彼から私に告げる

『武川物産』との食事会から数日が経った日のことだった。


「舞」


夕飯を食べ終えて、後片づけをしている私に、和伸さんが呼んだ。


「何?」


そう聞いた私に、

「明日仕事が終わったら、俺と一緒に峯岸家にきて欲しいんだ」


和伸さんが答えた。


「峯岸家…?」


ドクン…と、私の心臓が鳴った。


――ああ、もうその時がやってきたんだ…。


峯岸家で、和伸さんと『武川物産』のお嬢さんとの結婚が告げられることだろう。


「どうしても、一緒に行かないとダメなの?」


私は聞いた。


できることならば、行きたくない。


和伸さんとの結婚の話を聞きたくない。


「一緒にきて欲しい。


と言うか、舞と一緒じゃないとダメなんだ」


和伸さんが答えた。


一緒じゃないとダメと言う意味がわからない。


どうしても私をその場に同席させたいみたいだ。


私は笑顔を作ると、

「わかった、一緒に行くね」


首を縦に振って、和伸さんに返事をした。


「仕事が終わったらすぐに峯岸家に向かうから。


横田さんにも言っておくけど、残業はしないように」


「うん、わかった」


胸の中が苦しかった。


結婚と言うその事実を受け止めて、和伸さんを祝福しようと決めたのに…。


未練がましい自分を責めたくなった。


「お先に失礼します」


「はい、お疲れ様です」


秘書課を後にすると、専務の車がある地下駐車場へと足を向かわせた。


エレベーターで駐車場に到着すると、専務はすでにきていた。


「お疲れ様」


そう声をかけてきた専務に、

「和伸さんもお疲れ様」


私は返事をした。


いよいよ、その時が近づいてきているんだと思った。


和伸さんが車のドアを開けてくれたので、私は助手席に腰を下ろした。


私が座ったことを確認すると、和伸さんも運転席に腰を下ろしたのだった。


和伸さんの運転で車が発車したけれど、私は彼に声をかけることができなかった。


大丈夫だよ…。


もう覚悟はできている…。


和伸さんに何を言われても、私は大丈夫だ。


私には私の、和伸さんには和伸さんの人生があるんだから…。


和伸さんの幸せをちゃんと願おうって、そう決めたんだから…。


「舞?」


和伸さんに名前を呼ばれて、私はハッと我に返った。


「もうついたよ?」


「…ああ、うん」


私は首を縦に振ってうなずくと、車を降りた。


最後に峯岸家を訪れたのは年末の時だったから、久しぶりだ。


その後に和伸さんが車を降りたので、

「――和伸さん」


私は彼の名前を呼んだ。


「何?」


そう言った和伸さんに、

「私、何を言われても大丈夫だから」

と、私は言った。


「えっ?」


和伸さんは訳がわからないと言う顔をした。


「和伸さんには、幸せになって欲しいって思ってるから」


「ちょっと待って、言っている意味がよくわからないんだけど」


「結婚して、家庭を持って、その人との間に子供ができても…時々でいいから、私のことを思い出してね」


私の目から涙がこぼれ落ちた。


笑顔で言おうと、思っていたのに…。


「舞、一体何の話をしているんだ?


そもそも結婚って、誰が結婚するんだ?」


和伸さんは戸惑っていた。


「だ、誰って…和伸さんが結婚するんでしょ?」


私がそう答えたら、

「俺と…誰が?」


和伸さんは訳がわからないと言うように聞き返した。


あれ、何か話が噛みあっていないような気がするんだけど…?


「和伸さん、『武川物産』のお嬢さんと結婚するんでしょ?」


私が言い返したら、

「…はっ?」


和伸さんの目が点になっていた。


「えっ?」


そう聞き返した私の目も点になっていることだろう。


えーっと…何なんだ、これは?


何故だかよくわからないけど、私たちの間には沈黙が流れていた。


「あら、そんなところで何してるのよ?」


私たちの間に流れている沈黙を破ったのは、

「母さん…」


和伸さんが呟いた。


八重子さんだった。


「お、お久しぶりです…」


ペコリと会釈をするように頭を下げた私に、

「久しぶり、舞ちゃん」


八重子さんは笑顔で迎えてくれた。


「そんなことよりも、あなたたちは何をしているの?


早く家の中に入りなさい」


八重子さんに促されて、

「はい…」


私たちは返事をすると、家の中に足を踏み入れたのだった。


八重子さんに案内されるようにリビングに通されると、広伸さんと彼の妻である倫代さんがいた。


「おっ、やっとそろったか」


友伸さんがキッチンから顔を出した。


どうやら、お茶の用意をしていたみたいだ。


テーブルのうえにティーセットとお菓子が置かれた。


これは一体、どう言うことなのだろうか?


それよりも、私と和伸さんの話が噛みあっていない問題はどうなるの?


そう思っていたら、

「今日は和伸が言いたいことがあるそうよ」


八重子さんがここにそろっている全員の顔を見回すと、そう言った。


言いたいことって、和伸さんはこれから何を言うの?


和伸さんは1歩前に出ると、全員の顔を見回した。


私の心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。


一体、和伸さんは家族の前で何を言うのだろうか?


和伸さんの唇が開いた。


「――舞と結婚したいんだ」


その唇が動いて、音を発した。


「――えっ?」


それに驚いたのは、私だった。


和伸さんが、“私と結婚したい”って言った…?


「舞と結婚して、幸せな家庭を築きたいんだ」


私の聞き間違いじゃないみたいだ。


「舞を峯岸家の一員にしたい。


舞と家族になりたいんだ」


「――和伸、さん…」


私の目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。


和伸さんがそんなことを考えて、そんなことを思っていたなんて知らなかった。


「舞を幸せにすると約束する、だから…」


和伸さんは全員の顔を見回すと、

「俺に、舞をください」

と、言った。


リビングに沈黙が流れる。


「舞ちゃん」


その沈黙をまた破ったのは、八重子さんだった。


「和伸がこう言っているけど、あなたはどうなの?」


そう聞いてきた八重子さんに、私は和伸さんと目をあわせた。


「――はい」


私は首を縦に振ってうなずいた。


「私を、和伸さんのお嫁さんにしてください…」


私がそう告げた瞬間、周りから拍手が起こった。


――結婚したい


いつか交わされたその約束は、もう2度とかなうことがないんじゃないかと思っていた。


――舞を本当に俺のものにしたい


その約束がかなう日がくることになるなんて、私は思っていただろうか?


「これで月子さんも安心ね。


月子さんも、和伸なら安心して任せることができるって」


そう言った八重子さんに、

「えっ、そうなの?」


友伸さんが聞き返した。


「そうよ、月子さんもこの場にいたら2人のことを祝福していたと思うわ」


八重子さんは答えたのだった。


「舞」


和伸さんが私の名前を呼んだ。


「絶対に幸せにするから」


そう言った和伸さんに、

「はい…!」


私は泣きながら、だけども笑顔で返事をした。



和伸さんと一緒に峯岸家を後にすると、彼の車に乗って自宅へと向かっていた。


「夕飯、一緒に食べなくてよかったの?」


私は和伸さんに声をかけた。


「うん、また帰ろうと思えば帰れるから。


それよりも、舞といろいろな話がしたい」


「いろいろな話って、例えば?」


これからのことについて話しあいをするのだろうか?


そう思っていたら、

「『武川物産』の件」


和伸さんが答えた。


「あっ、そうだ!」


私は思い出した。


「和伸さん、『武川物産』のお嬢さんと結婚するんじゃなかったの?」


そう聞いた私に、

「まあ、そうなる予定だったよ」


和伸さんが答えた。


「でもなかったことになった」


続けて言った和伸さんに、

「えっ?」


訳がわからなくて、思わず聞き返した。


なかったことになったって…それって、どう言うことなの?


「えっと、何で?


