第3話 山田さんちの娘

 その日は、さんざん友達と遊んで帰ってきた。もう寝ている弟にお土産をねだられていたことを思い出し、適当にコンビニのお菓子で済まそうと玄関まで出た。そして、気づいたらここに居たのだ。


「なにこれ?」


 思わず座り込んだ。周りはおっさんだらけ、おおーとか、成功だとか、セイジョサマだとか、訳の分からない事を叫んでいる。周りは石造りで、すぐに教会やらヨーロッパのお城なんかをイメージできる、そんな建物の中に居た。聖女様? ラノベとかでやってる異世界召喚とか? まさか自分が?


 そんな事を考えていると、金髪で青い目をした男の人がやってくる。


「聖女様、我々の身勝手な召喚に応えて頂き感謝致します」


 うやうやしく跪いて私の手を取るイケメンに思わず見惚れてしまった。すると突然、何かに気付いたように表情を変えて叫びだした。


「なぜ○○がここにいる! 穢らわしい奴め!!」


 コスプレにしてはやけに重量感のある剣で、いつの間にか傍らに居た女の人に切りかかった。

 女の人は右腕を半ば切断されて倒れてしまった。あっという間に血まみれになる。

 ○○って何? 何もしてない女の人に! 突然! マジ! 信じられない!




 この女の人は、同じマンションに住む橘さんだ。間違いない。

 引っ越しの挨拶をしてから、度々お母さんと一緒に話す機会があった。背の高い人で、平均的な身長のお父さんよりも大分高い。たまに、大きな荷物と細長い筒を持っているのを見かける。薙刀をやっていると聞かせてくれた事がある。モデルと言われても納得するような背丈に合った見事な体型、プロポーションの持ち主だ。体育会系あるあるなのか、化粧はやけに薄く地味な顔をしている。声も低くて、もし女子校に居たら大変にモテただろう人だ。立ち振舞は男性的と言うか、完全に王子様のそれだもの。


 結構な稼ぎのある勤め先らしく、週末はほろ酔いの姿をよく見かける。出張のたびに、お土産をくれるのだ。そんなよく見知った人が、血まみれでのたうち回る場面に気が遠くなる。


「この穢らわしいのを捨ててこい、人の手では死なないらしいが北の森なら獣が始末してくれるだろう」


 人を切りつけてすぐにも関わらず、振り向いたイケメンは笑顔で、私の手をとって歩き出した。何が穢らわしいのだろう、よくある黒い髪に瞳は魔族だからってヤツだろうか。だとすれば恐怖しかない、私の髪だって染めているだけだもの……


「マーリンが目を覚ましたら呼んでくれ、聖女様の技能を鑑定しないとな」


 取り巻きに指示を出しつつ、廊下を歩いてゆく。そんなイケメンは極上の笑顔、上機嫌の様子だ。

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