酔った勢いでの告白

「たら~いま~!」


フラフラとした足取りで僕は家に帰ってきた。


パタパタとリビングの方から走る音が聞こえたかと思ったら、

「こんな時間までどこに行ってたのよ!?」


パジャマ姿の椿が玄関にいる僕を迎えた。


「え~、何だって~?」


僕は靴を脱ぎ捨てると、耳に手を当てて椿に聞き返した。


「うわっ、酒臭い…。


もしかして、飲みに行ってたの?」


そう聞いてきた椿に、

「うん、飲みに行ってた!」


僕は答えた。


「面接、うまく行かなかったの…?」


言いにくそうに聞いてきた椿に、

「んなことないよ!


ちゃんと上手にできたよ!」


僕は笑いながら返事をした。


「…それならばいいけど」


「もしかして、心配してくれてた?」


「電話にも出ないし、メールも返してくれないから、何かあったんじゃないかと思ってた…」


「椿ちゃん、か~わいい~!


心配してくれてすっごく嬉しい~!」


両手を広げて椿に抱きつこうとしたら、

「やめてよ、酒臭い!」


パチンと、椿に額をたたかれた。


「と言うかさ、面接が終わったのはいつなのよ?


6時までには帰ってくるって、そう言ったじゃない!


今、何時だと思ってるの!?」


強い口調でそう言った椿に、

「ゴジラ!」


僕は答えた。


「何をバカなことを言ってるのよ…」


椿は呆れたと言うように息を吐いた。


「もう時間も時間なんだから、さっさと寝るわよ。


ほら、行った行った」


椿は僕の背中をバシバシとたたいて前へ進めとうながしてきた。


「あいよー!」


「もう、うるさい!


遅いんだからあんまり騒がないでよ!」


「椿ちゃん、痛いよー」


バシバシと背中をたたいている椿に文句を言いながら足を動かそうとしたら、グラリと躰が傾いた。


「あっ、ちょっと…!」


椿の声が聞こえたのは一瞬で、気がついた時には躰は床の方と向かっていた。


ドシーン!


あっと言う間に、僕は床に倒れてしまった。


「アハハハハ、アハハハハ!」


声を出して笑っている僕に、

「何がおもしろいのよ!


ほら、起きなさい!


こんなところで寝たら風邪をひくわよ!」


椿が両腕を組んで見下ろしていた。


「んーっ、椿ちゃんがチューしてくれたら起きるー」


椿を見あげて僕が言ったら、

「何でそうなるのよ!?


と言うか、どこの眠り姫よ!?」


椿に怒られた…と言うか、もう怒っている訳なんだけど。


「だって、椿ちゃんはいつも俺にチューしてくれるじゃない」


僕がそう言い返したら、

「そ、それは…け、経験が欲しいからに決まってるでしょ!」


椿は顔を真っ赤にさせて言い返した。


「じゃあ、俺にチューしてくれたっていいでしょ?


だからさ、早く俺にチューして俺を起こして!」


僕は両手を広げて、椿を求めた。


「…大地って、酔っぱらうとダダっ子になるんだね」


椿は呆れたと言うように呟くと、

「じゃあ、キスしてあげるから早く起きなさいよ」

と、僕におおいかぶさってきた。


頬に椿の手が添えられたかと思ったら、彼女の顔が近づいてきた。


チュッ…と、椿の唇が僕の唇と重なった。


肉づきのいい柔らかいその感触に答えるように、僕は椿を抱きしめた。


「――んっ、くっ…!?」


それに気づいた椿が唇を離そうとしたけれど、僕は彼女の後頭部に手を回して唇が離れないようにした。


「――んんっ、ふっ…!?」


それに対して、椿が慌てたのがわかった。


唇を離そうとする選択肢もなければ、やめようと言う気持ちも僕の中にはなかった。


その柔らかい唇をもっと感じたくて…何より、椿が欲しくて仕方がなかった。


舌で椿の唇をなぞったら、

「――ちょっと、もう!」


椿は唇を離すと、バシバシと僕の胸をたたいた。


熱で潤んだその瞳が僕を見下ろしていた。


「――し、信じられない…!」


椿はそう言うと、唇を隠すようにして手でおおった。


「信じられないって、いつもしてるじゃない」


僕を見下ろしている椿に向かって言い返したら、

「し、舌はない…」


椿はそう言って、僕から離れようとした。


僕は離れようとする彼女の腕をつかむと、

「椿は、俺のことが嫌いなの?」

と、聞いた。


「えっ…?」


椿は何を言っているんだと言う顔をした。


「俺がどうして、恋を知らない椿に恋を教えているかわかる?」


「わ、私が頼んだからでしょ…?」


「頼んだよ。


でも、俺が誰に対してもこんなことをすると思ってる?」


「――ッ…」


僕は腹筋を使って躰を起こすと、椿と目をあわせた。


「椿だけだよ」


僕は言った。


「と言うか、好きな女の子だから教えているんだよ。


好きな女の子の頼みを断る男がいる訳ないだろ?」


僕は椿の唇に自分の唇を落とした。


すぐに唇を離すと、彼女の腰に両手を回した。


「欲しいよ」


僕は椿に言った。


「椿が好きだから、椿に恋を教えてる。


椿が好きだから、椿とキスしてる。


椿が好きだから、キス以上のことがしたい。


もう少し言うならば…椿が好きだから、躰を重ねたい」


そう言い終えると、椿と唇を重ねた。


「――ッ…」


椿の後頭部に手を回したけれど、彼女が抵抗する様子はなかった。


チュッ…チュッ…


何度も音を立てて、角度を変えて、椿と何度も唇を重ねた。


そっと唇を離すと、

「――少しだけ、口を開けて」


椿に言った。


椿は震えながら、そっと小さく口を開けた。


その瞬間、僕は唇を重ねると彼女の口の中に自分の舌を差し込んだ。


「――んっ、ふっ…!」


ビクン…と、椿の躰が震えた。


差し込んだ舌で口の中をかき回すと、椿は苦しそうに声をあげた。


「――んっ、んんっ…!」


椿が僕に感じていることが嬉しくて、彼女がもっと欲しいと思った。


ずっと、ずっと、夢を見ていたことなだけになおさら嬉しかった。


もっと僕を感じて、もっと僕を求めて…そして、全部僕だけでいっぱいになって。


そう思いながら椿のパジャマに手をかけようとした時だった。


「――ま、待って…!」


そのことに気づいた椿が慌てて唇を離した。


「――何で…?」


僕がそう聞いたら、

「――こ…」


椿が震えた声で言った。


「こ?」


ニワトリかよ。


「――ここじゃダメ…」


震えた声で呟くように、椿が言った。


「えっ?」


「だって、ここは玄関だし…せめて、寝室に行こうよ」


自分の言ったことに驚いたのか、椿は顔を隠すように両手でおおった。


よくよく考えてみたら、ここは玄関だった。


さすがに玄関ですると言うのは、いくら何でもないか…。


「いいよ」


僕が返事をしたら、椿は顔を隠していた両手を外した。


「その代わり、椿が連れてってよ」


そう言った僕に、椿はコクリと首を縦に振ってうなずいた。


椿に案内されるように、僕たちは寝室へと足を向かわせた。


彼女の寝室に入ったのは、今日が初めてだった。


「ダブルベッドなんだ」


ダブルベッドだけが置かれている寝室を見回すと、僕は言った。


「私、寝像が悪いからダブルベッドなの」


「へえ、そう」


椿と向かいあうようにしてベッドのうえに腰を下ろした。


チュッ…と、僕は自分の唇を椿の額に落とした。


「大地」


椿が僕の名前を呼んだ。


「引き返すなら、今のうちだよ?」


そう言った椿に、

「何で?」


僕は聞き返した。


「だって…酔った勢いでこんなことをするのは、よくないと思う。


酔いが醒めた後にきっと後悔するよ」


椿はそこで終わらせると、

「だから、引き返すならば今のうちだよ…?」

と、もう1度言った。


…そう言うことか。


僕は椿の躰を引き寄せると、彼女を抱きしめた。


「――引き返さないよ」


僕は言った。


「椿が好きだから引き返さない。


それに…今ここで引き返したら、もう…」


「もう?」


何度目になるのだろうか?


