第5話 入学式
「この学園の革命を宣言します」
壇上に立った陽華は、静かに宣言します。
よく通る声が、凛とした体育館、そして講堂に響き渡りました。
入学式。団三たちの学年の新入生代表として壇上に上がった陽華は、優雅で可憐で極めて冷静な声で宣言しました。
「現状のパワーバランスでは、時間溯行同好会の勢力による一党独裁状態です。この後に控える、新入生の属性決定投票の前に、新入生代表・密月陽華による異世界研究会への勧誘活動をもって、新入生代表挨拶に代えさせていただきます」
陽華の厳かな声は、本当によく体育館と講堂に響きます。
「さて、私たちは事前活動によって、新入生皆さんがこの学園に入学する前から、異世界研究会の活動をお手伝いしています。」
『私「たち」・・・?』
新入生はもちろん、一部の卒業生(仮)からも、疑問の声があがりました。
「私の幼なじみであり、彼氏(仮)でもある隼人団三君が、私の賢い下僕として、協力してもらう予定です」
「言い方!もっと優しく・・・」
陽華は団三を睨み付けました。
「優しくお願いします、はい」
団三が言い直しました。陽華の恐ろしさを他の学生達よりも実感しているだけあって、素直に大人しくなります。
さっき騒がしかった男女2人の学生が幼なじみのリア充だとわかって、会場内ではざわつきながらも「何を始めるんだ?」という焦燥が混じり、困惑の渦に巻き込まれています。
団三はすっくと立ち上がりました。
「僕の名前は隼人団三。壇上にいる、密月陽華の幼なじみであり、パートナーであり、未来の旦那になる予定の男です。よろしくお願いいたします」
一礼して、団三は座りなおします。
なんということでしょう。団三は、この大人数の中で、自己紹介と公開プロポーズを同時にやってのけたのです。
同級生、最初に反応を示したのは待田です。彼は拍手しながら、
「ブラボー!」
と叫びました。その声がきっかけで、絶賛の渦に包まれながら、拍手の音が鳴りやみません。「ヒューヒュー」という冷やかしの声もたくさん混じっています。卒業生(仮)からは、「マジ?」「ドッキリ?」と言った、困惑の声も聞こえます。
壇上の陽華は、顔が真っ赤になって湯気を出しながら、机の下に避難しています。とてもスピーチを続けられる精神状態ではありません。
今、ようやく陽華がひょっこり顔だけ見せました。
「だ、団三!話が違うわ!パートナーで止めておく予定のはずだったわ!」
「早めにはっきり言っておいた方が効果的かなって僕は思う。着席します。椅子ないけど」
いつの間にか立ち上がっていた団三は、一瞬で優雅に座ります。体育座りです。ひとつひとつの所作がわざとらしく、あざといです。よく見れば、身体の節々が震えています。彼も緊張しているのでしょう。
団三は期待のまなざしで、壇上で必死に自分と戦闘しているパートナーを見つめます。
陽華は頭の中が真っ白になっていました。せっかく暗記した原稿の内容も、完全に吹っ飛んでしまいました。よっぽど、団三の公開プロポーズが強烈に心に響いたわけです。
陽華は自分の額を押さえて、顔を何度か振ってから気持ちを入れ直します。
「と、とにかく以上をもって、異世界研究会への勧誘活動を終了します。今後の投票で、新入生みなさんの意思表示が今後の異世界人との関係に多大な影響を及ぼします。真剣に考えてください。新入生代表、密月陽華」
陽華はペコッと一礼しました。スピーチの途中から調子を取り戻したようです。
新入生・卒業生(仮)の反応は最高潮で、団三の公開プロポーズのときよりも会場全体からの拍手になりました。もちろん、団三も拍手しています。誰よりも大きな拍手を、スピーチを終えた陽華に送ります。
「作戦通りだな、凄い奴だぜ」
元から同級生である待田だけ、事前に団三の計画を知っていました。実行できる胆力の持ち主だと半信半疑でしたが、団三はものの見事にやってのけたのです。素晴らしい人物だと、評価がうなぎ昇りしています。
その反面、嫉妬や恨みを持つ人もいます。その筆頭であるはずの剣将軍の反応はというと、
「ぶわっはっは、これは一本とられた。悔しいが、今年の新入生の大半は向こう(異世界研究会)に取られるだろう。だが、これはまだ始まりだ。魑魅魍魎が跋扈する激嵐学園にようこそ、新入生諸君」
大喜びで新入生を感激しています。脳筋のように見えますが、彼もまた素晴らしい胆力の持ち主であるようです。
こうして、波乱に満ちた入学式は幕をとじました。
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