私から彼に捧げる

私が『マイダス』に勤めてから半年後に、専務と一緒に暮らし始めた。


2年たった今でも突き放す前と変わらない態度で私に接してくれる専務だけど、私は彼に対して罪悪感を感じていた。


仕事で困ったことがあったらフォローしてくれて、私が作った料理を笑顔で美味しいと言いながら食べてくれて、愛の言葉をささやいて、私のことを恋人として大切にしてくれる。


だけど、そんな彼の気持ちに私は答えることができなかった。


自分から大好きな彼を突き放してしまった私には、そんな資格はない。


それに…いつになるかはわからないけれど、彼から離れないといけない日がくるかも知れない。


私には私の、専務には専務の人生があるのだから…。


「今日も美味しかったよ」


いつものように夕飯を食べ終わると、専務は私と一緒になって後片づけをしてくれた。


そう言ってくれる専務に、私はまた明日も彼のために夕飯を作ろうと心の底から思ったのだった。


「そうだ、明日…」


思い出したと言うように話を切り出した専務に、

「仕事が終わった後にある『武川物産』との食事会がある、って言うことでしょ?」


私は言った。


「うん」


首を縦に振ってうなずいた専務に、

「私は同席しなくてもいいことになっているみたいだけど…やっぱり、秘書として私も同席した方がいい?」


私は専務に聞いた。


専務は首を横に振ると、

「いや、いいよ。


仕事終わりだし、疲れているところを連れて行く訳にはいかないよ。


もしかしたら遅くなるかも知れないから、先に家に帰って寝てていいから」

と、言った。


「そう、わかった」


私は返事をした。


「舞」


私の名前を呼んだ専務が私の頬に手を添えた。


「和伸さん?」


私が彼の名前を呼んだら、

「明日は、舞の料理が食べられなくて寂しい」


専務が言った。


「明日だけでしょ」


それに対して、私は言い返した。


私も寂しいと自分の気持ちを正直に言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか?


自分が作った料理を一緒に食べてくれる人がいない――たった1日だけ我慢すればいいとは言え、寂しいと思った。


「明後日は、俺の好きなものを作ってくれる?


舞が作る料理の中で1番好きなもの」


そう言った専務に、

「うん、作るね」


私は首を縦に振って返事をした。


「それから、デザートも」


「うん、わかった」


「ああ、でもデザートは今食べたいな」


「えっ?」


私が聞き返したら、彼の唇が私の唇と重なっていた。


最初は唇を重ねるだけだったけど、次第に口の中に舌が入ってきてもっと深く重ねられる。


「――ッ、んんっ…!」


気がつけば、私は床のうえに押し倒されていた。


視界に入ったのは天井と和伸さんの精悍な顔だった。


「――ま、待って…ベッドがいい…」


首を横に振ったけれど、

「ダメ、待てない」


すぐに和伸さんの顔が近づいてきて、唇が重ねられた。


「――ッ…」


さっきよりも深く、まるで味わいつくしてしまうかのように激しく重ねられた。


「――美味しいものは今すぐに食べたいんだ…」


「――あっ…」


彼の唇が首筋に触れたのと同時に、彼の大きな手は私の服を脱がしにかかっていた。


「――んっ、ああっ…!」


「――かわいい…」


大きな手はブラを上にずらしたかと思ったら、胸を揉んできた。


手のひらに胸の先がこすれるたびに、自分の躰がだんだんと敏感になって行くのがわかった。


「――あっ、んあっ…!」


「――舞…」


首筋に触れていた唇は下へと降りて行ったかと思ったら、

「――ひゃっ…!」


胸の先に触れた。


「――あっ、ああっ…!」


「――かわいい、舞…」


ささやかれるその言葉にも、吐き出されるその息にも、私の躰は反応してしまった。


彼はどうして、こんなにも簡単に私の躰を変えてしまうのだろうか…?


胸に触れていたその手は躰のラインをなぞるようにして下へと降りて行った。


ショーツ越しに彼の指が触れた瞬間、私の躰がビクッと震えた。


そこがどうなっているのかは、自分が1番よくわかっている。


「――やっ、待って…」


「待てない、早く欲しい…」


ずるりと彼の指が私のショーツを脱がせたかと思ったら、たくましい腕によって私の脚が大きく開かされた。


「――ひゃっ、んんっ…!」


ショーツで隠していたそこに、彼の唇が触れた。


「――あっ、やあっ…!」


洪水状態のそこになでるように触れてくる生温かい舌に、私の躰は震えて感じてしまう。


「――やあっ、もう無理…!」


これ以上触れられてしまったら、私はどうなってしまうのだろうか?


それが怖くて首を横に振って懇願するけれど、

「――何で?」


和伸さんは質問を投げかけてきた。


ずるい、和伸さんはずるいよ…。


わかっているくせに、彼はわざと私に質問を投げてくる。


「――だ、だって…」


私の顔はそこに熱が集中しているんじゃないかと思うくらいに紅く染まっていることだろう。


隠すようにして両手で自分の顔をおおうと、

「――き、気持ちいいから…」


恥ずかしいのを承知で、私は彼に言った。


それまでなでていた舌が動きを止めたかと思ったら、


「――じゃあ、もっとシてもいいよね?」


彼はそう答えたかと思ったら、再び舌を動かしてきた。


「――やっ、やあっ…!」


すでに敏感になっている蕾に舌が触れた瞬間、私の躰が大きく震えた。


つぷりと中に指が入ってきたかと思ったら、かき回すようにして動かされる。


もう無理だ、もう考えることができない…。


「――ッ、あっ…ああああっ!」


その瞬間、頭の中が真っ白になって躰がビクンと大きく震えた。


それまで顔をおおっていた手が彼の手によって退かされたかと思ったら、

「――舞…」


名前を呼ばれたかと思ったら、唇を重ねてきた。


「――ッ…」


先ほどまで舌が触れていたそこに、彼の灼熱が当てられた。


それに感じて、私の躰がビクッと反応した。


「――ッ、んっ…!」


押し広げるように、灼熱は中へと入って行く。


「――んっ、んんっ…!」


彼と繋がっているこの瞬間に、私の躰は震える。


そっと、私は自分の舌を使って和伸さんの唇をなでた。


突然の私の行動に彼は驚いたようだけど、すぐに唇を開いて、私の舌を口の中へと受け入れてくれたのだった。


自分の舌を彼の舌に絡ませたら、戸惑いながらもすぐに応じてくれた。


自分でも、どうしてこんなことをしたのかわからない。


本能なのか、それとも和伸さんをもっと近くで感じたかったからなのか。


どちらにしろわからないけれど、私は和伸さんを求めている。


「――ッ、んっ…!」


和伸さんが腰を動かして、中の灼熱を突きあげてきた。


「――んっ、んんっ…!」


突きあげられるその灼熱に躰が震えて感じてしまう。


彼と繋がっているこの瞬間が好き。


彼を間近で感じているこの瞬間が好き。


それなのに、もっと彼が欲しいとわがままなことを思っている自分がいた。


「――んんっ…!」


私の熱と彼の熱が溶けあって、ひとつになっているのがわかった。


いつかは離れないといけないのは、わかっている。


いつまでも彼のそばにいるのは無理なのは、わかっている。


でも、今だけは彼のそばにいて彼を感じていたい。


「――ッ、んんっ…!


んっ、んんんーっ…!」


私の頭の中が真っ白になったのと同時に、和伸さんの躰が震えたのがわかった。


「――ッ、はあっ…」


それまでふさがれていた唇が離れた瞬間、私は躰の中に酸素を取り入れた。


荒い呼吸を繰り返している私に、

「――舞…」


和伸さんはささやくように名前を呼んで、額に自分の唇を落とした。


――今だけは、和伸さんを独り占めさせて…。


ぼんやりとしている意識の中で、私はそう願ったのだった。



秘書課の仕事は主に雑用が多い。


翌日の昼下がり、私は手元のファイルを返すために資料室へと向かっていた。


勤め始めた当初は不安だったけど、やることは事務仕事と特に変わらないため、すぐになれることができた。


「やっぱり、あの噂は本当なのかな?」


給湯室から聞こえた声に、私は足を止めた。


あの噂?


そう思いながら、私は給湯室をそっと覗いた。


休憩中だろうか?


制服姿の2人の女性がお茶を飲みながら立ち話をしていた。


「あの噂って?」


訳がわからないと言うように聞いた彼女に対し、

「『武川物産』のお嬢さんとウチの会社の専務が結婚をするって言う話」


もう1人が答えた。


「――えっ…?」


思わず口から驚きの言葉が出てきてしまったが、彼女たちは私の存在に気づいていないようだった。


「えっ、結婚するの?」


「正確には政略結婚らしいんだけどね」


頭を鈍器で殴られたとは、まさにこう言うことを言うんだと思った。


「結婚って…」


そんなことは一言も専務の口から聞いたことがなかった。


何それ、どう言うことなの?


どうして、そんな大切なことを教えてくれなかったの?