僕はまた自分の唇を椿の唇と重ねた。


「――んっ、ふうっ…」


チュッチュッと、何度も音を立てながら、椿の躰を押し倒した。


唇を離すと、潤んだ目が僕を見あげていた。


さっきは見下ろされていたはずなんだけどな。


そう思いながらフッと笑みをこぼすと、椿は恥ずかしそうに顔を紅くして僕から目をそらした。


「何、どうしたの?」


「――だ、大地が笑うから…」


恥ずかしそうに答えた椿に、

「逆だなって思ったから。


さっきは俺を見下ろしていたのに、今度は俺のことを見あげているから」

と、俺は言い返した。


「――その状況を作ったのは、大地じゃないの…」


「ああ、そうだったな」


椿の頬に手を添えると、僕の方に顔を向けさせた。


「――優しく、してね…?


私、初めてなんだから…」


「うん、知ってる」


僕はそう返事をすると、椿と唇を重ねた。


「――んっ、んんっ…」


何度も唇を重ねながら、椿のパジャマに手をかけた。


唇を離して椿の顔を確認すると、彼女は目を閉じて震えていた。


「――かわいいよ、椿」


僕はささやくようにそう言うと、椿の耳元に唇を寄せた。


チュッ…と耳に口づけをしたら、

「――ひゃっ…!?」


椿は声をあげて躰を震わせた。


自分の声に驚いた椿は手で隠すようにして口をおおった。


僕はフフッと笑うと、

「隠さなくていいよ。


椿が俺に感じているんだと思ったら、すごく嬉しい」


口を隠している椿の手をとると、手の甲に唇を落とした。


「感じているのは悪いことじゃないんだから」


人差し指の先を口に含むと、チュッ…と吸いあげた。


「――ッ…」


それにも感じたと言うように、椿は真っ赤な顔をして震えた。


「――椿…」


名前を呼ぶと、椿の頬に唇を落とした。


「――んっ…」


頬からあごへ、あごから首筋へと何度も唇を落としながら、パジャマに手をかけた。


「――んっ、ああっ…」


椿の唇からこぼれ落ちるその声に、だんだんと興奮してきているのが自分でもよくわかった。


ずっと夢見ていた。


大好きな女の子をこの手で抱くことに夢を見ていた。


その夢がいよいよ現実になろうとしている。


パジャマを脱がすと、ピンクのレースのブラジャーだった。


それを見ながら、僕はジャケットを脱ぐとベッドの下へと放り投げた。


ネクタイもシャツも脱いで、全部ベッドの下へと捨てた。


いい眺めだと、僕は思った。


こんなごちそうを目の前に出されて落ち着かない男がいるだろうか?


