家族へ

「まあ、うん。……頭の狂った神さまとの間に、ジュンシフォリアとルピナスが生まれたわけだ。で、フォリアは生まれてすぐ頭割られて冥府送り。今は冥界でお仕事中。ルピナスは機械につながれて、俺を操る時の中継機扱い」

「ふぇっぐ……ぅ」

「……すごく後に妻と結ばれて……カルミアとリナリアが生まれた。神さまに世界ごと妻とリナリアを引きちぎられたから、過ごせてたのは短いけど。こんなとこかな」

「うぅー、ぁぐ、っひう」

「末娘のファレノプシスは、俺が作り出した人工生命。なんかテンションが狂った日に作ったせいか、いつの間にか赤ん坊が誕生してたんだね。衝撃」

 オウキさんはぼうっとしていて切ないです。

「楽しくもない話に付き合ってくれてありがとう」

「私はオウキさんといるだけで幸せです。……私なんかを信頼してくれてっ、ありがとうございます……」

「紫織だから信じたんだ」

 私から便箋を受け取ったオウキさんは、嬉しそうに目を細めています。

「……ありがとうね、紫織」

「…………」

 こんな表情が見られるなら、私の《巫女》も捨てたものではないのだと思いました。

「俺と波長合わせると、消耗するでしょう。だから、無理しないで、体調が良い日に手伝ってくれたら嬉しい」

「……はい」

 暖かい濡れ手ぬぐいをもらって、目に当てます。

 時間停止装置から出してくれました。

「ご飯食べようか。いただきます」

「いただきます」

 お弁当、美味しいです。

 涙でちょっとだけ塩辛いように思えます。

「取り合わせを和洋折衷っぽくしてみたんだけど、どうかな?」

「美味しいです。鶏肉と梅っていいですね! 感動です」

「お、良かった。自信作なんだ」

「このラタトゥユも野菜のおいしさ抜群です!」

「実はそれ、アステリアが作ってお裾分けしてくれたやつでね。息子のお嫁さんが料理上手で嬉しいよ」

「カルミアさんとご結婚されたんです?」

「いや。実質もうお嫁さんだし……」

「ですね」

 ふと、最初に通った『魔術工芸学部フリースペース』の方から、なにやら騒ぎの声が。

「……リーネアさん、まだ戦ってらっしゃるのでしょうか」

「かも。なんせ、新顔を見せてくれるのがリナリアだとは誰も思ってなかったわけだし、みんなのテンションがおかしいのも仕方ないよ」

「普通に考えたら、恋人さんのいるカルミアさんが可能性高いですもんね……」

 カルミアさんとアスさんは素敵なカップルさんですが、お二人とも奥手でもどかしくてさらに素敵です。

「カルも最近、プロポーズ考えてるらしくてねえ。俺とかシェルとか、ひぞれとかに相談中なんだよ」

「わー! 素敵ですね!」



  ――*――

「やん、可愛い……!」

「フレイ、早くビデオビデオ!」

「この子天使か何かかな!?」

 親戚みんな、ユーフォが自力横移動を始めただけで大騒ぎだった。

「ぁー」

 マットの上で転がるような動きでステラに近づき、抱っこを催促する。……めっちゃ可愛い。

 質問責めの疲労が軽減される。

「わ、わ……」

 ステラはまだ新しい義肢に慣れておらず、わたわたしている。

「支えてるよ。抱っこしてやれ」

「う、うん」

「ぁう」

 ステラの後ろに座り直して、ユーフォを抱くステラの腕を支える。

「…………。リナリア、これ、どきどき、する……」

「? 俺は心地いいけど」

 二人の体温で温かいし、なんか安心する。

「はう……リナリアずるい……」

 叔母さんが写真を連写しているのが視界の端に映るが、無視だ無視。あの人らに文句は通じない。

「そういや、ユーフォの誕生日っていつ?」

「……7月24日……」

「夏か。で、今は8ヶ月くらいか」

「気にする?」

「するよ。誕生日はきちんと祝ってやりたい。……ステラは?」

「……4月20日」

「来月じゃん。聞いといてよかった」

 何贈ろうかな。楽しみだ。

「…………。リナリアは、いつ?」

「俺は2月8日」

 答えると、ステラが雷に打たれたような顔をした。

「!! す、過ぎてる……!」

「別に気にしないけどなあ」

「……それでも何かしたかった……」

 優しいなあ、ステラ。ますます好みだ。……婚約指輪、考えてみるか。

「ユーフォが俺へのプレゼントだよ。お前とユーフォが来てくれてすごく嬉しい。ありがとう」

「…………」

「……ステラ?」

 ステラが固まってしまった。

 ユーフォはオムツも替えてミルクも飲み終わったから、うとうと寝ている。

「……まあいいか」

 幸せだから。



  ――*――

 パソコンを開いて、アルバムアプリを見せてくださいました。

「……ラーナから大量の画像が……」

「ステラさん、リーネアさんとらぶらぶですね」

 寄り添うご夫婦の腕の中には娘さん。微笑ましい図です。

「あのアホ息子はまたも無意識で爆弾ぶちかましたか。ステラ真っ赤だ」

「爆弾、です?」

「思ったことなんでも素直に言っちゃうから、女の子の見た目とか気遣いとか躊躇なく褒めるんだよ」

 なるほど。いつもの天然毒舌は素直ゆえのことで、素直に褒めたいと思えば褒め言葉もストレートに炸裂するのですね。だから爆弾……

「死ぬのは嫌でも怖くもないけど……子供たちの行く先を見られないのは、ちょっとだけ残念かな」

「……オウキさん、もう一通いけます」

「…………」

 手を繋ぎます。

 一度繋がったのなら、もはや簡単。

「ファレノプシスに手紙」

「……末っ子さんですか?」

「うん。薬学に長けた子でね。今はアメリカの研究所にいる」

「すごい」

「テンション上がったまま俺が作った人工生命。ひぞれと仲良し」

 ファレノプシスさんへの温かな想いが、私の手を通じて綴られていきます。

「……奥さんには、書きますか?」

「あはは、大丈夫だよ。妻はもう先に……でも、俺が行く場所はきっと地獄だから、会えないかもね」

 首を横に振ります。

 そんなことする神さまは不公平です。

「神さまって元来不公平なんだけどねえ」

 困った顔で木のナイフを出しますが、私も糸を引っ張って応戦します。

「なに、しおりん」

「書いてください。渡せなくてもです!」

「……。そ。なら甘えさせてもらうよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る