華恋、当時12歳。事故の当日は、涙が止まらなかったよ。ボクの最愛のお母さんとの、お別れの日だったからね。


「車に乗っていた3人とも、瀕死の状態だ!!家族を呼べ!!」


お医者さんの怒号が飛び交う中で、ボクにできることはほとんどなかった。隣のカヴァンゲリヨン氏と意思疎通できたのが奇跡的だった。ただただ感謝するしかない。


「おかーさん・・・」


とにかく、葬式のときに棺に入るのは、ボクのお母さん1人だけで済んだ。心境は複雑だったけど、ひたすら涙の雨を流すことで、現実逃避をはかった。


そして、「私」が「ボク」になった日でもある。


時代は現在に戻る。


とにかく、結果として陽華と団三の見た目は中性的になっている。


陽華の胸が慎み深いのも、団三と心臓が入れ替わったのが原因かもしれない。

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