第9話 密月三姉妹

※このお話は、密月家の姉妹(従姉妹)の話し合いです。異世界研究会とか、決闘システムとは何の関係もありません。


密月家の長女・陽華が激嵐学園から帰宅しました。彼女は新入生代表として、挨拶の途中に幼なじみの気になる同級生の男の子から大人数の前で告白されて、気が動転。挨拶の途中でヘナヘナになるという大失態を演じてしまいました。


同居している従姉妹の上級生・華恋の計画通り、痴話喧嘩をした陽華が今、密月家の門扉を開けました。


「ただいま帰りました」


名門貴族だった密月家の長女らしく、自宅であっても礼儀正しい陽華の挨拶は、深窓の令嬢のように毅然としています。


「今日はいろいろあって、疲れたわ・・・」


陽華は学園指定の鞄をきっちりと、玄関に置きました。ひとつひとつの所作から密月家の厳格な教育方針が滲み出ています。


「おかえりなさいませ、ひばなおねーちゃんさま!」


そこに、小学生低学年くらいの愛くるしい女の子が駆け寄ってきました。顔立ちは陽華を幼くした感じで、髪の毛は短めのポニーテールにまとめています。


密月光陽(みつづき・ひかり)。今年7歳になる、陽華の義妹です。光陽は、本当は陽華の従姉妹なのです。華恋の母親が事故死する前に卵子を遺伝子提供者として、生まれたのが光陽です。


本来であれば、華恋の妹が光陽ですが、陽華の両親が光陽を養子縁組に入れた結果、陽華の義妹として約10歳離れた姉妹が誕生したのです。


年長者である華恋は養子縁組を断りましたが、実際は同居しているので、密月家の三姉妹として、容姿の美しさが有名です。


「光陽、その服装はやめてちょうだい。頭痛がひどくなるわ」


「えへへー」


はにかむ光陽は密月家の中でもイレギュラーな程、ずば抜けて愛くるしい笑顔を見せます。本来なら一人っ子の陽華にとって、義妹の光陽は幼さも加わって、天使のスマイルと心の中では表現しています。


光陽に笑顔でおねだりされると、お姉さんとして何でも言うことを聞いてしまいそうになるので、気を引き締める陽華。


しかし、光陽の子供用のエプロン姿を見ると、どうしても口元が緩みます。


「めいどさんごっこ」

「最近、妹がマセて凶悪になっている件」


陽華のツッコミです。自分の家だと、ライトノベルのタイトル風の言葉を使う陽華です。令嬢らしく、礼儀正しいのは玄関までの内弁慶でした。


「テレビでみた!きょうあくはん、つかまった!」


「そうね。義妹が犯罪者を捕まえたので、家で飼うことになった」

「はんざいしゃ!きょうあく!!いみしん!!」


義妹との、微妙に噛み合わない会話を楽しむのが陽華のささやかな楽しみです。


「ひばなおねーちゃんさま!かれんさまのおかえりは、いつ?いつ帰る?」


光陽の台詞で漢字が使われたら、天使モードは終了です。陽華も普通の対応に戻します。


「私より遅いわ」

「いつ帰る?」

「話し合いがあるみたいね」

「おとこがらみか!」

「まあ、一応。男ではあるかしら」

「かしら!ひかり、わかる!頭!」

「組織のトップだから、そうね」

「あたま潰す!」


平仮名と漢字混じりの台詞は、ヤンデレモードなので要注意です。


「晩ご飯のおかず、鯛のおかしら付きかしら?」


「ひばなおねーちゃんのりょうりは水っぽいので、かれんさまのりょうりにチェンジ!リクエストをよーきゅーする!」


陽華は頭を抱えます。光陽の芝居がかった台詞には、華恋の影響力が大きい証拠です。


「今日は光陽が、おねーちゃんをりょうりします!!」


ちなみに、光陽が「お姉ちゃん」と呼ぶのは陽華だけです。華恋の場合は「さま」づけが最近の三姉妹(仮)の会話の傾向です。


7歳の女の子の心理状態は複雑怪奇なのです。


「光陽コックさん、今日の献立は?」

「おねーちゃんのにょたいもり」


陽華は盛大にずっこけました。体制を崩しながらも、スカートだけ抑えるのは彼女の矜持です。


「ど、どこでそんな言葉を覚えたの?」

「華恋様」

「やっぱり」

「いんぼー」

「小さな支配者・・・」


陽華の光陽に対する評価。真の支配者が華恋だとしたら、光陽は裏の支配者です。


「いんもー?陽華お姉ちゃん、いんもーって何?」


華恋の仕込みです。この台詞も、光陽はオーム感覚で陽華に聞いています。


「小さな支配者さん、お姉ちゃんは頭痛が激しいので、自室に引きこもります。留守番お願い」


「がってんしょーちのすけでござるか?」


陽華は光陽の疑問文を華麗にスルーして、宣言通りに行動しました。


自室に入った陽華は、挿絵があればあられもない姿になってベッドに倒れこみました。


真の支配者が帰宅して、後半戦に続きます。

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