『武川物産』と食事会をしたって言うのは…?」


「食事会をしたって言うのは本当だよ。


ただそれは、俺に対してのお詫びみたいな感じだったんだけどね」


「お、お詫び…?」


ますます訳がわからない。


「簡単に説明すると、相手のお嬢さんが駆け落ちをしたんだ」


和伸さんが言った。


「えっ、駆け落ち?」


思わず聞き返した私に、

「どうやら、向こうも相当なまでに結婚の話を勧めていたみたいでね、それに嫌気が差したお嬢さんが男と一緒に家を出て行ったんだ。


それで結婚の話はなかったことになった」


和伸さんが答えた。


「そ、そうなんですか…」


「わかった?」


そう聞いてきた和伸さんに、

「はい、わかりました」


私は首を縦に振ってうなずいて返事をした。


車は自宅に到着した。


地下駐車場に車を止めると、

「でも、俺は『武川物産』との結婚を断るつもりだったよ」


和伸さんが言った。


「えっ?」


断るって、何で?


和伸さんは私を見つめると、

「俺には舞がいるから。


子供の頃から心に決めた相手がいるからって言って、結婚の話を断るつもりだった」

と、言った。


「和伸さん…」


ドキッ…と、私の心臓が鳴った。


「…本当に、私でいいの?」


私がそう聞いたら、

「舞がいいんだ」


和伸さんが答えた。


「俺が欲しいのは、今も昔も君だけだ」


そう言った和伸さんに、私の目から涙がこぼれ落ちた。


地下駐車場を後にして自宅へと足を向かわせた。


「ただいま」


ドアを開けたのと同時に言った和伸さんに、

「お帰りなさい、和伸さん」


私はそう声をかけると、中に足を踏み入れた。


「そうか、今日は舞と一緒だったな」


和伸さんはフフッと笑うと、後から入ってきたのだった。


「いつもは私が先に帰っているもんね」


そう言い返した私に、

「でも、今日は同時だ」


和伸さんが言った。


それから私の顔を覗き込むと、

「お帰り、舞」

と、和伸さんが言った。


「ただいま、和伸さん」


それに返事をした後で、私は和伸さんと一緒に笑いあった。


時計は夜の8時を過ぎたところだった。


明日は休みだけど、遅くなってしまったことには変わりはない。


「すぐに簡単なものを作るから待ってて」


そう言ってキッチンへと足を向かわせようとした私だったけれど、後ろから伸びてきたたくましい腕が私を抱きしめた。


「か、和伸さん…?」


「食事は後でいい」


「でも、お腹空いているんじゃ…?」


和伸さんはクルリと腕の中で私を自分の方に向かせると、

「舞がいい」

と、言った。


精悍な顔立ちが近づいてきたかと思ったら、


「――ッ…」


彼の唇が私の唇と重なった。


「――ッ、んうっ…」


舌が唇をなぞってきたことに驚いて口を開けたら、それを狙っていたと言わんばかりに口の中に舌が入ってきた。


「――んっ、んんっ…!」


彼の舌に応えるように自分の舌と絡ませたら、お腹の下がジン…と熱くなった。


気がついた時には、私は寝室にいた。


唇が離れたら、お互いの唇の間に銀色の糸が引いていた。


私はベッドのうえに押し倒された。


視界に入ったのは天井と和伸さんの顔だった。


「――和伸さん…」


私が名前を呼んだら、

「先にデザートを食べてるみたいだな」


和伸さんが言った。


「で、デザートって…」


私が呟くように言ったら、

「舞が作る料理は何でも美味しいもん」


和伸さんの精悍な顔が近づいてきた。


「――ッ、んっ…」


チュッ…と、耳に唇が落とされる。


「でも俺が1番美味しいと思っているのは…」


耳元でささやいていたその声が離れたかと思ったら、彼は私の顔を覗き込んできた。


「舞そのものだよ」


そう言った和伸さんの唇が、

「――ッ…」


私の唇と重なった。


彼の大きな手が私の服を脱がしにかかっていた。


「――んっ、んうっ…」


チュッチュッと音を立てられて、何度も唇が重ねられる。


唇が離れたかと思ったら、

「――かわいい、舞…」


そうささやかれたかと思ったら、彼の唇が頬に落ちてきた。


「――んっ、あっ…」


今度は首筋に唇が落ちてきたかと思ったら、露わになった胸に唇が落とされた。


「――あっ…」


胸の先が口の中に含まれた。


舌で舐められたり、強弱をつけて吸われたり、軽く歯を立てられる。


もう片方の胸の先は、彼の指に弄ばれる。


ピンと弾いたり、爪を軽く立てられたり、強めにつままれる。


「――やっ、ああっ…!」


対照的過ぎる胸の先への刺激に、自分の躰がどんどんと敏感なものに変わって行くのがわかった。


「――か、和伸…さ、ん…」


「――かわいい…」


彼の手が少しずつ下へと降りて行っていることに気づいた。


「――やっ、待って…」


その手に向かって伸ばして止めようとしたけれど、

「無理、待てない」


一蹴されたうえに、彼はショーツ越しからそこをなぞってきた。


「――んっ…!」


たったそれだけなのに、私の躰はピクリと反応してしまった。


ずるいよ、和伸さん…。


そう思っている私に気づいていないのか、彼の指はゆっくりと上から下へとなぞっている。


「――やっ、ああっ…」


本当は気づいているくせに、和伸さんは私が根をあげるのを待っている。


「――和伸さん…」


私が彼の名前を呼んだら、

「俺が欲しい?」


和伸さんは私を見つめると、そう言ってきた。


コクリと首を縦に振って返事をしたけれど、

「ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ」


和伸さんは言い返した。


「舞の口から“欲しい“って言わなきゃ、俺はどうすればいいのかわからないよ」


ツッ…と親指で私の唇をなぞりながら、和伸さんが言った。


意地悪…!


そう言い返したくなったけれど、ショーツ越しをなぞっているその指を躰は求めてしまっている。


ずるいよ、和伸さん…。


私は唇を開くと、

「――い…」

と、言った。


「えっ?」


「――和伸さんが、欲しい…」


唇を動かして、音を発した。


…私は何を言わされたのだろう?


