第14話

 

 学園祭実行委員会を臨時設立する為の会議が、生徒会室で執り行われる事になった。

 スティが掛け合ってくれた日の翌日に、時間を作ってくれる事になりとてもありがたかった。

 グランツも逆行の被害者だからなのか、それとも愛すべき婚約者の頼みだからなのか協力的で助かった。


 ――クルエラに、砂糖を吐くほどのセリフを名演技していたのに、スティにはそういう事しないんだよね……。いや、でも……グランツがスティに口説いてるのは想像つかない。


 隣に座るスティをちらりと見た後、そのまま目の前に座るグランツに視線を向ける。

 先日寮の部屋にいた時も何というか、慣れ親しんだ空気って感じで見てられないような甘い空気は人前では醸し出さないのかもしれない。流石といった所だろうか。

 ……そして話を戻すが、この会議に参加しているのは、私とクルエラ、そして最初に掛け合ってくれたスティ、生徒会役員である会長のグランツと副会長のクリス様が並んで座っている。

 そしてさらにその隣には、レンズのない眼鏡をかけた体の小柄な男子生徒の二年生で会計担当のマルシェと、一見チャラい感じの軽さが見受けられる自称イケメン男子生徒の二年生、書記のホースだ。

 この生徒会室に、女子生徒がこんなに集まる事がないからなのか、すごい嬉しそうだ。

 マルシェとホースも攻略対象の為、クルエラと親密になられると困る人物だ。とは言っても、あの一件から距離を置かれているので関係のない話だが今はそれが都合いい。


 ――クルエラと攻略対象が仲良くないなら、それに越した事はない……か。


 会議とは言っても、物々しい雰囲気は無く、それどころか私の眼鏡が光の反射で、私の表情が更に物々しくさせていた――周りはそうでもないが。

 というか、これが原因で会議の話が一向に進まないのだ。


「シャル……ティエっ、……くくっ……そう怖い……顔をするなっ……くくく」

「グランツ王太子殿下? 私は怒っていませんし、怖い顔をしているつもりはありません。それに、こんなに明朗快活な性格なのにどうしたらそんな風に捉えられるのか心外です」

「王太子殿下呼びは……やめろ……っくくく……」

「まあ、確かにシャルは普段から明るい子だけどね……」


 眼鏡の反射ひとつでそこまで言われるのかと、小さい溜息を露骨にやってみせるが、その身動き一つでも周りの笑いのツボを刺激していた。

 私を擁護するクリス様の肩も震えていた。お前もかと、あえて口には出さなかった。

 私の呆れた様子にスティが耳打ちをする。


「貴女の……座っている席が、…っ……日に当たりやすいのよ。……いい加減、眼鏡を外したら? ……ふふっ……」


 あ、やっぱりそうなりますか。

 今まで頑なに眼鏡を掛けて地味な格好をしていたが、それもスティと私が仲良く並んでいて、グランツが女子に気移りしないようにと言う意味で地味な格好をするようにと父と母に言われてやっていた、という記憶が微かに残っている。

 しかし、間柄も良好だし、そもそもこの二人が他の幼馴染や女子生徒に気移りするような事もないだろうと今思えば思う。

 婚約確定のようなのでこの眼鏡も地味な格好も不要になってきた。


 ――眼鏡って肩こるんだよね……。事もないだろう


 最近はよく絡んでくるクリスバリアーが強すぎて、男子生徒から話しかけられる事もめっきりと減った。

 気の弱いシャルティエに、変な虫をつけないようにしたかった両親にとっての願いは叶えられたのだ。多分両親の目的は王太子夫妻(夫妻)の将来の心配よりこっちが本心だったのかもしれない。


 ――もう良いよね。今の私、気も弱くないし……いざとなれば跳ね除けられる……はず!


 でも意固地になって眼鏡をやり続けていただけに、改めて外すのも少し恥ずかしいと言うのもあった。

 何て言うか、長期間で化粧をしていたせいで今更すっぴんで出かけられないみたいな、そんな感じ。

 そんな事はお構いなしで、私の眼鏡の反射に対して笑いをこらえる会議室になかなか話が進まないわけだ。

 しかし、ここまで笑われてしまうと眼鏡を外してやらないと話が進まない。

 そこにいる人物全員が笑いをこらえているのに、どうしたことか私はそれを救ってやろうという気分にはならない。

 ちょっとした悪戯心がわいて立ち上がる。


「分かりました。では、私が窓際に立ちますので……そうすれば反射もないでしょう」


 妥協して、反射しないように影になるように座ればいいんだと窓に背を向けて立つと、それに油断したのか、紅茶に口を含んだグランツが私の姿を見るなりブフッと紅茶を吹き出した。

 はい、わざとやりました。

 それを皮切りに、全員が声を出して机に突っ伏して笑ってしまった。

 今度はなんだという振りで、目の前にかけられている額縁に入った絵のガラスに反射した私の姿をみて、自分も笑いをこらえずにはいられなかった。


 ――しまった。自爆した!


