第8話 一夜
幸い、どの厳ついお兄ちゃんも追いかけてこなかった。最後はちょっと涙目になっていたからか、あっさりと包囲を開けてくれた。少しは哀れんでくれたのだろうか。あそこで気持ち悪がられたりしていたら、心が折れていたかもしれない。畜生め。
薄暗くなってきた。流石に危機感を覚える。こういった都市は治安維持のため、夜間の外出が禁止されている例がある。牢屋に連れて行かれ事情を聞かれるなどすれば最悪だ。なんせ言葉が通じない。糞王子みたいに突然斬りつけられるかもしれない。治安維持にあたる兵士が乱暴してくる、なんて事も考えられる。そんなとき、逃げ場のない牢屋なんて危険極まりない。
街の外に出るのも悪手だろう、まったく事情が分からない。実際に、この身体には獣に食われた形跡が残っている。あのときは、街から大分と離れていたとは思う。だからと言って、この街の周りが安全だとは限らない。
はぁ……、どうしてこうなった。
何度目か分からないため息をつく。取り敢えず、通りを街の外であろう方角に向かって歩く。噴水広場の周りは視界を遮るものがなく、ただ立っているだけでも目立つのだ。どこか身を隠せる目立たない場所があればそこで夜を過ごしたい。
20分ほど歩いた辺り、噴水広場からは1kmほど離れただろうか。道の先に城壁が見えてきた。ちょうど門が閉まるところだった。篝火に照らされた大門はなかなかの見栄えだ。そう言えば、2度目に召喚された建物は出入り口に扉がなかった。あれが城なら、防衛面に問題ありなんじゃなかろうか。この世界では長らく戦争がなかったのだろうか。そんな事を考えながら門に向って歩いていると完全に日が落ちた。
門の側は、人や馬車でごった返していた。行商人と分かる装いの人や、物騒なものを腰にぶら下げた厳ついお兄ちゃん達も居る。商人と護衛か、キャラバン隊と言う規模ではないが、似たような形で街を行き来しているのだろう。
馬車が続々と街の中心に向かう中、単身者や少数のグループの男たちが門脇の建物に入っていくのが見えた。中を覗くと雑魚寝スペースになっているようだ。すでに荷物を枕に寝入っている姿も確認できる。女性も居た! すぐに椿は女性の近くに場所を確保する。それからフードを被って横たわった。女性がちらりとこちらを見たがそれだけで、椿と同じように眠りに付く。
日が落ちてすぐ寝るとかずいぶん健康的なもんだ。そんな事を考えていたが、椿はあっさり意識を手放した。
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