第54話 盗賊団と囚われの姫
「天才少女?」
「ああ。『ティアドライブ』の暴走を止めることができるのは、おそらく彼女だけだ」
デイジーのことを問われるままに語り終えた俺は、そのまま近くの瓦礫に座りこんだ。
「今すぐ助けに行くんだろう?」
「もちろんだ。……だがもしかしたらこれが盗賊ゴルディ最後の仕事になるかもしれない」
俺がぽつりと漏らすと、仲間たちの表情が一斉に曇った。
「俺が留守の間は、好きなようにやっててくれ。万が一、俺が戻らなかったら申し訳ないがゴルディ一家は自動的に解散だ」
「何を言ってるんだ、ゴルディ?まさか一人で行く気じゃないだろうな」
ブルが俺の決意を聞くなり声を荒げた。
「そのつもりだ。これは元々、俺の個人的な問題なんだ」
「個人の問題だと?それが何だって言うんだ。俺たちはファミリーだぜ?女の子が誘拐されたって言う事実に変わりはないだろう。一人でどうやって助けだすつもりだ」
「わからない。……ただ今回の目的は盗みじゃない。相手にするのもいつもの金持ち連中とは違って、軍隊まがいの奴らを抱える企業体だ。無事で済むとは思えない」
「やってみなけりゃわからねえさ。何とか戦いを最小限に抑えればいい。そうだろう?」
「……本気なのか?」
俺が質すと驚いたことに、全員が当たり前だと言わんばかりに頷いた。
「わかった。万が一、これがゴルディ一家最後の仕事になったら勘弁してくれ」
俺がそう告げると、ジムが「そうと決まったら早速、潜入の計画を練らんとな。当然『レインドロップス号』もいるじゃろう」と言い放った。
※
『タワーズロック』は高さ三百メートルの巨大な一枚岩で、内部はくり抜かれているらしいが詳しい構造は不明だ。たぶん地下からの潜入も難しいだろう」
「空からは?窓の類はないのか?」
「なくはない。かつて無人ドローンが接近を試みた際の映像がいくつか残っていて、その一つに興味深い物が映っている」
俺は辛うじて生きているディスプレイに、一時間近く探してようやく発見した映像を映し出した。それは一見すると岩の一部としか思えない突起だった。……が、角度を変えてみると地面の側を向いた面がシャッターのように開きかけているのだった。
「これが岩肌にカムフラージュしたダクトだと思われる。開閉するのはたぶん、一日に一度程度だろう。そのタイミングで接近すれば侵入できないこともない」
「岩肌を上っていくのは難しいぞ、ゴルディ。当然、監視カメラもあるだろうしな」
「それなんだが『岩
俺がそう口にすると、一同に戸惑いにも似た空気が広がった。無理もない『岩蜥蜴』は『夜行蛇』と同じ迷彩スーツで、急な崖や壁を這い上って侵入する時に使用する物なのだ。
「このダクトは地上からどのくらいの高さにあるんだ?」
「多分二百メートルくらいだろう。もちろん、監視カメラを避けて上る以上、かなりの遠回りになるだろうがな」
俺が憶測を述べると、いくぶんげんなりした空気が広がった。だが他に方法はないのだ。
「よし、それじゃあ三時間後に作戦開始だ。それまでの間に俺はダクトから先の内部構造に関する情報を集めておく」
俺が言い放つと、いつもと同じ――いや、いつも以上に力強い「了解」の声が上がった。
バーフロアから仲間たちが一斉に掃け始めた時、俺の目にふと気になる光景が映った。
ディスプレイ上に映っている『タワーズロック』の映像を食いいるように見ていたクレアの『見えない顔』に、どこかためらうような気配があった。良く見るとクレアの目線は岩の上に建てられている古代神殿風の建物、『天界の砦』に向けられているようだった。
「クレア……どうした。その映像が気になるのか?」
俺が問いかけると、クレアは「えっ?……ううん、別に」と、曖昧な笑みを寄越した。
「潜入に使えそうな『顔』を、いくつか見繕っておこうと思って」
そう言って出ていったクレアに首を傾げつつ、俺はデイジー奪還計画に思いを馳せた。
〈第五十五回に続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます