収束
ノクトお姉ちゃんに髪を洗ってもらって、カナコに髪を乾かしてもらった。
僕はミズリがくれた可愛いパジャマを着ている。うれしい。白い服じゃない。
「♪」
お父さんは僕をお膝に乗せて本を見せてくれる。部品が複雑に噛み合ったからくり。
「これ、なに?」
「時計だよ」
「すごいね。お父さんもつくれる?」
「うん」
「すごい!」
僕のお父さんは魔法使い。
指先と頭脳ですごいものたくさん作って僕に見せてくれる。
「こらこら。そんなに暴れたら落ちちゃうよ」
「ごめんなさい」
お父さんはお仕事でいなかったから、一緒にいられるの、嬉しい。
「お父さん、ずっとそばにいてね」
「……うん。そばにいるよ」
「ん」
撫でられるの好きだ。
大好きなお父さん。研究所でも、こんなに長く一緒にいたことはなかった。
ミズリやコウタみたいに優しいお兄さんと会うことも、ノクトやカナコみたいなお姉ちゃんに構ってもらえることもなくて。
「ほんとう、夢みたいだ」
「…………」
「……お父さん。わがままに付き合ってくれてありがとう」
僕に魔法は通じにくい。
スペルを弾いてしまうコード持ちであることもそうだが、この手の精神と体に作用して効力を発揮するものはさらに相性が悪い。
だって僕は、何でもかんでも覚えている。……違和感に気づいてしまえばあっという間だ。
体が戻る。
――足はなくなる。
「…………」
元の自分のパジャマをワンピースのようにして着ていたからちょうどいい。……今は義足をつけていないから、足はない。
お父さんは僕を抱きしめたままだ。
「僕は一人でお風呂に入れるし、注射も……今は怖くない。お父さんに頼らなくても、歩けるよ」
「……わかってる。大学で、ずっと見てたよ。立派な大人だ」
いろんな言葉を飲み込んで、ただ賞賛してくれる。
「自分一人でも進めるようになった。……人見知りも甘えん坊も見せなくなったね。人を助けられるくらい、成長して……」
またいつか出会えた時に褒めてもらいたいと思って、研究所での扱いにも耐えた。
甘えたら子どものままだってお父さんに思われたくなかった。
「ボクはひぞれに甘えて欲しい。頼って欲しいよ。……甘やかしたり褒めたりしたい。父親らしいこと何もしてあげられてないんだもの」
「……」
「ダメ……かな」
僕のお父さんは人たらしだ。
「ん……」
もぞもぞと体勢を変えようとすると、お父さんは僕の体を抱き寄せて正面に向き直らせてくれた。
「……みんなにお礼を言わなくては」
「ボクからもお礼しなきゃ。……夢の時間をくれたから」
幼い心のままにお父さんに甘えるのは、非常に幸せだった。……外聞を気にして抑え込んでいただけで、たまにふと甘えたい時があったりもしたのだ。
もしかしたら、勇気を出していれば、魔法と光太に頼らなくても叶った願いなのかもしれない。
「お父さん」
「なに?」
僕の髪を指で梳いている。昔から変わらない安心感。
「大学でも甘えていい?」
「うん」
「魔工に行ったら歓迎してくれる?」
「うん!」
「……ありがとう」
ほんとに、夢みたいだ。
「ひぞれ?」
「小さいとき思ってたこと、ぜんぶ、叶った」
当時でも『叶うはずがない』とわかっていたことが、幼い自分に起こったのだ。
今更傷つくようなことでもないと思っていたのに、痛くて嬉しくて、苦しくなる。
「大好き。ありがとう……」
「……。お礼なら、光太くんとミズリにも言いなね」
あの二人、それぞれで僕への魔法を長引かせてくれた。僕が夢を見続けられるように、束の間の幻想だとわかっていても……
「うん。言うよ」
僕の体内のスペルから魔法の有効時間を計算したアリスがメールを送ってきている。『光太も連れて病院に来い』と。
「……お父さんも、明日、病院、一緒に来てくれる?」
「うん。……ていうか、ちょうどボクも呼ばれてるしね」
「ん……」
嬉しい。
「お父さん、好き」
「ボクも好きだよ、ひぞれ」
涙をティッシュで拭く。
今日は、よく眠れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます