The 7th Year

「ゴ主人様には、好きな女の子はイラッシャルノデスカ?」

 夜中にゲームをしていると、急にノイドがそんなことを訊いた。

「は?」

 うっかりよそ見をした隙に、敵機の弾に当たった。あ、死んだ。

「……好きな女の子?」

 ゲームオーバーのおどろおどろしいメロディーが流れたので、コントローラーを放り出す。

「ハイ、ゴ主人様もモウ中学生というお年頃デスので、初恋のヒトツやフタツはおかしくないかと思いマシテ」

「どこでそんなことを覚えてくるの?」

 というか、初恋にふたつはおかしいだろう。

「先日、ウェブ漫画を閲覧エツランシテマスト、思春期ノ少年、少女の恋愛、いわゆるボーイ・ミーツ・ガールのジャンルがランキング一位に返り咲いてオリマシテ、その影響デご主人様にも何かしらの波及ハキュウがアルノカト」

「ちょっとストップ」

 思考が追いつかない。「何の漫画だって?」

「具体的事例を挙ゲルと、登校初日に通学路ノ曲がり角で美少女と衝突ショウトツシ、偶然同じクラスでバッタリ、またレアケースとしてトーストをクワえてても構いマセン」

「全然理解できない」


「……トイウ訳で、ゴ主人様におかれましテハ、今ノ所、異性間イセイカントノ恋愛関係への強い希求キキュウのようなモノは無い模様デス」

 ノイドの報告を聞いて、私はため息を吐く。

「……本当に?ちゃんと訊いてくれたの?」

「約束ドオリ、貴女アナタのオ名前は出さずニ、遠まわしデスが、きちんと確認シマシタ。好きな女性ノような方も、特にイラッシャラナイようデス」

「……ということは、逆に考えればチャンスでもあるってことよね」

 ぶつぶつ呟きながら、部屋の中を歩き回る。ノイドは座ってオイルを補給している。

「このオイルはとても美味ビミデスが、ドコのメーカーのものデスカ?」

「うちのパパが勤めてる会社のよ。新製品のサンプルだって」

「非常にエネルギー効率が良ク、コクがアリマス。本格的に市場に出回レバ、御社オンシャの業績ハ一層躍進ヤクシンスルデショウ」

「パパに言っとくわ。ありがとう」

 私がそう言うと、しばらくしてノイドがこう訊いた。

「私ニハ恋愛感情のようなモノが理解デキナイのデスが、どうしてゴ自分でゴ主人様に打ち明けラレないのデスカ?」

「打ち明けられるわけないじゃない!」

「オ隣ですから、いつでも当人に言える環境でアルカト」

「そういう問題じゃないのよ!ロボットにはわからないかも知れないけど!」

「……」

 あ、ちょっと言い過ぎたかな。

「……その、ごめんね。でも、考えてもみて。私の方が四つも年上だし、長いこと幼なじみだったし、いきなりそういうこと言うのも怖いし……」

「年の差ヲ気になさっているノデシタラ、生殖機能セイショクキノウ、及び交配コウハイ等の観点デハ何ノ問題もナイカト思われマス」

「せ、せ、せいしょっ」

 耳慣れない単語に口ごもる。

「……トコロで、オイルのオ代わりはアリマスカ?」


 ゆうべ、ノイドは何であんなことを訊いたのだろう。

 もやもやしながら、スマホの非表示画像フォルダを開く。

「……」

 画像を眺めながら、思わずため息を吐いた。

 スマホを買って貰ったばかりの頃に、隣のお姉さんに強引に撮らされたものだ。二人で写ってるのも何枚かある。

 最近のお姉さんはどんどん綺麗になってる気がする。それに、なんか……体つきもあちこちがふくよかになってるというか魅力的になってるというか特に胸の辺りがスゴイというかゴニョゴニョ。

 あんなに綺麗だと、もう彼氏がいたりするのかな。好きな人とかいるのかな。気になるけど面と向かって訊いてみるのは怖いし、何となく最近は気さくに話せてないし、とか何とかまとまりのない考えが頭の中をぐるぐる回る。


「あ、そうだ」

 我ながら名案だと思った。

「ノイドに頼んで訊いてもらおう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る