…少なくとも、僕は無理だな。


椿の首筋に顔を埋めて口をつけると、彼女の背中に手をまわしてホックを外した。


丸い胸をしていた。


男を知らないとは、まさにこう言うことを指差すんだなと思った。


その初めての相手が僕なのがまた嬉しい。


「――あっ、ああっ…」


そっと胸に手を触れて揉むと、椿は声をあげて躰を震わせた。


首から胸へと唇を落としながら胸の突起に口づければ、

「――ひゃっ…!」


椿はビクッと躰を大きく震わせた。


「――んっ、ああっ…!」


片方は唇に挟んで強弱をつけて吸ったり、舌で舐めたり、軽く歯を立てる。


もう片方の突起は指で軽くつまんだり、親指と人差し指を使ってこすった。


胸に与えられる対照的な刺激に、椿はさらに声をあげた。


「――やあっ、んああっ…」


ビクビクと躰を震わせて息を切らしている椿の顔は熱でもあるのかと思うくらいに赤くて、目は潤んでいた。


「――もう無理…それ以上は、ダメ…」


イヤイヤと言うように、椿は首を横に振った。


「――ここでやめたら、後でつらい思いをするのは椿だよ?」


僕はささやくように言うと、指でショーツのうえをなぞった。


ショーツのうえからでもわかるくらいに、そこはぐっしょりと濡れていた。


「――あっ…」


「――ほら、もうつらいでしょ?」


ショーツに指をかけると、ずるりとそれを脱がせた。


これで椿の躰を隠しているものはなくなった。


脚を閉じて隠そうとしている椿の間に躰を入れると、両脚を大きく開かせた。


「――やっ、ダメ…」


「ダメじゃないでしょ?」


ショーツ越しからでもわかるくらいに潤んでいたそこに、つぷりと人差し指の先を埋めた。


「――あっ…」


「痛い?」


そう聞いた僕に、

「――わかんない…」


椿は首を横に振って答えた。


「――何だか、変な感じがする…」


そう言った椿の呼吸は荒かった。


違和感があるって、言うことか。


初めてだからよくわからないのは当然のことである。


埋めていた人差し指をなぞるようにして蕾へと持って行けば、

「――んんっ…!」


ビクンと、椿は躰を震わせた。


指先を潤しながら蕾を刺激すると、

「――あっ、やあっ…!」


椿は声をあげながら、ビクビクと躰を震わせた。


「――ここ、気持ちいいの?」


僕がそう聞いたら、

「――そ…そんな恥ずかしいこと、聞かないでよ…」


椿は答えたくないと言うように口を閉じた。


「答えてくれなきゃ、俺はどうすればいいのかわからないよ」


椿は震えながら唇を開くと、

「――大地って、結構サドっぽいところがあるよね…」

と、呟くように言った。


「えっ?」


それに対して聞き返したら、

「そうやって追いつめて、辱めるんだもん…」


椿は両手で顔を隠すようにおおった。


要は、ドSだと言いたいらしい。


「そう言うつもりはないんだけどなあ…」


俺はフッと笑うと、顔を隠している椿の右手を取った。


「やっ、ダメ…」


「どうして?」


そう聞きながら、椿の手のひらに唇を落とした。


「は、恥ずかしいから…」


呟くように答えた椿の顔は真っ赤だった。


「私だけが裸にされたうえに余裕もないのに、大地は…」


僕が余裕があるように見えるのが気に入らないと、椿はそう言いたいのかも知れない。


「余裕なんてないよ」


僕は答えると、椿の手を自分の胸に当てた。


「――ッ…!?」


僕の心臓が早く脈打っていることに、椿は驚いたようだった。


「好きな女の子が目の前にいて、好きな女の子とベッドのうえにいて肌を重ねようとしている。


こう見ても、俺は緊張しているんだ」


ずっと夢見ていたことだから。


「――大地…?」


「感じているんだったら声をあげて、それこそ訳がわからないくらいに乱れてくれても構わない。


椿のイイトコロを俺に全部教えて?」


僕はそう言うと、敏感になっている蕾に指先を触れた。


「――ひゃっ…!」


触れた瞬間、椿は声をあげて躰を震わせた。


敏感なその蕾をクルクルと円を描くようになでたり、軽く爪を立てたり、上下左右に軽くこすってやる。


「――あっ、んんっ…!」


指先を潤して蕾を刺激すれば、椿の呼吸は乱れて行く。


そろそろかな…。


蕾を刺激しながら指を中へと沈めた。


「――はっ、んんっ…!」


「――うっ…」


これは、思った以上にキツいな。


指を締めつけてくる彼女の中を試しにゆっくりとかき回してみたら、

「――あっ、ああっ…」


椿は苦しそうに息を吐いた。


「――椿、少しだけ力を抜いて…」


僕はそう声をかけたけれど、苦しそうに呼吸を繰り返している彼女の耳に入っていないようだった。


これじゃあ、痛いのかどうかすらもわからないな…。


ゆっくりと抜き差しをして指を動かしながら、敏感になっているその蕾に唇を近づけた。


チュッ…と蕾に口づけたら、

「――ひゃあっ!?」


椿は大きな声をあげた。


「――やっ…それ、ダメ…」


涙目でフルフルと首を横に振っているその姿はとても扇情的だった。


「――気持ちいいの?」


僕がそう聞いたら、椿は口を閉じて黙った。


――その顔、他の男の前では見せないでよ?


心の中で僕は呟くと、舌で蕾をなでながら中に埋まっている指を動かした。


ピチャピチャとわざとらしく音を立てて蕾を舐めながら、指で熱いその中をかき回してやる。


「――あっ、ふあっ…!」


椿は大きな声をあげた。


「――やっ…もうっ、ダメ…!


