第43話 俺たちは石かもしれない


「静かになったが、目的地にご到着か?ジム」


 車体から直に伝わってくる振動が収まると、俺は丸めた体のまま、端末に呼びかけた。


「ああ、お城かと思うような門の前に来とるよ。もう少ししたら使用人たちが丁重にお前さんたちを中に「運んで」くれるじゃろう。せいぜい怪しまれんようにするんだな」


 ジムとの通話を終えると俺は息を詰め、巨大な庭石に見せかけたスーツの中で次の展開を待った。こいつはX線で中をあらためられても中心まで石の反応が出る上、生体反応、熱源反応など不審感を与える気配を全て遮断する優れものなのだ。


「早くしてくれねえかな。身体が痛くってしょうがねぜ」


 屋敷内に運びこまれる四つの庭石のうち、けた外れにでかい石の中でブルが言った。


「贅沢いうな。庭に置かれちまえばこっちのもんだ。それまでは我慢しろ」


 俺が釘を刺すとブルは「しょうがねえな」と押し殺した声を漏らした。クロフネ邸で「ご購入」いただいた庭石は巨大なものが一つと中程度の丸いものが三つの計四個だ。


 ――ようし、一つづつ運びこめ。


 トレーラーのコンテナが開く音が聞こえた後、俺は自分が乗っている台ごとフォークリフトの爪に乗せられ、運ばれてゆくのを感じた。


 ――よし、四つ全部入ったな。門を閉めろ。


 巨大な門が閉ざされる音を庭石の中で聞きながら、俺はこれからが本番だぞと自分に言い聞かせた。しばらくすると、尻にずしんという衝撃が伝わって急に静かになった。


「どうやらついたようだな。あとどれくらい我慢すりゃあいいんだ」


「日が暮れるまでだ。あと数時間ってとこだな」


「勘弁してくれよ、体中の血がどろどろになっちまうぜ」


 ブルが泣き言を並べると、ジニィが「大きいなりをして、情けないわね」と言った。


「私は毎日柔軟を欠かさないから、身体の硬い殿方たちと違ってどうってことないわ」


「……ちっ、俺も美容体操くらいしておくんだったぜ」


 俺たち四個の『庭石』が他愛の無い会話を交わしつつ、変化を待っていると突然、身体の自由を奪っていた石の一箇所が裂け、果物の皮を剥くように頭が自然と外に出た。


「よし、監視カメラがこっちを向く前に急いで石から出て、あの松の根元に行くんだ」


 俺が囁くと同時に全員が行動を開始した。俺たちがすぐ近くの松に移動し終えると、しゅっと音がして『庭石』が元通りの形に戻った。


「これからどうするの、ボス」


「目的地の『隠し蔵』までは二十メートルそこそこだが、このだだっ広い庭の至る所にセンサーが張り巡らされている上、気配を殺した警備員や犬が隠れていやがる。下手に動線を誤ると半分も行かないうちに御用だ」


「じゃあどうやって『隠し蔵』に近づくの?」


 質問に答える代わりに、俺は雑嚢袋から異様に細長い寝袋状の物体を取り出した。


「こいつは『夜行蛇』といって暗視カメラ用の特殊迷彩を施したスーツだ。こいつに縦に連なって入ると、自動的にセンサーを避けて目的地まで移動してくれるってわけだ」


「ちょ、ちょっとまてゴルディ。俺の身体のサイズを考えてくれ」


 ブルが声を荒げ、無理だと言わんばかりに俺に詰めよった。


「大丈夫だ。このスーツの伸縮性はお前さんの想像以上だ。……まあ見た目は蛇が兎を丸呑みしたような外見になるかもしれないが、なに、ニホンという国にその昔、ツチノコっていう腹の一部が極端に膨れた蛇がいたそうだから、さほど気にする必要はない」


 俺が適当な方便を口にしながらスーツに身体を入れ始めると、ブルは「本当かよ。信じられねえな」と不平を漏らしながら、黒い蛇のようなスーツの内側を覗きこんだ。


              〈第四十四回に続く〉

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