第42話 失われた技を求めて


「次の仕事は一人で行くだと?……どういうこった、ゴルディ」


 俺の話を一通り聞きおえたブルが、噛みつかんばかりの勢いで問い質した。


「ああ、そうだ。言っておくが今度の獲物は金銀財宝じゃない。とある実験道具の造り方を記した書類の一種だ」


「書類だと?いつからゴルディ一家は産業スパイに鞍替えしたんだ?」


「だからこいつは俺の個人的な潜入計画なんだ。他のメンバーは休暇扱いで構わない」


「仮に休暇だとしても一応、納得のいく理由をお聞かせ願えますか」


 シェリフが薬莢をつけた弾頭をテーブルに並べながら言った。


「実は、その書類にある製法で作られた器具じゃないと、俺が必要としている装置が作れないんだ。そしてその装置だけが今、『ティアドライブシステム』に起きている異変を止められるんだ」


「随分とでかい話だな、ゴルディ。お前さん、いつから学者になった?」


 ブルの指摘に俺は押し黙った。俺が今回の仕事に挑むのにはのっぴきならない理由があったからだ。


「実は俺の知り会いに優秀な技術者がいる。そいつだけが『ティアドライブユニット』を安定化させられるんだ。ただそのために書類を盗みだす人間が、俺の他にはいない」


 俺が事実をぶちまけると、ブルは「ふうん」と納得し切っていない表情になった。


「それじゃあなおのこと、人数がいるんじゃないのかな。その書類とやらがあれば、近頃のごたごたがおさまるんだろう?世の中がまともじゃないと、盗賊の出番も減るってもんだ。こいつは俺たち全員の問題だぜ。なあ?」


「そうね。先の憂いは消しておくに越したことはないわ」


 ブルの言葉にジニィも頷いた。俺は困惑しながらも、仲間の有り難さを噛みしめずにはいられなかった。この仕事を「依頼」してきたのは俺の古い知りあいで、デイジーの家庭教師を頼んでいる人物だった。


 ――デイジーの『研究』が、どうやら予定よりかなり早く完成しそうなんだ。


 ――というとまさか『リミッターシステム』のことか?


 ――そうだ。早ければ一週間以内にもプロトタイプの設計モデルが完成する。


 ――信じられないな。……俺に何か手伝うことはないか?


 ――それなんだが……じつはプロトタイプを完成させるにはあと一つ、どうしても足りない物がある。


 ――なんだ?


 ――『魔鏡筒』あるいは『デーモンシリンダー』と呼ばれる特殊な容器だ。


 ――『デーモンシリンダー』?


 ――失われた技術で作られた容器で、残念ながら我々には製造法がわからないのだ。


「……で?いったいどんなお屋敷に忍び込むんだい」


 ブルが身を乗り出すとノランが「馬鹿だなあ、書類がお屋敷にあるわけないだろう。ビルか研究所だよな?ボス」と鼻を鳴らした。


「いや、それがお屋敷なんだ。『クロフネ・インターナショナル』の会長、クロフネ・アレクサンダー・鬼兵衛の別邸だよ。敷地の奥にあるといわれる『隠し蔵』の中に『マキモノ』という形で収められているらしい」


「なんだい、その『マキモノ』ってのは」


 ブルがノランに「それみろ」という表情を向けながら問いを放った。


「アジアの古い書類の形で、長い紙を巻いたものらしい。そこに『魔鏡筒』の製造法が記されているそうだ」


「面白そうじゃねえか。蔵ってことは古いお宝がごまんと隠してあるんだろう?」


「それはわからない。とにかく重要なのは書類であってお宝じゃない。俺が個人的に受けた仕事のためにみんなを危険な目にさらすわけにはいかない」


「そう固くなるなって、ゴルディ。もしかしたらその『マキモノ』以外にも壺やら『カケジク』やらがあるかもしれないじゃないか」


 興奮気味にまくしたてるノランに、俺は「そう簡単には運ばないぜ」と釘を刺した。


「クロフネは住宅の警備に『ニンジャ』の部隊を雇っているという話がある。一筋縄でいく相手とは思えない。……悪いが今回、ジニィとノランはアジトに残っていてくれ」


「……待ってゴルディ。ここだけの話、お金持ちの邸宅には何度か忍び込んだことがあるわ。警備員との小競り合いだって経験がないわけじゃない。私なら大丈夫よ」


 ジニィが名乗りを上げるとノランが「ちぇっ、何だよ」と不満げに口を尖らせた。


「俺を除け者にしようったって、そうはいかないぜ。こう見えても潜入のプロだぜ」


「ノラン、これは遊びじゃなんだ。お前も大人なら聞き訳のない事を言っていないでちゃんとサポートに回ってくれ」


「――ふん、わかったよ」


「じゃあ、別邸の『隠し蔵』に潜入するのは俺とブルとシェリフ、ジニィの四人だ」


 俺が全員の顔をひとわたり眺めてそう告げると、ノランが「あとで俺を連れて行けばよかったって泣き言を言っても知らないからな」と言った。


 膨れてそっぽを向いたノランに俺は「留守の間、アジトを頼むぞノラン」と言った。


             〈第四十三話に続く〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る