第42話
そんなこんなで、父、母、クロウディア、そして私の四人はティーテーブルを囲っている。
人払いをしてしまった為、お茶を用意する者はいない。
正直早まったなとやってしまった感が否めないが、早々に話を済ませてしまいたいと思った。
少し気まずげにしていると、お父様が切り出してくれた。
「それで、話とは何だ?」
「はい、もしかするともう気付いていらっしゃるかもしれませんが、私――」
そこまで言いかけて、なんて口にすればいいんだろうと言葉を詰まらせて今更になって悩んだ。
『シャルティエは消えて新たに転生した新しいシャルティエです。よろしくね』なんて馬鹿げている説明を信じてくれるだろうか。
今まで一度もそんな話をした事がなかったが、学園長が魔法使いである事を隠していたのだから、おそらく知られては不味い事だろう。
クロウディアが付いているが、だからなんだという話だ。
説明できないなら、彼女が突然カラスから人に変わったのだって……。
――変わったのだって?
改めて思い返す。
先程彼女が変身したところを上手く丸め込んだ感じがしたが、それならばこんなに平然としているのもおかしいと考えた。
そして、にこやかに笑うクロウディアの方へ見やる。
「……クロウディア、もしかして」
「はい、推考通りです」
目を閉じて天を仰いだ。
つまり〝魔法使いの存在を彼らは知っている〟のだ。
「お父様、お母様。私の事……もしかしてご存知なのですか?」
「……そうだ、先日学園長であるケヴィン・トワイライト公爵閣下がいらっしゃってな。シャルティエの話を聞いた。〝大切なお嬢様をこのようにしてしまい申し訳ありません〟とな……」
「……貴女が、向こうで風邪をひいて寝込んだ時よ」
そんな事まで知っているのかと口に出しかけてやめた。
知っていてこんなに歓迎して出迎えまでしてくれたのかと思うと、鼻がつんと痛くなった。
ここで泣いてはいけないと堪えて、目に浮かぶ涙を瞬きをして上手く乾かそうと試みる。
その姿を見て見ていられないと言わんばかりに、立ち上がったお母様が私の側まで来て肩を抱き寄せて頬を摺り寄せてくれる。
これが母の温もりかと味わって心が温かくなっていく。
ここに来て沢山のシャルティエを知った。
まだ思い出せない物は沢山ある、だからこそここで追い出されては困るからきちんと話をしなければならなかった。
――でも、この様子なら心配なさそうだけど。
「こんな、お父様とお母様とお呼びする事も烏滸がましい私ですが……娘として、受け入れていただけるのでしょうか……?」
「何を言っているの!?」
「っ!」
「そうだ……、お前は生まれてからずっとシャルティエだ。あの怖がりで引っ込み思案だった頃の魂が消えようとも思い出が消えなければ、お前の中のシャルティエが居るなら、私達の立派な娘だ」
「お母様、お父様……」
「学園長から話を聞いた。今学園で起きている事を友人と協力して解決に勤しんでいると――こんなに誇らしい事はない」
「っ……うぅ……うう」
もう涙が抑えられなくなった。
魂が消えようとも、思い出が消えなければシャルティエなのだ。
私もそれで良いような気がした――今は。
クリス様には以前「思い出さなくていい」と言われた、でもそれはきっとクリス様にとって嫌な事があったからだ。
私はそれと向き合うためにも思い出すが、それを彼に押し付けるつもりはない。
皆が私を受け入れてくれる。
それだけで十分だと今は思った。
「あり……が、とう……ございます……っ」
「シャルティエ、ほら可愛い顔が台無しよ」
お母様は私にハンカチで涙を拭ってくれるが、滝のように流れてくる涙を吸い込むには少し心許無いなと少し笑ってしまった。
それからはゆっくりと学園での話をして、クロウディアがここに付き添いで来たのはお父様やお母様が魔法の存在を確実に知らしめるための作戦の一つでもあったと後で聞かされた。
確かに先程のカラスから人に変わる所がなければ信じるのも難しかったかもしれないと言っていた。そこで学園長への仮ができたのかなと思ったが、きっとこれも魂を引っ張り出してきたお詫びだろうと良いように捉えることにした。
使用人達に顔を出して回ると、雰囲気の違う私に驚きはしたが、今の方が気に入ってくれたのか明るくなった私を喜んで受け入れてくれた。
「シャルティエ様、お手紙が届いておりますよ」
「……あ、クルエラからだ」
その翌日、クルエラから手紙が届いて一週間後にうちに遊びに来るという知らせが届き、早速お父様達に話しておもてなしの相談とお部屋の確保をする事にした。
2019/08/19 校正+加筆
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