自分が言ったその言葉に両手で顔をおおって隠そうとしたら、


「いい子だ、舞」


そう言った彼の指がずるりとショーツを脱がした。


「――ッ、ああっ…!」


先ほどまでショーツで隠していたそこに、和伸さんの唇が触れた。


「――あっ、やあっ…!」


チュッ…と蕾を強めに吸われて、躰がビクリと反応してしまう。


「――んっ、んんっ…!」


吐き出されるその息にも感じてしまっている自分の躰を浅ましいと思った。


「――和伸さ、ん…ああっ…!」


「――舞…」


「――ひゃっ…!」


すでに敏感になっている蕾に舌が触れた。


「――あっ、ああっ…!」


ザラついた部分で蕾を舐められたかと思ったら、つぷりと中に指を入れられた。


「――やああっ…!」


かき回すように動かしてきたその指に、もう感じることしかできない。


蕾も中も同時に、それも執拗に攻められているせいで、もう何も考えることができない…。


「――和伸、さ…もう、無理…!」


私が首を横に振って訴えたら、

「――そう、じゃあ…」


和伸さんはそう言ったかと思ったら、両方を激しく攻めてきた。


「――ひゃああっ…!」


私が彼にかなうことなんて、もう無理だ…。


ただ声をあげて、躰を震わせて、彼に感じることしかできない…。


「――んっ、ああああっ…!」


頭の中が真っ白になって、ビクンと躰が大きく震えた。


「――あっ、はあっ…」


荒い呼吸を繰り返して躰に酸素を取り込もうとしている私を、和伸さんが見下ろしていた。


「――かわいい、舞…」


和伸さんの精悍な顔が近づいてきたかと思ったら、

「――ッ、んっ…」


彼の唇が私の唇と重なった。


――もう和伸さんに甘えていいんだ…。


彼の唇を感じながら、私は思った。


和伸さんのたくましいその背中に自分の両手を回して、抱きしめていいんだ…。


彼の唇が離れたその瞬間、私は躊躇うことなく自分の両手を首の後ろへ回した。


「――舞…?」


私の突然の行動に、和伸さんは驚いたようだった。


自分から顔を近づけると、今度は私から彼と唇を重ねた。


「――んっ…」


唇を離して、和伸さんと見つめあった。


「――舞…」


私の名前を呼ぶその声が好き。


私を見つめているその瞳が好き。


私に触れてくるその指が好き。


自分から彼を突き放してしまったから、もう彼の気持ちに答えてはいけないと思っていた。


本当は、その気持ちに答えたかった。


好きだ愛していると、そう言いたかった。


だけど、和伸さんは私を選んでくれた。


私を好きだと言って、私を自分の妻に選んでくれた。


これからは、もう我慢しなくていい。


私のありのままの気持ちを和伸さんに伝えてもいいんだ。


「――和伸さん…」


彼の名前を呼んだ瞬間、私の目から涙がこぼれ落ちた。


ずっと言いたかった。


その気持ちに答えたかった。


「――好き…」


隠していた気持ちを彼に言った。


「――舞…」


「――和伸さんが好き…」


子供の頃から、彼と離れていた時も、こうして彼と見つめあっている今も、私の気持ちは変わらない。


「――和伸さんが好き、和伸さんを愛してる…」


頬を伝っている涙を感じながら、私は彼に自分の気持ちを伝えた。


突然のように自分の気持ちを言った私を、彼はどう思っているのだろうか?


和伸さんはフッと、優しく微笑んだ。


「――俺も…」


和伸さんはささやくように言って、私の額に自分の唇を落とした。


「――俺も、舞が好きだよ…」


私の気持ちに答えてくれたことが嬉しかった。


「――和伸さんが好き…」


「――うん…」


ツツッ…と、彼の舌が私の頬を伝っている涙を舐めとった。


「――和伸さん、愛してる…」


そう言った私を和伸さんは抱きしめると、

「――俺も舞を愛してる…。


ずっと、愛してる…」

と、耳元でささやいた。


和伸さんと見つめあうと、一緒に微笑みあった。


顔を近づけたのは、どちらからだったのだろうか?


私の唇は、彼の唇と重なっていた。


「――ッ、あっ…!」


灼熱が私の中に入ってきた。


和伸さんとひとつになっているこの瞬間が好きだ。


彼を間近で感じているこの瞬間が好きだ。


でも…これからは、もっと和伸さんのそばにいてもいいんだね?


