第12話
クルエラの協力の為に、時折は相談相手としてお茶をするようになった。
お昼休憩には、私の教室へ来てスティと三人で昼食をとって情報共有するようになった。
しかし、話を聞いてみると未だに学園長のケヴィンと接触が出来ていないのだそうだ。
「うーん、そうですね。学園長室に突撃するわけにも行きませんからね」
「そう! そうなんです」
そう言えば、彼が出てきたのはゲーム上のイベントでは学園祭の時に挨拶と、体育祭の時、あとはグランツやクリス様の三年生の卒業式くらいだっただろうか。チュートリアルで出てきたくらいで、ほぼメインストーリーに出てこない。
学園内を歩き回る事はあまりしないようで、なかなか遭遇も出来なければ、クルエラのアプローチ攻撃も出来ないようでやきもきしているようだ。
「そういえば、私が転生してから学園長見てないなあ……」
「学園長室に居る事が多いみたいよ。グランツ様がそう言っていたわ」
なるほどと、お弁当を取り出す。
今日も、学生寮にある厨房の料理長がお弁当を用意してくれる為、スティと私はお揃いのお弁当を持っている。
入れ物は、籠のような物で私達が各々で選んでいる為、色違いでちょっとお揃い気分だ。
中身は、昨日のメニューの残りのハンバーグをサンドイッチの具として入れてもらえている。ちょっぴり贅沢気分だ。
貴族のお弁当だからといって、新たに作らないように指示しているから中身のラインナップは可能な限り前日の使い回すように言っている。
これでいい、食品を無駄にする事はあってはならない。
この世には、食べられない人もいるのに勿体無い事は言語道断である。
クルエラは、私の席の前の椅子を借り、机はスティと自分のをくっつけてお弁当を広げた。
「それでなんですけど、シャルティエ様に何かアドバイスを貰おうと思いまして。あ、いや、もちろん……エストアール様も何かあれば……」
「……そうね。思い切って何か大義名分を使って学園長室へ行くのがいいかと思うわ」
私は、サンドイッチをもぐもぐと口の中にある為回答が出来ず、その代わりに思いついた事をスティが返してくれる。
クルエラとスティは、お互いの事情が分かった上で和解と言う事になった。
すぐには角質が取れるわけではないが、関わっていくうちに仲良くなれるかも知れないからとスティも邪険にはしていない。心広すぎか。
クルエラの行く末で、私達も同じ時間を戻されてしまう事を考えるとそれだけは回避したかった――記憶が継承されるかは分からないが。
今のスティは、悪役令嬢ではない為、クルエラと喧嘩をするつもりがない。
一方的に、攻撃していたクルエラだけが気まずくなっている状態だ。
「スティ、つよい……」
「もう、何を言っているの? それで、肝心の大義名分なのだけれど……」
「――そうだ! 学園祭って、実行委員会とか結成して報告や確認には学園長室へ行く事も増えるだろうし」
「実行委員会……? それって生徒会ではだめなんですか?」
クルエラは、きょとんとしながら自作のお弁当なのか、玉子のサンドイッチをぱくりと一口入れてから、些細な疑問を持ちかけてまた咀嚼をする。
貴族あるまじき食事光景だが、学生なのだからそれくらいフリースタイルでも許されるだろう。
貴族でのお食事の時だけちゃんとすればいいわけだから、大丈夫大丈夫。
たぶん……。
「生徒会は多分、これからは体育祭と聖夜祭が控えてて忙しくなると思うし、ついでにそういうのを結成しておくと生徒会への負担も軽減されるし、生徒会役員への内申の偏りも減るだろうし、貴族生徒と平民生徒が協力して良好な関係を築けるようになれば多少は関係性も変わるかなーって……ここまで思惑あれば学園長先生もお許しが出そうじゃないですか?」
「確かに、生徒会は今までずっと忙しかったので前から何かあればいいとは思っていましたが……」
この二年生を、十六回も同じ一年過ごしていれば生徒会の事情もよく知っているだろう。
あと、それらしい事言っておけば認可も降りやすいし、何か理由を付けるか生徒会の人間を丸め込んで、ある程度協力してもらえれば生徒会公認の組織になる。
クルエラには実行委員長もやってもらい、一度はどん底に落ちた生徒からの信頼度も上げて、あの騒ぎでの落ちた内申も持ち直すだろう。
それを諸々に、ケヴィンのクルエラへの好感度も上げてもらう。
――きっと、上手く……行くかなぁ?
ヒロインパワーを信じよう。
そうだクルエラはヒロインなんだから大丈夫大丈夫……多分。
「それでクルエラ様には、学園祭実行委員会の委員長になっていただきます」
「はい――はい?」
「それで、上手く実行委員会の役員たちを束ねて貰います」
「えぇっと……?」
「今のクルエラ様は、一連の騒動のせいで内申が厳しいと思うので、生徒からの信頼度も回復すれば今後もやりやすくなるでしょう?」
「えぇ、……はい」
「実行委員長のクルエラ様は、学園長に学園祭運営していく為の報告や、確認など得なければいけない事があるでしょうから、この立場をうまく利用していきましょう」
「なるほど、シャルティエ様は私の今後の心配もしてくださったのですね」
最初は困惑していたようだが、私の思惑を聞いて納得してくれたようだ。
少し食の手が止まっていたが、すぐに再開した。
美味しそうに食べる姿は、本当に普通の女の子だ。
結構な資金を持つ男爵家のご令嬢だが。
隣で聞いていたスティは、うんうんと頷きながらも何かを考えているようだった。
「スティ? 何か考えでもあるの?」
「……そうね、ちなみにそれは誰が生徒会に提案して話し合いに持ち込むのかしら」
――そこまで考えていなかった。
クルエラが、グランツに頼む事はほぼ不可能だろう。
彼が二週目だとは言っても、あまり信用していないだろうし、それくらいの騒ぎを起こしてしまったのだから――状況悪化させたのは他でもない私だが。
罪悪感がすごいが、私から頼んで聞いてくれるかどうか分からないし、そもそもこの逆行に関して協力的になってくれるのかもわからない。
――この場合、スティが頼んでくれると嬉しいのだが……。
ちらりとスティへ視線を向けると、私のその行動が面白かったのか、手で口元を隠して笑いながらもう片方の手で私の肩を置くように叩く。
「わかってるわ。グランツ様に話を通しておけばいいのね」
「お願いします! エストアール様……! あぁ、なんてお礼を言えばいいか……」
「良いのよ、もし実行委員会自体が上手くいかなくても、来年度を越せるのであれば貴女には将来的に王太子妃直属の侍女にでもなって貰おうかしら」
「それでも構いません!」
「うふふ、冗談よ」
――この二人、思ったよりめちゃくちゃ仲良くないか?
いや、変な事に茶々を入れてしまうと怒られかねない為、敢えて見守るだけにした。
仲良さげに話すクルエラとスティを横目に、サンドイッチを食べきると、お弁当と一緒に用意してくれていた濡れたおしぼりで手を拭いてから、水筒に入った水を少しだけ飲んだ。
すると、休日は一度も遭遇しなかった人物の声が背後から聞こえてきた。
「なんだか楽しそうだね」
2019/08/11 校正+加筆
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