何かきちゃう…!」


それが怖いと言うように椿は声をあげて躰を震わせている。


「――そのまま、身を委ねて…。


怖いことじゃないから…」


僕はそう声をかけると、敏感な蕾と彼女の中を刺激し続けた。


指を締めつけてくるその中に、椿の限界が近いことがわかった。


「――んあっ、やあっ…!」


ビクンと椿の躰が大きく震えたかと思ったら、

「――あっ、ああああっ…!」


悲鳴のような声をあげて限界に達した。


椿が荒い息を吐きながら、熱のせいで潤んだ目を僕に向けた。


ズルリと彼女の中から指を抜いたら、

「――んんっ…!」


感じたと言うように、躰を震わせたのだった。


椿は自分の身に何が起こったのかわかっていない様子だった。


「――わ、私…」


「――イった時の椿の声、すっげーエロかった」


僕がそう言ったら、椿は顔を真っ赤にさせた。


「――だ、だって…」


「えっ?」


「気持ちよかったから…」


椿は呟くように返事をすると、両手で隠すように顔をおおった。


そんな彼女に、

「それはよかった、男冥利に尽きるよ」


僕は言い返した。


「お、男冥利って…」


「だけども、誰でもいいって言う訳じゃないよ」


椿が隠している両手を外して僕を見つめた。


「椿だから、好きな女の子だからいいんだよ」


僕がそんな言ったら、

「――私が好きなの…?」


椿は呟くように聞いてきた。


「好きだよ、あの頃から椿のことが大好きだった。


ずっと、ずっと夢見ていたんだ。


今、その夢がかなって嬉しいよ」


「――だ、大地…」


椿が僕の名前を呼んだ。


「今すぐに君と繋がりたい…。


早くひとつになりたいんだ…」


こんな恥ずかしいことを言ったのは、今日が初めてだった。


今までは、事務的に相手と躰を繋げていたようなものだった。


特に何も考えないで躰を繋げて、自分の欲を吐いていた。


夢にまで見ていた好きな女の子との行為に、僕は泣きそうになっているのがわかった。


「――椿、いい?」


そう聞いた僕に、

「――いいよ、きて…」


椿は両手を大きく広げて、僕を迎えた。


「――椿…!」


彼女が僕を受け入れてくれたことが嬉しくて、唇を重ねた。


「――んっ、ふっ…」


口の中に舌を差し入れたら、椿は僕のマネをするように自分の舌を絡めてきた。


ベルトを外して下着ごとスラックスを脱ぎ捨てると、雄は臨戦態勢に入っていた。


先ほど指を埋めていたそこに雄を当てると、椿はビクンと躰を震わせた。


「――椿…」


呟くように名前を呼んで、椿の中に先を埋めた。


「――あっ、痛い…」


椿は痛そうに顔をゆがめた。


「椿、力を抜いて」


僕が声をかけたら、

「――そんなの、わかんな…い…」


椿はどうすればいんだと言うように首を横に振った。


僕はそんな彼女の唇を自分の唇でふさいだ。


「――ッ、んっ…」


達したばかりで敏感になっている蕾に指を伸ばすと、上下にこすって刺激してやる。


「――ッ、はっ…」


何度もキスを繰り返して、蕾を刺激して、少しでも痛みが軽減されるように僕なりの努力をした。


「――あっ、ああっ…」


ゆっくりと腰を動かして、彼女の中に雄を埋めた。


「――んっ…入っ、た…」


ようやく全部を彼女の中に埋めることができた時、僕たちは荒い呼吸を繰り返していた。


「――入った、の…?」


椿が大きな目に涙をためながら聞いてきた。


「――ああ、やっと入ったよ…」


僕は荒い呼吸をしながら、それに答えた。


温かく締めつけてくる彼女の中に、すぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。


ずっと夢見ていたこの瞬間に、僕は涙が出そうだ。


事務的だったはずの行為がこんなにもよかったなんて知らなかった。


ひとつになっていることがこんなにも幸せなことだったなんて知らなかった。


「――大地…」


椿が僕の頬に向かって手を伸ばした時、僕は自分が泣いていることに気づいた。


「――椿…」


名前を呼んで、伸ばしたその手を取って、手のひらに唇を落とした。


ギュッ…と手を繋いだら、それに答えるように椿は握り返してくれた。


嬉しかった。


「――好きだ、椿…愛してる…」


唇から、自然と言葉がこぼれ落ちた。


「――大地…」


名前を呼んだ椿の両手を僕の首の後ろへと回した。


「――少し動いてもいい…?」


そう聞いた僕に、椿はコクリと首を縦に振ってうなずいてくれた。


それに答えるように、彼女の中に埋まっている雄をゆっくりと動かした。


「――あっ、ああっ…!」


ギュッと椿が僕の背中を抱きしめた。


「――ッ、はっ…」


もう溶けてしまいそうだ。


好きな女の子とこうして繋がっているこの時間がずっと続けばいいのに…と、思った。


「――椿…」


「――んっ、大地…」


お互いの唇を重ねて、お互いの躰を抱きしめて…そして、お互いに果てたのだった。



――頭が痛い…。


ズキズキと脈打つような頭痛に、僕は目を開けた。


我ながら、昨日は飲み過ぎたな…。


そんなことを思いながら躰を起こしたら、

「――えっ…?」


僕は訳がわからなかった。


椿が僕の隣にいて眠っている。


何で僕の部屋に椿が…って、ここは椿の寝室じゃないか!