ギュッと彼の首の後ろに回っている両手を強くしたら、

「――そんなに急かすなよ…」


和伸さんが呟くように言った。


「そんなにされたら、我慢ができなくなる…」


そう言った和伸さんの耳元に私は唇を寄せると、

「――我慢しなくていいよ…」

と、言った。


そう言った私に、和伸さんが驚いたのがわかった。


「和伸さんが欲しいの…。


和伸さんをもっと感じたいの…」


「――舞…」


「――だから、我慢しなくていいから…」


和伸さんが私を見つめた。


「――もうどうなったって知らないからな?」


確認するように聞いてきた和伸さんに、私は首を縦に振ってうなずいた。


その瞬間、和伸さんは腰を動かして中の灼熱を突きあげてきた。


「――ッ、あああっ…!」


あまりの激しさに、意識が飛びそうになってしまった。


「――舞…」


「――んっ、和伸…さ、ん…!」


たくましいその背中にしがみつくことで、飛びそうになる意識を保とうとした。


「――あっ、あああっ…!」


こんなにも激しくされたのは、今日が初めてかも知れない。


「――ッ、舞…!」


私の名前を呼んだ和伸さんの唇が私の唇と重なった。


「――ッ、んっ…!」


このまま溶けてしまうんじゃないかと思った。


唇も躰も、全てが繋がっていて…私たちは、このままひとつに溶けあうんじゃないかと思った。


「――ッ…」


口の中に入ってきた彼の舌に驚いたけれど、それに自分の舌を絡めた。


「――んっ、んんっ…!」


突きあげてくる灼熱に躰が震えて感じてしまう。


もう無理だ…。


もう何も考えることができない…。


和伸さんのたくましい背中を強く抱きしめたら、


「――ッ、んんんーっ…!」


突きあげてきた灼熱に、頭の中が真っ白になった。


同時に、和伸さんは私の背中に両手を回した。


それまで重なっていた唇が離れた。


「――舞…」


チュッ…と、和伸さんが私の額に唇を落とした。


「――和伸さんが好き…」


呟くように言った私に、

「――俺も舞が好きだよ…」


和伸さんは微笑んだ。


「――ずっと愛してる…」


「――私も、和伸さんを愛しています…」


和伸さんの気持ちに返事をしたら、唇に触れるだけのキスをくれたのだった。



和伸さんの腕の中で、私は幸せな気持ちに包まれていた。


もう我慢しなくていいんだ。


ずっと和伸さんのそばにいていいんだ。


「なあ、舞」


それまで私の髪をなでていた和伸さんが呼んできた。


「何?」


腕の中から顔をあげて私は聞いた。


「どうして、俺が『武川物産』のお嬢さんと結婚するって思ったの?」


「えっ、それは…」


その質問に私は目をそらそうとしたけれど、

「聞いてるでしょ?」


和伸さんがあごに指を添えてクイッとあげられたので、私は彼から目をそらせなくなってしまった。


「えっと…」


「舞?」


「はい、んっ…」


それまで腰の辺りに添えられていたその手がサワサワとなでるように動き始めた。


「やっ、あっ…」


その手は腰からお尻のところへとなでてきた。


「あっ、ちょっと…」


あごに添えられていたその手も滑るように胸に落ちてきたかと思ったら、指が胸の先を弄んできた。


冷めかけていたその熱がぶり返してきているのが、自分でもよくわかった。


「――和伸さん、あの…」


「舞がちゃんと答えてくれるなら」


「――んっ…!」


胸の先をつままれて、躰が震えた。


今すぐにでも答えた方が身のためかも知れない…。


「――うっ…」


私は呟くように話を切り出すと、

「――噂で、聞いたの…」

と、和伸さんに言った。


「噂?」


和伸さんは手を止めると、そう聞いてきた。


「和伸さんが『武川物産』との食事会があったその日に、噂で聞いたの。


『武川物産』のお嬢さんと結婚するんじゃないかって…」


私がそう答えたら、

「俺に聞こうとは思わなかったの?」


和伸さんが続けて聞いてきたので、私は唇を閉じた。


「その噂は本当なのかって、どうして俺に聞こうとしなかったの?」


「…ごめんなさい」


私は呟くように謝った。


「謝ってくれって言っている訳じゃないんだ」


和伸さんは優しい口調で問いかけて、私の頭をなでてきた。


「――返事が怖かったの…」


呟くように、私は言った。


「“そうだよ”って言われたら、どうしようって思ってた…。


“結婚するんだ”って和伸さんが噂を認めちゃったら、立ち直れないと思ったの…。


だから、怖くて聞くことができなかった…。


和伸さんが好きだから、もし和伸さんが噂を認めたら、どうしようって思ったから…」


「バカだな」


和伸さんはフッと優しく微笑むと、私を抱きしめた。


たくましいその腕と彼の体温に安心して、私の目から涙がこぼれ落ちた。


「俺が舞から離れる訳がないじゃないか」


「うん…」


「ちゃんと俺に聞けばよかったのに」


「ごめんなさい…」


和伸さんはポンポンと私の頭をなでた。


「もう泣かなくていいよ、舞」


優しい口調でささやくように言ってきた和伸さんだけど、目からこぼれ落ちる涙は止まらなかった。


けど、悲しいから泣いている訳ではない。


嬉しいからだ。


和伸さんが私を好きでいてくれることが、愛してくれることが嬉しいから、泣いているのだ。


「あー、でも」


和伸さんが思い出したと言うように言った。


「あの時の舞、積極的だったよな。


ものすごいと言っていいほどに、俺を攻めてたな」


そう言った和伸さんに、私の涙がピタリと止まった。


「えっ、えーっと…」


あれは…そう、あれだ。


噂を聞いたせいもあって、ちょっと荒れてたんだ。


「舞に攻められるのも悪くないかな、なんて」


「か、和伸さん…?」


どうしよう、何だか恐ろしいことになってきたかも知れない…。


「まあ、無理にとは言わないよ」


和伸さんがそう言って、私の顔を覗き込んできた。


「舞が攻めたい気分になったら、攻めていいから」


精悍な顔立ちが近づいてきたかと思ったら、

「――ッ…」


唇が重なった。


「――舞、好きだよ…。


ずっと、愛してる…」


「――私も…」


そう言いあって、和伸さんと微笑みあった。

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