第2話 糞兵士ども
未だに意識が途切れない。肩の傷はおろか、口から鼻からどばどばと血が流れ出している。これだけ血が出て、死なないはずがないのに。
只々、熱い。痛みで気が狂いそうになる。
何時間経ったのだろう、普通なら死ぬ傷の痛みを延々と味わいながら考える。苦しみもがく中、時折視界に入る右腕の傷口が淡く光っているように見えた。なんせ異世界だ、妙な力が働いていて、それが椿を生き永らえさせているのかもしれない。
(※※※※)
そんな考えを肯定するように、例の女の声が聞こえた。だから、分かんねーって!
荷車が止まる。いつの間にか、幌馬車のようなものに載せ替えられていた。痛みの中で目を配ると、周りは木々の鬱蒼とする林だった。
「※※※※※※※、※※※※※※※※」
「※※※※※※※※※※※※」
「※※※※、※※※※※※※※!」
荷台に男たちが上がってきた。中世をテーマにした映画などに登場するかのようなモブ兵士達だ。何やら、話し合いながら生ゴミを見る目でこちらを見ている。非常に嫌な予感がする。
「※※※※※※!」
「※※※、※※※※!」
「※※※※※※※※※※※」
「※※※!」
男たちは椿をぞんざいに抱えると、荷台の上から放り出した。汚いものに触れたあとのように手を振って、裾でゴシゴシ拭いているのがチラリと見えた。
落下の痛みも、傷の痛みも分からない。
朦朧と木の葉に隠れた空の中に、壮年の男の顔が割り込んできた。先程は見かけなかった顔だ、御者台にでも居たのだろうか。
「※※※、※※※※※※※※※※。
※※※※※※※、※※※※※※※※※※※※」
何かを語りかけたあと、腰の剣を抜いた。祈るような仕草をしてから、その剣を椿の胸に突き立てた。このまま放置されたら、獣に襲われるかもしれない。それとも、苦しむ椿に介錯をくれたのだろうか。
はじめから、こうしてくれればよかったのに。
(※※※! ※※※! ※※※※※!)
やっと途切れていく意識の中で、女の声が続く。
「ああ……! やっと繋がった!」
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