終.4月上旬

妖精家族

「ユーフォはもっちりだな」

「ぁーゅぉぁ」

「どうやって発音してんだ、その声?」

 膝上の娘は相変わらず謎声を発している。

 機嫌がいいっぽいのはわかるけど、なにを俺に訴えてるのかは分からん。

「リナもなんだかんだでデレデレじゃないか」

「うるせえ」

 双子の兄:カルミアはにやにやと笑っている。

 自分と同じ顔だから、鏡の中の自分が笑っているみたいな妙な気分になる。

 カルの嫁さんのアステリアが俺をつつく。

「離乳食、準備終わった」

「お、ありがとな」

「いえいえ」

 アスはステラと気が合うらしく、ミルク作りと離乳食作りをステラと仲良くこなしていた。

 二人のそばのマットにユーフォを置き、食事台付きのベビーチェアに固定する。

 お座りが安定するようになった娘が可愛い。

 カルはけっこうデレデレな感じでユーフォに話しかける。

「こんにちは、ユーフォ。伯父さんですよ」

「ぁー!」

「ご挨拶してくれるの? ありがとう。元気だよ」

 なんでお前言ってることわかるの。

「いや、僕……種族判定は人間だけど、能力自体はユングィスとレプラコーンのいいとこ取りっていうか」

「死ね」

 手刀を腹めがけ振り抜く。

「シームレスに殺意振るうのやめてくれるかな!?」

 いいもん。

 ユーフォと長く接するのは俺とステラなんだから、誰より先に肉声で会話してやる。

「かわいい」

「ぁう?」

「……いいこ」

「アスさん、補助……ありがと。です」

「ステラは将来の妹だから」

「はう……」

 ステラもアスも雰囲気と性格が似てるし、仲良くできそうで良かった。

 ユーフォはステラのスプーンから離乳食を飲み込み、もむもむと味わっている。

「美味いか?」

「ぁう」

 満足げで可愛い。

 カルは笑いをこらえつつ、食べたものを記録してくれていた。

「固形っていつから食えるんだ?」

 現在の離乳食は塊になったヨーグルトくらいの固さだ。

「個人差が大きいかな。この次は歯茎で潰せるような……バナナと同じくらいの固さにしていくのがいいよ」

「ぁー」

「『わたしは早くお父さんお母さんと同じものを食べたい』だって」

「通訳してんじゃねえよ腹立たしい」

「だから攻撃するなって」

 俺たちの諍いをよそに、ステラは黙々とユーフォに飯をやっている。

「……ん。頑張ったね」

「ぁふ」

 離乳食を食べ終えたユーフォを撫でた。

 ベビーチェアから抱き上げて、膝の上にお座りさせる。

「……ステラ、好き。ワタシの妹」

「ひゃわ。アスさん、いい匂い……」

 アスはステラを正面から見つめて、ユーフォを撫でている。ああ見えて大人数の弟妹をまとめるお姉さんだから、面倒見がいい。竜だから家族とみなしたやつへの愛情も深い。

「可愛い妹が増えた。何かあったら、頼ってね」

「は、はい……!」

 なんか変な空気になってる気はするけど、ステラが幸せそうだからいいかな。

「ぁー!」

 ユーフォの雄叫びに、カルはなぜか苦笑していた。

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