駆け引きの成功確率

「父さん。私は教員採用試験を受けます」

「……どうしたんだい、我が娘?」

 教員室で休んでいると、ルピナスがいきなり来て宣言した。

「父さんの代わりを務める。そのためには今から修行が必要だ。なので、父さんが元気で動けるうちに伝授してほしい」

「…………」

「人手不足なんだし、いいでしょ?」

「……そうだね」

 娘の頭を撫でる。

「教員募集の申し込み、大伯母さんが持ってるよ。あとでもらっといてあげるね」

「……父さんはここで何してるんだい?」

「入学式のイベントの裏方だったんだけどお……みんなに寝てろってここに閉じ込められちゃってねえ」

 少しふらついただけなのに。

「…………。父さん、自覚ないっぽいけど、最近変だよ」

「そう?」

 至って元気なんだけどな。

「大人しく元気にしててよ」

「どっちなのさ」

「孫もいるんだし、成長見届けようぜ」

「うん。あと50年あるもんね」

 もしかしたら、その間に他の孫も産まれてるかもしれない。

「50年を超えたいとは思わないの」

「……」

 言いたいのは、要は最初から最後までそういうことなんだろう。

「私たちは父さんに生きててほしい。……今すぐじゃなくていいんだ。リミットが近づいてきても、やっぱり生きてたいって思った時でいい。ありとあらゆる天才に頼ったらきっと、なんとか……」

「そうだねえ。その時までに考えるよ」

「…………」

 話を打ち切って、椅子代わりにしていたベッドから立ち上がる。

「大伯母さんのとこ行こう。そろそろ戻ってるだろうしね」

「それは私一人がもらいに行く。私が受けるんだから、私がやるの。……父さんと話したい」

「……じゃあそうしよう」

 ルピナスは不思議なことに俺を慕ってくれている。俺もルピナスが愛しい。

「ルピネちゃんとの仲は進展したかい?」

 まずはジャブを確実に入れていこう。

「なにゃっんでその質問なの!?」

 会話の主導権を握っとかないと、さっきみたいな話の流れになっちゃう。

 急いで畳みかける。

「シェルから、定期的に『娘がお世話になります』のメールが来てたんだよお」

「筒抜けだうわーん! シェルのバカああ!!」

「モネちゃんからは『ルピネが幸せそうで可愛いです』って」

 恋する乙女なルピネちゃんの横顔ショット。

「なんでモネさんは父さんに送るの!? 恋人は私だよねえ!?」

 泣いちゃった。やり過ぎたかな。

 宝石に変わる前に、タオルで涙を拭ってやる。

「ルピネちゃんが『ルピナスの前では凛とした私でありたい』だそうだから、ゆるゆるなルピネちゃんが見たかったら同棲するくらいしか手立てないんじゃない?」

「うう……頑張るう……」

「頑張れ」

 同棲をシェルが許すかは別として。

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