第20話 初心者よ身体を張れ
『磔刑の木』の根元から姿を現したのは、いびつに波打った棒状の物体だった。
「なんだこりゃ。野犬の骨か?」
物体をためつすがめつする俺に、ジニィが両腕を掻き抱いて「わからない」と言った。
「ゲインズがこれを埋めたことは事実だけど、それ以上のことは知らないの」
「これが仮に『ティアドライブユニット』の効率を上げる何かだとしても、素人にはまず、理解できないはずだ。埋めておいても別に危険はないと思うがな」
「回りくどい言い方はやめて。私はこれを買ってくれる人を見つけて売ろうと思ったのよ」
「しかし埋めた場所が悪かったな。こいつは俺が預かっとくぜ、女詐欺師さん」
俺は腰のバッグに物体を収めると、ジニィにウィンクした。
「お好きにどうぞ。これで詐欺師はしばらく廃業。盗賊の下っ端に転職ってわけね」
自嘲めいた笑みを浮かべた後、ジニィが「それをどうする気?」と唐突に尋ねた。
「気になるか?盗賊だからって何もネコババするわけじゃない。元の持ち主に返すんだ」
「本気なの?ゲインズは探し物を返したからって謝礼をはずむような人じゃないわよ」
「礼など求めないさ。俺はただ、こいつがずる賢い連中の手に渡るのを阻止したいだけだ」
ジニィは信じられないという表情をこしらえた後「まあいいわ」と言った。
「言っておくけど、まだ生きてるとはかぎらないわよ。私と出会った時、すでに追い詰められてたみたいだし、どこかに監禁されてる可能性だって否定できないわ」
「そんなことは承知の上だ。何せやつはかれこれ十年近く、追われ続けてるんだからな」
「どうしてそんな昔のことを知ってるの?彼に会ったことがあるの?」
「俺はないが、俺の相方が若い頃のゲインズを見たことがあるそうだ。当時のゲインズは、ジョージ・マリウスという科学者の助手だった」
「クレアさんが?」
「ああ。クレアはそのジョージ・マリウスの手引きで瀕死の状態から生き返ることができたんだ。……もっとも奴の専門はエネルギー工学、つまり『ティアドライブ』の研究だがな」
「その助手がゲインズ……」
「マリウスは十年前から消息が途絶えているし、ゲインズも同様の運命を辿る可能性があるってわけだ。……さあ、このくらいでいいだろう。これ以上深入りすると、あんたも寿命を縮めかねないぜ」
俺は眉を寄せて考え込んでいるジニィに背を向け、戦利品を手にアジトに引き返した。
※
「どうだね、このコンテナは。見た目はコンパクトだが、後部ハッチを全開にすれば車の一台くらい、余裕で収容できるはずだ」
「上出来だよ。助かったぜ、ジム。このコンテナなら頭取を招待しても失礼はないだろう」
今日の仕事は終わりとばかりに煙草をくゆらせているジムに、俺は労いの言葉をかけた。
「他の小道具はまとめてこの木箱に放りこんである。オモチャの銃に警備員の制服、お宝を入れる袋、万事抜かりなしといったところだ」
「オーケー、リハーサルをして明日の朝、決行だ。今回は総力戦になるぜ。覚悟しとけよ」
俺は木箱の蓋を叩きながら、格納庫の隅で話を聞いていた盗賊仲間たちに檄を飛ばした。
「覚悟はいいけど、俺たち銀行強盗は初めてなんだぜ。多少のしくじりは勘弁してくれよ」
ノランがブルとジニィの顔を見ながら、釘を刺すように言った。
「どんな奴でも最初の時は初めてなんだ。しくじったらそれまでさ。いいか、俺たちはプロの盗賊なんだ。失敗して殺されるのはアマチュアだ」
俺が凄みをきかせた声で言い放つと、ふらりと姿を現したクレアが「そうね」と言った。
「ゴルディ、あなたも最初の頃は随分と危なっかしかったものね。大丈夫、多少の失敗は見逃してあげるわ」
「……エヘン、そりゃありがたいこって。とにかく明日の今ごろ、ここはお宝の山になってるはずだ。ケチな盗賊一家がわずか半日たらずで大金持ちってわけさ」
俺は咳払いを一つすると、明日の襲撃における役割分担について事細かく語り始めた。
〈第二十一回に続く〉
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