僕らの行き先

「やっぱり、ダメだったか…」


急きょ参加することになった同窓会の日に面接に行った会社から結果が届いた。


不採用だった。


「あーあ…」


僕は不採用の通知をテーブルのうえに放り投げると、ソファーにのけぞった。


「その様子だと、ダメだったみたいだね」


椿が声をかけてきてマグカップを差し出してきた。


「うん、不採用」


僕は返事をすると、椿の手からマグカップを受け取った。


ヘーゼルナッツフレーバーのコーヒーを口にすると、僕は息を吐いた。


「もうダメかな…」


僕が自嘲気味に呟いたら、

「そう言うの、あんまり言わない方がいいよ」


椿が言い返した。


「まだ結果を待っている会社はあるんでしょ?」


「建築関係の会社と旅行会社だけどね」


どちらも履歴書を会社に送って連絡を待っていると言う状況である。


「ねえ、大地」


僕を呼ぶと、椿はテーブルのうえにマグカップを置いた。


「ちょっと話を聞いてくれるかな?」


そう言った椿に、

「別にいいけど」


僕が返事をすると、椿はジーンズのポケットから封筒を取り出した。


『津曲 椿様』


封筒の宛名には椿の名前が書いてあった。


「差し出し人の方を見て欲しいの」


そう言った椿に僕は封筒を彼女の手から受け取ると、差し出し人の確認をした。


『清水 楓』


そう書いてあった。


「清水楓(シミズカエデ)って、もしかして…?」


そう聞いた僕に、

「うん、お姉ちゃんよ」


椿は答えた。


「お姉さん、“楓”って言うんだ」


椿と同じ植物の名前だろうなとは思っていたけれど、本当にそうだった。


「お父さんが園芸関係の仕事をしていたから、私たち姉妹の名前を植物にしたんだって。


私は1月生まれだから“椿”、お姉ちゃんは10月生まれだから“楓”ってつけたの」


「へえ、そうなんだ。


中を見てもいい?」


「うん、いいよ」


椿が返事をしたことを確認すると、僕は封筒を開けた。


中から1枚の手紙が出てきた。


『椿へ


お元気ですか?


あなたのご活躍はいつも耳にしています。


突然のお手紙、申し訳ありません。


けれども、大切なことなので伝えさせてください。


この度、私は結婚をすることになりました。


来週の土曜日に挙式をします。


私のせいで椿が何度もつらい思いをしたので、式には行きたくないかも知れません。


だけども、大切な妹であることには変わりはないのでここに伝えます。


楓より』


手紙を読み終えると、椿が何かを差し出してきた。


それは、結婚式の招待状だった。


「それって…?」


「手紙と一緒に封筒の中に入ってた」


椿はそう言うと、招待状を指でなでた。


その様子だと、行くか行かないかと迷っているのかも知れない。


「お姉さん、誰と結婚するの?」


手紙を封筒の中に入れると、僕は聞いた。


「お世話になった心療内科の先生と結婚するんだって。


お姉ちゃん、あの事件の後に少しだけ情緒不安定になっちゃって…しばらくの間、心療内科に通うことになったの。


その時にお世話になったのが、その先生なんだって」


椿が答えた。


「初めて自分の話を聞いてくれる人が現れたって、お姉ちゃんはとても嬉しそうだった」


椿はそこで話を終えると、息を吐いた。


「椿は、お姉ちゃんの結婚式に行きたくないの?」


そう言った僕に、椿は首を傾げた。


「最終的に決めるのは椿自身だと、俺は思ってる。


行きたくないなら行きたくないでいいし、行きたいなら」


「行きたいなら…?」


「俺も一緒に行ってあげる。


1人で行って、お姉さんに会うのが怖いなら、一緒に行ってあげる。


ああ、これも椿が決めていいから。


もし1人で行きたいなら…」


「一緒に行ってくれるの?」


そう聞いてきた椿に、僕は首を縦に振ってうなずいた。


「お姉さんに“おめでとう、幸せになってね”って言いたいんだろう?」


そう言った僕に、

「うん、言いたい」


椿は返事をしてくれた。


「でも、いいの?


迷惑じゃないの?」


椿は不安そうに聞いてきた。


僕は首を横に振ると、

「迷惑じゃないよ。


むしろ、椿の役に立ちたいって思ってる」

と、言った。


椿はフッと微笑むと、

「もう充分、大地は私の役に立ってるよ」


そう言って、頬にキスをしてくれた。


それから首の後ろに両手が回されて、ギュッと抱きしめられる。


「うわっ…!」


椿の華奢なその躰を楽しんでいたら、ソファーに押し倒された。


「待て、昼だぞ」


そう言った僕に、

「昼と夜じゃどう違うの?」


椿が聞き返してきた。


「締切は?


少なくとも、もう近いんだろ?」


続けて言い返した僕に、

「とっくの昔に仕事は終わりました」


椿は答えた。


早いにも程があるだろ…。


椿莉子は仕事が早く、締切を落としたことがないことで有名なのだが…。


そう思っていたら、椿の膝が僕の脚の間に割り込んできた。


グッ…と膝でジーンズ越しに雄を押されてしまったら、

「――あっ、待って…」


僕はどうすることもできない。


一体、どこでその技を覚えてきたんだよ…。


椿は積極的になっている。


戸惑っていた最初の頃が今ではとても懐かしい。


椿の指がジーンズ越しから雄に触れてきたせいで、僕の躰がビクッと震えた。


「もう反応してる…」


椿はそう呟くと、僕の唇を自分の唇と重ねた。


やられっぱなしはごめんだ。


心の中で呟くと、僕は椿の服の中に自分の手を入れた。


ブラ越しに胸の突起に触れると、

「――あっ…」


椿はビクッと躰を震わせた。


そのまま彼女の背中に手を回して、ブラのホックを外した。


服とホックを外したブラを脱がせると、今度は胸の先に唇を触れた。


「――ひゃっ…ああっ…!」


声をあげている椿を見ながらジーンズを脱がせて、ショーツ越しから指をなぞった。


そこはもうすっかりと濡れていた。


「――あっ…やあっ…」


「もうこんなになっているのに?」


「――やっ、意地悪…」


「椿には言われたくないなあ」


ショーツ越しから蕾に触れたら、椿の躰は大きく震えた。


本当に弱いなあ。


そう思いながら形勢逆転させると、ずるりとショーツに指をかけてそれを脱がせた。


閉じて隠そうとする両足首をつかむと、大きく広げさせた。


「――ヤだ、こんな格好…」


「いい眺め」


恥ずかしさで赤くなっている椿に向かって僕は呟くと、敏感な蕾にくちづけた。


さっきまでの積極的なところはどこへ行ったのやら。


今では恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて僕を見ていた。


「――はっ、ふあっ…!」


敏感な蕾を舌先でツンツンとつつきながら、つぷり…と中に指を入れた。


「――んっ、ああっ…!」


くちくちと指を動かして中をかき回してやると椿の躰はビクビクと震えて、声をあげた。


この姿は誰にも見せたくないし、見られたくもない。


僕だけが椿のこの姿を知っていればいい。


「――やあっ、もう…!」


椿の苦しそうな声に僕は視線を向けた。


「――もう?」


そう問いかけた僕に、

「――もう、大地が欲しい…!


もう指だけじゃヤだ…!」


椿は今にも泣きそうな顔で訴えてきた。


自分でも無意識に、相当なまでに彼女を焦らしていたみたいだ。


だけども、

「――かわいい…」


そんな椿をかわいいと思ってしまっている僕は重症だ。


「――ッ、んっ…」


お互いの唇を重ねると、椿の中に興奮している雄の先を入れた。


腰を進めながら中へ中へと押し込みながら、椿と何度もキスを繰り返した。


「――あっ、ふあっ…!」


椿が僕の首の後ろに両手を回して、ギュッと抱きしめてきた。


腰を使って締めつけてくる中を突きあげたら、椿の躰はビクッと震えた。


椿の両足が僕の腰に絡みついてきた。


ま、マジか…。


と言うか、反則過ぎやしないか…?


両手両足が僕を離さないと言うようにしがみついている。


この仕草はヤバ過ぎるな…。


と言うか、どこで覚えてきたんだよ…。


「――大地…」


椿が僕の名前を呼んだ。


「――椿、愛してる…」


それに対して僕は名前を呼ぶと、椿と唇を重ねた。


「――んっ、ああっ…!」


腰を動かして中を突きあげながら、蕾に指を伸ばした。


「――あっ、あああっ…!」


指で蕾をこすると、椿の躰はさらに震えた。


「――ッ、んっ…」


雄を締めつけてくる椿の中が温かくて、とても心地いい。


正直なことを言うと、僕ももう限界だった。


「――椿…!」


名前を呼んで突きあげたのと同時に、

「――大地…んっ、あああっ!」


椿はビクンと躰を大きく震わせて、果てたのだった。


「――ッ…!」


その瞬間、椿の中が雄を強く締めつけてきて僕も限界に達した。


「――っ、はっ…」


荒い呼吸を繰り返して、熱を持っている躰を冷ました。


「――椿…」


額に唇を落とすと、椿はそれは気持ちよさそうに目を細めた。


まるで猫みたいだと思った。


椿を動物に例えるとするならば猫、黒い髪がよく似合っているから黒猫だなと僕は心の中でそんなことを思った。


「ねえ、大地」


行為を終えて躰の中にまだ残っている熱を覚ましていたら、椿が声をかけてきた。


「どうした?」


僕が聞き返したら、

「もし大地の就職が決まったら、その後はどうするの?」


椿が聞いてきた。


「えっ、何それ?」


意味がわからなかったので聞いたら、

「…就職が決まったら、ここを出て行くの?」


呟くように、椿が言った。


「ああ、そう言うことか…」


ハウスキーパーは就職先が決まるまでの繋ぎとしての仕事だった。


「椿は、どうしたいの?


俺にどうして欲しいと思ってるの?」


僕がそう言ったら、

「えっ?」


椿は首を傾げた。


「正直なことを言うと、椿から離れたくないって思ってる。


就職先が決まったとしても、椿と一緒に住みたいって思ってる」


椿が僕を抱きしめてきた。


「じゃあ、一緒にいてくれるの?」


そう言った椿に、

「うん、一緒にいたい」


僕は首を縦に振って返事をした。


椿は嬉しそうに笑うと、僕と唇を重ねた。


「――ッ、んっ…」


椿は唇を離して僕を見つめると、

「もう1回、シよう?」

と、言ってきた。


「えっ、マジですか…」


積極的過ぎるその誘いに、僕は戸惑うことしかできなかった。


「ダメ?」


首を傾げて見つめるその仕草は小悪魔そのものだ。


「ダメじゃない」


僕は答えると、今度は自分から椿と唇を重ねた。



その日、僕と椿は彼女のお姉さんの結婚式に出席するため、Y県を訪れた。


そこは片田舎の雄大な景色と空気がとてもキレイなところだった。


ここで椿のお姉さんは療養も兼ねて生活をしているのだと、椿から教えてもらった。


確かに騒々しい都会と違って躰だけじゃなくて心も癒されるなと、僕は思った。


電車に乗って15分ほどの駅に到着して、そこから5分ほど歩くと、教会が僕たちを迎えた。


ここで椿のお姉さんが結婚式を挙げるみたいだ。


「椿」


名前を呼んで、僕は椿に自分の手を差し出した。


「うん」


椿は返事をすると、差し出した僕の手を自分の手と繋いだ。


話によると、お姉さんと会うのは8年ぶりなのだそうだ。


久しぶりの対面に椿が緊張しているのが繋いだ手からよくわかった。


教会の中に足を踏み入れて職員に事情を説明すると、控え室へと案内してくれた。


職員がいなくなると、椿は深呼吸をした。


「大丈夫だよ、俺がいるから」


そう言った僕に椿は首を縦に振ってうなずくと、控え室のドアをたたいた。


コンコン


「はい」


中から返事が聞こえた。


椿は意を決した様子でドアノブに手をかけると、ドアを開けた。


そこにいたのは、純白のウエディングドレスに身を包んだ女性だった。


彼女が椿のお姉さんの楓さんなんだと、僕は理解した。


「――椿…」


楓さんの目は大きく見開かれていて、とても驚いている様子だった。


目鼻立ちが整っているその顔立ちは、まるで人形みたいだと僕は思った。


椿が儚い雰囲気の美人ならば、彼女は気が強い感じの美人と言ったところだろう。


「お姉ちゃん…」


椿はそう呼ぶと、目を潤ませた。


「会いにきてくれたの…?」


そう聞いてきた楓さんに、

「うん、会いにきた」


椿は首を縦に振ってうなずいた。


「ちゃんと言いたいと思ったから、会いにきたの…」


椿は潤んだ目で微笑むと、

「お姉ちゃん、結婚おめでとう」

と、言った。


「――ッ…」


楓さんは手で隠すようにして口元をおおった。


彼女の目から涙がこぼれ落ちた。


「お姉ちゃんのせいで嫌な思いはいっぱいしたけれど…私、お姉ちゃんのことがずっと大好きだから。


お姉ちゃんの妹でよかったって思ってる。


だから…」


椿はそこで言葉を区切ると、

「幸せになってね、お姉ちゃん」

と、言った。


「――椿…ありがとう、椿…」


楓さんは泣きながら椿にお礼を言った。


そんな彼女たちに僕も泣きそうになっていたと言うのは秘密だ。


結婚式は、新郎新婦の親しい人たちだけが招待されていた。


「おめでとう!」


「幸せになってね!」


彼らからあがる祝福の声に2人は笑っていた。


楓さんの夫だと言う心療内科の先生はふくよかな容姿の人で、とてもいい人なんだと言うことを直感した。


「お姉ちゃん、おめでとう…」


祝福される2人の姿に椿は泣きながら、祝福の言葉を呟いた。



駅へと足を向かっている帰り道で、

「お姉ちゃん、とてもキレイだった」


椿が話しかけてきた。


「お姉さんの夫になった人、とてもいい人なんだなって思ったよ」


僕がそう言ったら、

「やっぱり、大地もそう思った?」


椿が嬉しそうに同意してきた。


「うん、そう思った」


僕は返事をした。


「椿」


僕は名前を呼ぶと、椿の頭に向かって手を伸ばした。


「よく頑張ったよ」


頭をなでながら褒めると、

「ありがとう、大地」


椿は笑ってくれた。


「次は俺たちの番かも知れないな」


そう言った僕に、

「えっ、もしかして…?」


椿は信じられないと言った様子だった。


「いつになるかはわからないけれど…その時がきたら、俺と結婚してくれるか?」


椿の目に涙が浮かんだ。


「…私で、いいの?」


そう聞いてきた椿に、

「一生をかけて、椿を幸せにする」


僕の答えに、椿は首を縦に振ってうなずいた。

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