自由であれ

「魔術工芸学科の長、ビオラ。双子の弟がいるのだけれど、本日は通院でいない」

 とっても無表情ながら、オウキさんとラーナさんによく似た女性が会釈します。髪と瞳がすごく濃い緑です。

「魔工の教授のパルヌス。学科長の補佐役だよ」

「同じく教授のフリージアだよ」

 髪が夕闇にグラデーションしているお二人が会釈。

「紹介の必要ないかもだけど、オウキだよ」

「ラーナだよ!」

 みなさんでピースサイン。

「これからよろしくね」

「はい。お世話になります!」

 代表して差し出されたビオラさんの手を握ります。

 職人さんらしい、しっかりとした手。

 オウキさんは周りを見渡して困った顔をしていました。

「……まだあと数人来るはずだったんだけどなあ」

「セファルは旦那さんから『寝坊で行けない』だそう」

「相変わらずおばさんに甘いねえ、あの人は」

「おばさんってことは、オウキさんの……」

「俺の父の妹さん。レプラコーンの中でも群を抜いて自由人だけど、いい人だよ」

「自由人しかいねえだろ」

 お嫁さんとお子さんを見守るリーネアさんがぽそりと一言。

「自由じゃなくちゃ妖精じゃないよ、リナリア」

 ビオラさんが答えると、ため息をついて黙り込みました。リーネアさん、たまに苦労してます。

 レプラコーンの皆さんは楽しくていい人ばかり。

「魔術学部は変人の巣窟だけど、他の学部も変人ばかりだから大したことじゃないよ!」

「それはアピールポイントにするには切なすぎる」

「気軽に遊びに来てね、しおりん」

「歓迎するわ」

「今日いない面子もいつか紹介するからね!」

「はい! 今日はありがとうございました」



 魔法みたいに楽しい日でした。帰りもリーネアさんに送って頂き、感謝です。

 妖精さんたちからお土産にいただいたアイスケーキを食後のデザートに切り分けます。

「お姉ちゃん……うちを置いてお出かけして……」

「み、美織。今度美織も連れてきてってオウキさんに言ってもらえましたから」

「……なら許す……」

 美織はここ最近、タウラさんやルピネさんと転校の準備にお出かけしていました。……私としては、お二人を独り占めな美織のことが羨ましいのですが……

 タウラさんはいつもの優しい笑みで私たちを見守っています。

「オウキさんはどうでしたか?」

「え。……お優しくて、いろんなこと教わりました」

 心の強さや、深い愛情を、見て教わりました。

「そうですか。あの方は凄い人だから……」

「……はい」

「良い経験をしたんだね」

「とても、良い経験でした。……これから頑張ろうと新たに思うのです」

「よろしい」

 ほんの少しだけ寂しそうに苦笑します。

「……ありがとう」

「い……え。私、私なにも……」

「うちを置いてけぼりにしないで!」

「わ!?」

 美織に抱きつかれました。

「次はうちも一緒に行く。……みんなで行こう?」

「……美織……」

 タウラさんは堪えきれなかったようで、小さくふき出して笑いました。彼が声をあげて笑うのは珍しい気がします。

「そうだね。お姉ちゃんと、ついでにルピナスさんも誘って行ってみようか」

「うん!」

 そうですよね。

 オウキさんの余命が50年だというのならば、体調が良いときに、良い思い出を作ってもらえば、きっと……

 ……せめてもの恩返しになると思うのです。

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