 そこには、今日は炎天下の異常で外の景色も見えない程の明るさだ。

 眼鏡をかけて澄ました顔をした私が後光を差しているように見えて、想像以上のシュールさにしゃがみこんで笑いをこらえた。


「もう! わかりましたよ! 外せばいいんでしょう外せば!」

「あははは、もう最初からそうしなよ~」


 笑い涙を拭いながら言うホースに、うるさい黙れと言いたい気持ちを我慢して眼鏡を外す。

 私はチャラ男は苦手なのだ。女の子を軽視しようというような感じが許せない。

 私の顔を、今度はまじまじと見る役員達とクルエラに、不思議そうに顔を傾げる。

 すると、ホースが立ち上がりこちらに手を差し出した。


「ねぇ、シャルティエちゃん、今度俺とデートしてくれない?」

「お断りし――」

「シャルは僕のだからダメ」

「残念ながら、私はクリス様の物でもありませんけどね」


 ぴしゃりと言うクリス様に、まだ物にもなっていない事実を突きつける為にすかさず否定すると、少し不服そうにしていた。

 それを見なかった事にする。

 案の定、そこそこ容姿のいいシャルティエに誰か一人はこういう反応をするとは思っていた。

 しかし、ホースのこの反応はクルエラが最初に生徒会室で会った時に言ったナンパな台詞だ。私に言うなよと半目で睨む。

 相変わらず話が進まず、その空気を壊すようにグランツが話を戻す。


「……それで、実行委員会の事だがクルエラに委員長が務まるのか?」

「それは彼女の力量次第ですので、出来ますとははっきり申し上げられません。彼女の努力次第かと……」

「ちゃんと頑張ります! このままだと、私のしてしまった事を償えないと思うので、せめてご迷惑をおかけしてしまった生徒会の皆さんの為にもなる事をしたいんです。自己満足かもしれません。でも、これ以上ご迷惑をおかけしないようにするので……」


 立ち上がって頭を下げる姿に改めて私は感心した。

 彼女の行動で今後が変わってしまうから、その様子は思ったより一生懸命に取り組んでくれるようで安心した。誠意が、私にも伝わった気がする。

 しかし、まだ首を縦に振ってくれないグランツにどうするべきかと考えた。

 彼はクルエラだけでは務まらないと考えているのだろう、それにこの提案をしたのは私だ。


「――私が、副委員長を務めるのでご安心ください」

「……まぁ、シャルティエが運営の中心に加担するなら大丈夫だろう」


 よしっ、と心の中だけでガッツポーズをした。


「では、実行委員会の拠点はここを使うといい。どうせ情報共有をする必要があるからな。生徒会はあくまで決行の可否を決める権限だけにしておこう。あとはそっちで何をするのか、どうするのか、何が必要か、あとは経費がどれくらい必要か等の事は全てお前達でよく検討してくれ」


 そこまでもう既に考えてくれていたのだろうか、すらすらと事項を口頭で言い上げていく。


「あ、グランツ様。もし学園長への報告がある場合は、実行委員会にお任せていただきたいのですが……ほら、手間は一つでいいと言いますか」


 報告をクルエラにさせないとこの計画は意味がない。

 私は咄嗟に意見をすると、すぐにそにグランツは頷いた。


「ん?あぁ、そうだな……。じゃあこうしよう、生徒会は実行委員会から頼まれた事のみ首を突っ込む事にする。今までは、こちらの仕事だったものだから手伝える事はいつでも言ってくれ。サポートはする。報告や確認はこちらではなく、学園長に直接行って貰うという事で構わないか? それならこちらの負担や手間も減らせて助かる」

「そうだね、僕もそれがいいと思う」


 元よりクルエラと学園長を引合せる為のものだからとグランツは把握しているが、私の味方をしてくれる何も知らないクリス様も頷いてくれれば残りの役員は頷かざるを得ない。

 上手く話が纏まり、実行委員会の臨時設立は無事に達成した。


 あとは、これからクルエラ一人で学園長室へ行ってもらい、実行委員会発足についての説明をしてもらうだけだ。


 多分反対はされないと思うが、反対された時はまた相談しよう。






2019/08/13 校正+加筆

修正等→シャルティエの後夜祭の後に清掃会の提案を削除しました。

修正ができていない話数が多く、今後物語で後夜祭の後の話が浮上すると思いますがスルーしてください。

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