第4話 卒業式・2

現・3年生の卒業式です。団三たち学生は理解不能のまま、状況が飲み込めていません。


壇上には、真っ黒な学ランを着て額にハチマキを巻いた男性が立っていました。


ちなみに、激嵐学園の制服は指定のものもあれば、指定以外でもオッケーという自由奔放な校風です。会場内は制服・私服・コスプレ服が混ざりあい、混沌とした様相を示していました。


「マイクテス、テス、テスト!俺の名前は剣将軍(つるぎ・いくさ)だ!!時間溯行同好会の会長だ!」


大音量が響きます。ちなみに学生が集められている場所は、体育館と講堂を足して2で割ったような場所です。卒業生(3年生)が体育館側、新入生が講堂側に集められているようです。


「なんで時間溯行同好会の会長が壇上におるんや?」

「普通、学園長か生徒会長よね」


団三と陽華の容赦ないツッコミが炸裂しました。


「良く言った、そこの新入生!!」

「げっ」

「今の、聞こえたの?」

「俺の聴力は6.0だ!」

「聴力ってなんや?」


団三はツッコミのときだけ関西弁になります。


「ネタばらしすると、そこら辺のスピーカーが集中的に音を拾ってくれている」

「めんどくさい男ね」


陽華のツッコミは常にフラット。ついでに胸もフラットです。真顔のまま毒を吐き続けます。


「なんで俺が壇上にいるのかというと、今年は時間溯行同好会が生徒会権限を支配したからだ!」


「そもそも生徒会なんてないね」

「時間溯行同好会て異世界研究会で投票して、勝利した方が学校の運営・自治に携われるってパンフレットに書いてあるわ」


「その通り!本年度は、我々、時間溯行同好会が勝利した!圧倒的勝利!!筋肉バンザイ!!!」


『筋肉!』『筋肉!』『筋肉!』


剣将軍は一息ついて、そこでプロテインを飲みます。


「時間溯行同好会は『筋肉教』と。文化部はお断りかぁ」

「わざとらしいパフォーマンスね」


剣将軍は咳き込み、腕捲りして筋肉を見せつけるようにプロテインを吹き付けました。


「き、清め酒ならぬ清めプロテイン!!」

「わけがわからないわ」

「デモンストレーションは終了だ。なぜ君たち新入生の前に、我々の卒業式が執り行われるかについて説明する」


ざわついていた新入生達が、急におとなしくなりました。


「まず、我々が所属する時間溯行同好会の目的と本懐について話する」


新入生たちが息を飲みます。卒業(予定の)生徒たちは、落ち着いたまま、身じろぎしません。まるで、全員軍隊のようです。


「時間溯行同好会の目的・・・それは、タイムリープだ!!」


『そのままやんけ!!!!』


新入生のツッコミがハモりました。奇跡的です。


「本懐は、異世界研究会をぶっ潰すことだ!!」


『『そのままやんけ!!!!!!!』』


今度は卒業(予定)の学生も加わったため、タイミングがズレました。とにかく大きな声です。


「目的と本懐が逆じゃないかしら?」

「本懐ってどういう意味だっけ?」

「ボケてないでググりなさい、団三君」

「はい!ごめんなさい?です!」


シーン・・・



空気の読めない2人の会話によって、場の雰囲気は沈黙に包まれました。


「ゴホンッ!!」


そこで沈黙を破ったのは、もちろんこの人。剣将軍です。


「え、ええと、とにかく、現在の激嵐学園は我々、時間溯行同好会の権限が強い。対立する異世界研究会に所属するなら、我々の敵に回ることを意味する。この後、よく考えて選択してくれ」


剣将軍が壇上から下りたのち、学園長が壇上に上がりました。とても長い白髪を銀髪に脱色した、しわくちゃな老人です。見た目だけなら男にも女にも見えるので、まるで性別不明です。齢108歳とも、1008歳とも言われていますが、噂なので本人すらわかりません。ただ、老人というイメージだけが強烈に新入生の頭に残りました。


「これは、激嵐学園の伝統じゃのぉ。今年は、ちょっくら時間溯行の方が強いかのぉ。活きのいい新入生が異世界(研究会)に入れば、上手い具合に対立するのぉ。部活ごとにランク分けがあるので、部活選びは大事じゃぞ。安易にランクの高い部活を選べばいいというわけでもない。じっくり考え、悩めよ若人」


複数の先生から、舌打ちが聞こえました。露骨に嫌そうな顔を見せたのは、もちろん剣将軍です。


(この学園長・・・やるわね。格が違うわ)


陽華は現在進行形で、絶賛この学園長を値踏み中です。


こうして、波乱含みですが、卒業式が終わりました。


「・・・」


この段階で、カバの顔にサングラスして猫耳をつけたような異世界人が、マスク越しに頷いていたのに気づいた新入生はほとんどいませんでした。

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