時間魔法
「七海美織です。はじめまして!」
「よ」
「はじめまして」
美織が名乗ったところで、玄武様が言います。
「お前さんのアーカイブ、プロンプトだったよな?」
「は、はい」
ちょっと人見知りな美織ですが、昨日お風呂で玄武様の優しさと愛良さんの可愛さを語ったお陰で緊張はあんまりです。良かった。
「直接呪いをどうこうできる神秘じゃあねえが、時系列操作のアーカイブだ。緊急事態でちょいと巻き戻すなんて小技が学べると思うぜ」
「うちの工学部の教授はそれを使って失敗を巻き戻しておるぞ」
お二人に『妹はものづくりに興味があるんです』とは伝えていましたが、興味のあることを取り入れて考えてくださるなんて感動です。
美織も嬉しそうに頷いています。
「二人とも、ありがとう! プロンプトの扱いもまだまだ半人前ですが、頑張ります」
「精進せよ。人生は経験の積み重ねだ」
「はい!」
まずはデモンストレーションに、愛良さんが古文書を解読。そして、絡みついてきた魔力を玄武様が触れることで解呪です。
……玄武様、やっぱり手並みが鮮やかなのです。
「お前さんたち、呪いの類は見えるだろ? 絡みついて来たら断ち切る。美織は巻き戻す。やるこたこれだけよ」
玄武様に手を握られた愛良さんはぽっと頰を染めています。乙女で可愛いです。
「もちろん、最初っから上手くいくだなんて思っちゃいねえから、気楽にな」
「う、うむ。私もある程度の解呪は可能。そう気負わずとも良い。バイト代も出すぞ」
「えっ、うち大学生じゃないですよ!?」
「ただ働きをさせるつもりはないでな。美織の分は私と玄武から出そう」
私は寛光生なので、大学の研究費配分からだそうです。つまり、愛良さんの教授としての研究お手伝いという名目なのですね。
「わー……頑張りますね!」
「良い返事だ」
「お茶淹れてくるよ」
「わ、私も行く!」
きゅんきゅんします。
お二人の姿がドアの向こうに隠れたところで、美織と話し合いです。
「……愛良さん、玄武さんのこと好きだよね」
「うん。乙女で可愛いです……」
「玄武さんはどうなんだろ?」
「うーん……」
私が見たところ、お二人に結ばれる赤い糸は成熟の始まりを示す艶がのっています。
「脈ありと思ってるよ」
「だよねえ……」
――*――
今日も愛ちゃんが可愛い。
「あの子ら、今時な子だからな……玉露は苦かろう。と思うが、玄武はどうだ?」
堂々としているから威圧感があるように見えるが、こういった気遣いもきちんとして、中身は優しい女の子だ。
「……俺もそう思うよ。甘めの緑茶にするか、番茶かだな」
「よし。とっておきを出そう!」
「…………」
彼女の手を取る。
「っ……げ、玄武……?」
「……姫さんじゃなく、愛ちゃんって呼んでもいいかな」
「…………」
顔を見る勇気がない。
彼女の手が熱いことだけが反応を知る手段だ。
「ん……よ、良いぞ。……嬉しい」
「ありがとう」
養父母が居たら、今の俺のことを何と評するだろうか。
きっと父は『思い切りが悪い』と呆れ、母は『玄武は繊細ね』と笑う。
「……愛ちゃん」
「なんだ?」
「好きだ」
「――」
彼女は赤金の瞳に涙を浮かべ、俺を振り向く。
「……言ってくれた……」
「待たせてごめん」
「待ってなんかない……!」
泣きそうな愛ちゃんを抱きしめる。
「……変なタイミングで告白して悪いな」
「玄武からならいつだって嬉しい」
「…………。愛ちゃん、明日デートしようぜ」
「うん」
口や頬にする勇気がないから、彼女の髪に口づけする。
「っ……!」
「……ん」
愛ちゃんは甘んじて受け入れてくれた。
「仕事に戻ろう」
「おう」
――*――
「ただいま」
「遅れてすまぬな」
お二人はお盆を持って戻ってきました。
「お帰りなさい、玄武様、愛良さん」
「おかえり。あの、遅れちゃったんですが、これお土産……」
美織が二人で選んだ和菓子を机に出します。最初の興奮や微笑ましさで忘れていました。
私も慌てて謝ると、お二人は鷹揚に笑って許してくれました。
「良い。気遣いこそ嬉しいものよ」
「ありがとな。いま出してもいいか? みんなで食べよう」
「もちろんです!」
愛良さんが箱を開け、お茶を降ろしたお盆に和紙を敷きます。お菓子の包みを持ち上げ並べる仕草が優美です。
「もなかか。こしあん粒あんが揃っておる」
愛良さんはそこはかとなく嬉しそうで、私たちも良かったと思います。
「私と美織、好みがちょっとずつ違うんです」
「好みが分かれるかもしれないので、両方に……二人とも、もなか好きですか?」
おそるおそるな美織に、玄武様はからっと気持ちの良い笑顔で応じました。
「そんな気ぃ使うもんじゃねえやな。もなかもアンコも好きだよ」
「私も好きだ」
「よ、良かった」
「食べながらのんびりと参ろう」
「「はい!」」
作業の隙間を縫って、玄武様に質問です。
「……愛良さんに告白しました?」
「っ、……お前さん、容赦ないな……」
だって、縁の糸がそういう色なのです。
美織に呪いを捉えるコツを教える愛良さんも、なんとなくそわそわわくわくとしています。
「お二人が幸せで私も幸せです」
「ありがとよ」
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