第15話 地下道の盗賊コンビ


「ねえゴルディ、ちょっとあれ見て」


 アジトの岩山に設置された監視カメラのモニターを目で示しながら、クレアが言った。


「なんだあれは……女か?」


 暗視カメラの映像に映し出されたのは、表札代わりにしている『磔刑の木』の近くでしゃがみこんでいる若い女と、その周囲をバイクで回っている見た目の悪い連中だった。


「そう、若い女性よ。どうやらこの辺のごろつきに絡まれてるみたいね」


 俺は改めてモニターを見た。こんな時間にこのあたりをうろつく女も女だが、だからといって見殺しにするわけにもいかない。俺はごろつきの顔を見極めようと目を凝らした。


「……待てよ、こいつら見覚えがあるな。……くそっ、ステッペン・ウルフの餓鬼どもじゃないか。まだこんなくだらないことをやってるのか」


 忌々しさに思わず舌打ちすると、クレアが「あなたが昔、煩わされた不良ね」と言った。


「そうさ。モヒカンだの髭面だのいかつい連中だが皆、俺より年下の餓鬼どもだ」


 ステッペン・ウルフは不良少年たちがこしらえたグループで、街の雑貨屋を襲ったり、旅人の身ぐるみを剥いだりと小さな悪事を繰り返している山賊集団だった。


「それにしてもあの子、どうして夜遅く、こんな何もないところにいたのかしらね」


「さあね、若い女の考えることなんて、俺にはわからないよ」


「で、どうするの?このまま獣たちの野蛮なふるまいをを眺めてるつもり?」


「どうするったってなあ。下手に助けて連中をこのアジトに案内するような羽目になっちゃあ本末転倒だぜ」


「あら、百万クレジットの賞金首にしちゃあ随分と腰が引けてるのね。どうってことないじゃない、アジトが知られるくらい。記憶を修正して街のゴミ捨て場に送り届ければいいのよ」


 恐ろしいことを平然と口にする相方に恐怖を覚えつつ、俺は両肩をすくめた。


「まあ、たしかにこのまま好き放題させておくのも癪だし、ぼちぼち助けてやるか。女の子も十分、怖い思いを味わっただろうし」


 俺はモニターから目を離すとクレアに「連中に近づくには何番出口がいい?」と尋ねた。


「……そうね、遠いところからこっそり近づくなら『磔刑の木』から離れた四番出口ね」


「オーケー、調子に乗ってるチンピラどもにちっとばかし、お灸をすえてくるぜ」


 俺はそう言い残すと、書斎を出て玄関ホールに向かった。ホールではノランとブルがカードゲームに興じていた。


「よっ、ゴルディの旦那。こんな時間に散歩かい?優雅なこった」


 ブルのからかうような口調を聞き流して俺はホールの隅に立った。足元にあるのは金属製の重そうな蓋だった。俺は壁のフックから先の曲がった棒を外すと、蓋を開け始めた。


「ちょっと、ゴルディなにやってんの?下水道の掃除?」


 ノランがカードをさばく手を止め、俺の元に近寄ってきた。


「人助けさ。……そうだ、ノランも来い。特別に俺の前を進ませてやる」


 きょとんとした顔で床の穴を眺めているノランに、俺はよそ行きの声で甘く囁いた。


「どうだ、可愛い女の子を悪党の手から助けてみたくないか?いっぱしの男になれるぜ」


「……なにをすりゃいいんだい」


 出口までの行き方を伝えると、ノランは複雑な表情のまま「わかった」と頷いた。


「地上に出たら周囲は真っ暗だ。いいかノラン、外に出たらまず地面に伏せて様子をうかがうんだ。なりの小さいお前さんの方がおそらく、敵からは見えにくいはずだ。いいな?」


「ああ、わかったよ。ただしどうなっても俺は責任持たないぜ、ゴルディ」


 あんたが指名したんだからな、と捨て台詞を残して穴に入ってゆくノランを、俺は生徒の訓練を見守る教官のような気分で見つめた。


               〈第十六回に続く〉

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