第43話

 


 一週間後、手紙での予告通りダティ男爵家が遊びに来た。

 滞在は二泊三日。

 しっかりおもてなしの準備も整っていた為、両親も新たに顔を広めるチャンスだと喜んで迎え入れてくれた。

 一応、招く前にダティ家の身辺調査をしたそうだが、むしろお互いに新しい事業に成功した者同士で懇意にしたいと判断したようだ。


 ――お父様って、結構狡(こす)い人だなぁ……。


 馬車による長旅も楽しんで貰えたようで、いつになくおめかしをした可愛いクルエラと一週間少しぶりの再会に少し嬉しくなる。

 ついつい率先とベルンリア領を案内したり、乗馬を楽しんだり、アジャスタ湖へ連れて行くと、この時期は特に観光客が多くて露天等もあって賑わっていた。


 ダティ男爵や、男爵夫人も私の案内に随分と楽しんで貰えたようで、その夜は私の両親と揃って晩酌をしたりと大人なりの楽しみも満喫していた。


「クルエラ良いの? 私の部屋で寝るなんて……ちゃんと部屋用意したのに」

「ううん、良いの。寮だと一緒に寝られないからこういう事してみたかったの」


 十分に楽しんだ夜、寝巻きを着たクルエラが枕を抱えて私の部屋を訪ねて来た。

 どうやら私とお泊り会みたいな事をしたかったようで、天蓋付きのセミダブルの私のベッドに横になりながらお菓子を広げてつまみながら、他愛もない話をした。

 殆ど話の内容は、学園長とのやり取りだったり、学園での話ばかりになったが、時折ベルンリア領での事を話した。

 随分と話し込んだ頃、そろそろ寝ようと明りを消してベッドに一緒に入ると一気に静かになる。


「……ねぇ、シャル」

「んー?」


 枕に頭を沈めて、使用人達が干しておいてくれたのかお日様の匂いがして気持ちよく深呼吸していると、クルエラが小声で話しかけてきた。

 お互い向き合うように横になりつつ、ふと修学旅行みたいだななんて思い出して笑い出してしまった。


「ふふ……」

「え? なに?」

「前世で学生の頃、学校のみんなで旅行するんだけどね……」


 修学旅行の話をすると、カーディナル学園でもそういう事あったらいいのにねと話した。

 きっと叶う事はないだろうから、仲の良いいつものメンバーで旅行出来るといいなと思いを馳せた。

 そして、先程声をかけられた事を思い出して話題を戻した。


「さっき何か用だった? 眠れない?」

「ううん、シャルはクリストファー様と進展したの?」

「え……!?」


 クルエラが目を細めて楽しそうに微笑む姿に天使かなと思いながら、ブランケットを顔の半分まで持ち上げて恥ずかしそうにしていると、引っ張られてしまい「はやく教えて」と笑われた。


「実は……、両想いで……」

「そうだよね」

「う、うん……それでね――」


 前に保健室でクリス様と私がきちんとシャルティエとして向き合えるようになったら告白して欲しいとお願いした事をクルエラに話すと「あぁー……」と低い声を出して枕に顔を埋めて声を殺した。

 私は不思議そうに首を傾げて「大丈夫?」と声をかけるとこくりと頷いた。


 言わんとする事はわかる。

 シャルティエと向き合うもなにも、私は実際シャルティエではないからだ。

 シャルティエの体を使った別の人間。


 ――こんな事言ったら、皆がどんな反応するか怖くて絶対に言えないけど。


 十六回も逆光に巻き込まれて、二年生を何度も繰り返していたのだから事実を知る権利はあるだろうから学園長から聞いているだろう。


「じゃあ、夏期休暇終えたらクリストファー様に話をするの?」

「うーん……、実は私が知らない間にクリス様を無視したりしていた期間があるみたいで、それに対しての事を思い出すまでは告白されても素直に受け入れられないかもしれなくて……」

「え? シャルが無視していたの?」


 こくんと頷くと、私になる前のシャルティエの言動などを思い出そうとしているクルエラをじっと見る。

 次第に何か思い出したのか、「そう言えば……」と始めた。


「あの断罪よりも前に、シャルがスティに何か説得しているような、お願いしているような所を見た事あるかな」

「説得……?」

「うん、内容までは分からないけど……。あ、スティ達ここに来るんだよね? 聞いてみたら?」


 何か思い出せるかと思い出してみたが、難しそうだったため諦めて眠ることにした。

 二泊三日を終えたダティ家は、丁寧にお礼を述べて名残惜しそうに馬車に乗って帰っていった。

 クルエラも休み明けは忙しくなると私に言い残すから、夏期休暇もっと長く続かないだろうかと居るかもわからない神に祈った。



2019/08/19 校正+加筆

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