会合×2
「座敷童は、領域を決めて陣取る《魔するもの》。ただし、領域の境目は曖昧。陣取るためのアーカイブも不詳。特性である運命操作についても、不詳。……以上、何か思い浮かぶことは?」
「はーい、しっつもーん」
カノンはだるそうに手を挙げて発言する。
「種族として分類されていないものを《魔するもの》、《幻を往くもの》、《神に至るもの》の3つで分類しようとするのは変だと思いまーす」
「そこについては俺も自分で不愉快だ。……が、分類しなければ言語による議論すら不可能。お前が代替案をこの場で提案できない限り、希望に沿う表現はできない」
「……はーい」
不服そうながら頷いた。
「次。……不詳っつってんならさ。父さん大体わかってんじゃねえの?
俺は神を相手に嘘をつくことができない。
それは末席ながらも死神である息子が相手でも同じこと。
「わかっているが相談はしたい」
「責任の分散?」
「まさか。俺がそうするのだから、俺が背負うしかないだろう。……だが、智咲は未来ある若者で、これから大学に入って社会を経験していく。俺一人の判断であの子の人生を傾けるわけにはいかない。信頼できる人物に意見を聞いて回っている」
「なるほどね。……俺に聞くのは悪手だと思う」
「統計に則って考えるつもりだから気にするな。余程なデータでない限りは収集するつもりだ」
「あっはっは。父さんじゃなかったらぶん殴ってる」
カノンはマドレーヌを食べる。
「味はどうか?」
「……ベリーの香りがいい感じ。母さんが焼いたやつ?」
「うん」
「そう思うとなおさら俺も茶会行きたかった……母さんのロールケーキ……」
「取っておいてくれているから、後で食べなさい」
「……わかったよ。ってか、女所帯にタウラってねえ。あいつの皮一枚は、分厚いけど剥げば化け物なのに」
「お前より社会に適応している」
「ザクザクぶっ刺すのやめろ。ピンクのは桜?」
「美味しい」
アネモネがつくる料理はなんでも美味しい。
「タウラには聞かなかったの」
「相談したところ、『僕では智咲さんの人格が崩壊してしまいます』とのこと」
「……まあ、そうなるか。ほんと、父さんの《神成り》、遡及性がないの不便だよな」
「制約があるから神話の記号は強い」
語られた神は、その伝承を知る者がいる限り永遠を得る。神話が集合無意識に当てはまるようなアーキタイプならばなお強い。
ただし、語られたからには変更は不可能。曲解や掘り下げの余地があるのとはまた別だ。
「お前の死神ビームもそうだろう?」
「うっ……」
クリスマスに庭に大穴を開けたカノンがおし黙る。
「……だ、だって……あの二人がわがまま言うことなんて、夢物語をわいわい話すなんて、ないじゃんか。家に温泉があったらいいなあってさ……子どもらしくて可愛くて、つい」
「そこについては俺も嬉しかった」
結果は、窓から見える庭に小さな和風旅館が建っていることで察してほしい。
「……だが、お前が源泉の推測位置の図面を持ってきてくれていたら、また違ったと思わないか?」
穴を埋め戻すのに3週間かかった。
「ごめんなさい……」
「下手な鉄砲を撃ち放すのも戦略だが、お前には頭があるだろう。それとも中身は空か?」
「そんなに蒸し返さなくてもいいじゃんかよ!」
「今日の朝、書庫の扉が吹き飛んでいたのだが……防護術式のかかった蝶番ごと引きちぎる火力があるなんて誰が犯人なんだろうな。魔力の残滓でも調べて――」
「誠に申し訳ございませんでした」
――*――
「アパート経営ですか」
「お祖母様の跡を継いで……立派なお心がけですわね」
「あ、ありがとうございます……」
「これから難しくなってくるでしょうから、学んでいくのは良いことだと思います」
お茶会とは名ばかりの、あたしの進路相談会になってしまっている。
「……おばあちゃんにも同じこと言われたんです。厳しくなるって」
タウラさんがあたしを見て微笑む。
「どうしてだと思いますか?」
「え……け、景気?」
とっさに適当に答えてしまったけれど、タウラさんは優しく頷いてくれた。
「景気の低迷は不動産において打撃ですね。家賃敷金、引っ越し費用。景気が悪くなると、人は大きな買い物は控えようとするものです」
「そ、そっか」
コウもやりくりが厳しくなってくると財布の紐を引き締めていた。
ルピネさんも一言。
「あとは少子高齢化かな。智咲のあのアパート、家族向けだろう?」
「うん。4人くらいまでなら、今までも暮らしてるご家族さんが居たわ」
「子どもが減ってくると入居者が減るだろうし、高齢化が進むと大掛かりな引っ越しも減る」
「うう……」
わかってたけど、ほんとに厳しいなあ。
「ですが、経営とはアイデア一つで大きく変わるもの。そのアイデアを絞り出すための知識を学びに大学に行くのでしょう? 応援しておりますね」
「ありがとう、ノクトさん。そうよね。とにかく、寛光で頑張るわ」
あたしの進路から話は移り変わり。
「ルピネ、ルピナスとはどうなの?」
「ごぶふっ!」
ハノンさんが妹であるルピネさんに爆弾を投げかけた。
「えっ……付き合ってるの!?」
ルピナスさんは、ルピネさんにプロポーズを連続でかます美女だ。鈍いルピネさんに通用してなかったけど、ついに想いが届いたのか!
「そ、の……あの。で、デートは、している……」
「あら。お泊りをなさっていたのに進展はないのですか?」
「……うう」
「キスしたいって言ってたものね」
「あ、姉上もノクトも、いじわる……」
やだ、ルピネさん超可愛い。
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