第7話 決闘・1

「決闘システムは、異世界研究会に所属する人と時間溯行同好会に所属する人が喧嘩しそうになったとき、もしくは意見の食い違いが発生したときに中立委員会(教員主体)の仲介によって、暴力行為以外で対立して、勝利すれば各組織にポイントが加算される。去年は時間溯行同好会に大差をつけられたけれど、今年は有望な新入生がいるから、そう簡単にはいかない。ボクの策略が冴え渡ると信じてくれ」


華恋の長い台詞でした。


「唐突に中立委員会ってのが出てきたわね」

「最初からパンフレットに書いてあったんや!」


陽華と団三によるツッコミです。


「中立委員会は教員主体による、第三者の公平な目線によるジャッジが求められる。贈賄など裏切りはご法度だから気をつけてくれたまえ」


「じゃあ、さっきの裏切りや寝返りってのは・・・?」


了の台詞です。好感度を上げようと必死ですが、彼の疑問も当然です。


「もちろん、時間溯行同好会のメンバーからスパイを・・・、これ以上はここでは言えないわ」


「その理屈で言えば、こちら側にも相手のスパイが送り込まれてくる可能性が高いわね」


従姉妹同士の会話です。


「それに関しては、強力な協力者が存在しているわ。一番奥に佇んでいらっしゃる、私たち異世界研究会が世界で最初に接触した異世界人」


全員が、異世界研究塔の会議室の後ろに注目します。


カバの顔に猫耳をつけて、マスク・サングラス・マフラーで顔を隠している異世界人が頷きます。


「彼女の名前はカヴァンゲリヨンさん。私と従姉妹と従姉妹の未来の旦那(仮)が話し合って名付けたわ」


全員の視線が壇上の女性と一番前の列にいるバカップルに注がれます。


「だから、あんな変な名前はやめようって私は最後まで反対したわよ」

「だって、色々な候補のなかで、あの異世界人さんが一番気にいったのがアレだったから・・・」

「ボクは純粋にいい名前だと思うよ」

「華恋お姉さんはセンスが狂っていると思うけど、それが個性だから仕方ないわね」


カヴァンゲリヨンは何度も頷いています。よっぽどその名前が気に入っているようです。


「現在、異世界研究会では異世界人との通訳が可能になるように研究中です。なかなか難しいし、時間溯行同好会との開発競争にも発展しているので詳しくはいえないけど、技術革新に自信がある人は手を挙げて、はーい!!!」


室内は静まりかえりました。この状況で、空気を読めないのは華恋だけだったようです。


「密月(妹)、あなたは・・・?」


「最先端技術なんて、マッドサイエンティストもどきのビッグシスターさんにお任せするわ。私は次に控える部活選びが大切なの」


「僕は野球部に入るよ」

「私は書道部・華道部・茶道部ね。他にも興味ある部活や、野球部のマネージャーもありね。あ、もう団三のマネージャーだったわ」

「陽華に管理なんてされへんからな!!」

「あなた、ペット部に入部決定ね。首輪つけてとても厳しくしつけてあげる」

「いや、僕は野球部だから!!スポーツ大好き!?」

「隼人君、疑問文にすると意味不明よ」

「ダブルツッコミ!!対処不可能!!!」


「えーと、俺は剣道部かな」

「体育会系の部活を選ぶということは、時間溯行同好会への牽制?」

「はい!」

「返事はいいけど、何も考えずに中学時代の部活そのまま適当に言っただけ?」

「はい!」

「よろしい!」


「えーと、俺は剣道部かな?」

「時間溯行ってループって意味やけど、会話が進まへん!めんどいわ!」


「では、実際に決闘システムを実施してみましょう。今回の場合は、異世界研究会内の決闘だから、デモンストレーションみたいな感じだね。密月(妹)と隼人君のバカップル(仮)に喧嘩別れしてもらうわ」


「華恋お姉さんのご指名よ、団三」

「密月(妹)さんも指名されとるで!」

「さすが団三、すでに決闘モードに入っているわ。でも私は負けない」

「ワイも負けへんで!!」


バカップル(仮)による、痴話喧嘩です。


「関西弁だから、全部ツッコミになる。あれが団三のテンションの上げる方法。つまり、本気で彼女に立ち向かうという強い意思表示。これからバカップルによる話し合いという名の討論、もとい壮絶な口喧嘩が始まる・・・」


待田は隼人家と家族ぐるみの付き合いがあるので、密月家の従姉妹同士の喧嘩が無茶苦茶なほど激しいことも熟知しています。


「今回の決闘のテーマは、『異世界語での挨拶』をバカップル(仮)に徹底的に討論してもらおうかしら。異世界人であるカヴァンゲリヨンさんが一番納得のいく挨拶を考えた方が勝利よ」


カヴァンゲリヨンさんが何度も頷いています。彼女は現時点で、頷く以外にコミュニケーションが取れる様子ではありません。


「まあ、悔しいけれど知識なら陽華の圧勝やからな。この条件ならワイも文句言えへん」

「関西人らしい言い回しね、団三。そういうところが好きだけれど、今回だけは譲れないわ」


明かされた「決闘」システムの仕組み、そしてバカップル(仮)の喧嘩別れを目論む華恋。この対決の行方や、いかに?

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