彼女の寝室に彼女がいてもおかしくない…って、僕は何で彼女の寝室にいるんだ?


「な、何で…?」


そう呟いて自分の今の姿を確認したら、裸だった。


下着すらも身に着けていない。


そして、ベッドのうえと言うこのシチュエーションである。


ちょっと待て…。


これは、どう言うことなんだ…?


「――んっ…」


隣の椿に視線を向けると、彼女は目を開けていた。


「――大地…?」


寝起きのせいで渇いている声で僕の名前を呼ぶと、椿は躰を起こした。


「ま、マジかよ…」


椿も裸だった。


何これ、一体何が起こったの?


何が起こって、僕たちは素っ裸なんですか?


「昨日はビックリした」


パニックになっている僕に向かって椿が言った。


僕は何をしたんですか…?


「大地って酔っぱらうとダダっ子になるうえに、ベッドのうえにいる時はサディストになるんだね」


椿がそんなことを言った。


えーっと、これはあれか?


いわゆる、“酔った勢いでやっちまった”って言う展開だよな?


頭痛なんてどこかへ吹っ飛んでしまった。


代わりに頭の中に浮かんだのは、昨日の出来事である。


そうだ、昨日は酔った勢いで椿を…。


「大地?」


椿に名前を呼ばれてハッと我に返った。


「後悔してるの?」


そう聞いてきた椿に僕は首を横に振った。


「していないよ」


僕はそう言うと、

「椿みたいな言い方をするならば…俺、セックスを軽視していた部分があるんだ」

と、言った。


「軽視?」


首を傾げて聞き返してきた椿に、


「事務的に目の前の相手と躰を繋げて自分の欲を吐いてた。


特に何も考えないで処理してきた。


――椿に触れるまでは」


僕はそう答えると、椿の頬に自分の手を添えた。


「好きな女の子と躰を重ねることがこんなにも気持ちがいいことだったなんて知らなかった。


好きな女の子に触れて、躰を繋げることがこんなにも幸せなことだったなんて知らなかったんだ」


チュッ…と、椿の頬に唇を落とした。


「椿と躰を繋げて、セックスが大切な行為だって言うことがわかったよ」


「大地…」


「好きだよ、椿…愛してる」


今度は酔った勢いじゃなくて、素面で自分の気持ちを告げた。


椿はフッと笑うと、僕の首の後ろに自分の両手を回した。


チュッと自分の唇を僕の唇と重ねると、

「私も」

と、言った。


「私も大地が好き」


「…えっ?」


僕はまだ酔っぱらっているのだろうか?


それとも、夢を見ているのだろうか?


「大地だからって思ったの」


椿が言った。


「俺だから?」


「大地が私に恋を教えているのは、“好きな女の子だから”って言ったじゃない」


…言ったと言えば言ったし、言っていないと言えば言っていないような気がする。


「私、思ったんだ。


教えてもらう相手は誰でも、それこそ環さんでもよかったはずなのに、どうして大地に頼んだんだろうって」


「うん」


「好きな男の子だから。


大地は私の“好きな男の子”だから、大地に頼んだんだって言う答えが出てきた」


僕の心臓がドキッ…と鳴ったのがわかった。


「それって、もしかしなくても…」


呟くように聞いた僕に、

「うん、両思いだね」


椿は嬉しそうに笑いながら答えた。


「だけど…」


「んっ?」


「もっと教えて?


私にもっと恋のいろいろなことを教えて?」


そう言った椿の顔はこのうえないくらいにかわいかった。


「もちろん、いくらでも教えるよ」


僕はそう返事をすると、今度は自分から唇を重ねた。


「――あっ、大地…」


僕の名前を呼ぶ椿の首筋にキスをすると、痕をつけた。


白い肌に紅いその痕はよく映えていた。


キスマーク――いわゆる、“僕のもの”だと言う証である。


「――あっ、んあっ…」


「――椿…」


僕たちは…それこそ夜になるまで、何度も抱きあったのだった。


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