いろいろと言いたいことがある…けれども、私が先にやることは彼女たちの前から離れることだった。


逃げるように給湯室の前から立ち去って、資料室に駆け込んだ。


中に足を踏み入れたのと同時に、私はその場に崩れ落ちた。


「――ッ、うっ…」


私の目から涙がこぼれ落ちた。


結婚って言う大切な話をどうして教えてくれなかったの?


何でそんな大切なことを黙ってたの?


今日の『武川物産』との食事会は、結婚のことを話しあうためだったの?


私を同席させようとしなかったのは、そのためだったの?


いろいろと言いたいことがたくさんあるけれど、その中からどれを専務に伝えればいいのかわからなかった。


「――そう、か…」


私は泣きながら呟いた。


もう、その日がきたんだ…。


専務から離れる日がもうきたんだ…。


いつかはくるだろうと思っていたその時期がもうきたんだ…。


いつまでも専務を独り占めにする訳にはいかない。


私には私の、専務には専務の人生がある。


もう離れないといけない。


結婚する専務のそばをいつまでも私がいる訳にはいかない。


だから、ちゃんと専務のそばを離れよう。


結婚する専務に笑顔で“おめでとう”と笑って、彼のそばを離れよう。


子供の頃からずっと好きだった、ずっと愛していた――今まで伝えることができなかった自分の気持ちを彼に伝えて、離れよう。


私は泣きながら、自分にそう言い聞かせたのだった。



「ただいまー」


和伸さんが帰ってきたのは、夜の11時近くになってからだった。


「お帰りなさい、和伸さん」


お風呂から出たこともあったので、私はバスローブ姿で彼を迎えた。


「まだ起きてたの?


先に寝てていいって言ったのに」


そう言った和伸さんに、

「少しばかり残業して、家に帰ってから夕飯を作って、お風呂に入ってたらこんな時間になっちゃったの」


私は答えた。


外食だと栄養バランスが偏るうえにお金がかかる。


そのこともあり、どんなに家に帰るのが遅くなっても夕飯は自分で作っているのだ。


「舞らしいと言えば舞らしいな」


和伸さんはクスッと笑うと、椅子に腰を下ろした。


「お茶でも飲む?」


そう聞いた私に、

「いいよ、舞も疲れてるんだろ?」


和伸さんは首を横に振った。


それに対して私は和伸さんのところに歩み寄ると、

「疲れてなんかいないよ」

と、言った。


精悍なその顔に自分の顔を近づけると、

「――ッ…」


唇を重ねたのだった。


彼の首の後ろに自分の両手を回すと、ギュッと抱きしめた。


唇を離すと、

「――舞…?」


和伸さんが戸惑った様子で私の名前を呼んだ。


当然の反応だろう。


そう思いながら、私はまた彼と唇を重ねた。


「――ッ、んっ…」


舌で彼の唇をなでると、恐る恐ると言った様子で唇が開いた。


口の中に自分の舌を入れると、彼の舌を絡ませた。


「――んっ、んんっ…!」


彼の脚の間に自分の膝を割り入れた。


膝を使ってグッとそこを押すと、和伸さんの躰がビクッと震えた。


その反応が嬉しくて、私は唇を離した。


「――んっ、舞…」


唇を和伸さんの耳に近づけると、彼はビクビクと躰を震わせた。


チュッ…と耳に口づけると、

「――あっ…」


彼は声をあげた。


和伸さんのスーツに手をかけて脱がしにかかると、

「――舞、待って…」


彼は止めようとした。


だけど、

「――待てない…」


私はそう返事をすると、彼のスーツを脱がしたのだった。


シャツのボタンを外しながら、首筋に唇を落とした。


「――ッ、ああっ…」


声をあげて、ビクビクと躰を震わせる彼の反応が嬉しくて仕方がなかった。


私が彼をそうさせているんだと思ったら、背筋がゾクゾクと震えているのが自分でもよくわかった。


ベルトに手を伸ばしたら、

「――舞、それはちょっと…」


和伸さんが首を横に振った。


私は彼の訴えを無視すると、ベルトを外した。


前をくつろげると、下着越しから存在を主張している彼の灼熱に触れた。


「――ああっ…!」


ギュッと握り込むと、彼はさらに反応した。


「――舞、待って…」


和伸さんが私の背中に自分の両手を回すとしがみついてきた。


下着の中に手を入れると、主張している彼の灼熱に指を滑らせた。


「――あっ、ヤバい…」


和伸さんは声をあげて、息を吐いた。


そっと先に指を触れさせると、

「――んっ、ああっ…そこは…!」


彼はビクビクと躰を震わせて、声をあげたのだった。


灼熱を握り込んでこするようにして動かしたら、

「――あっ、ああっ…!」


背中に回している和伸さんの両手の力が強くなる。


私が彼をそうさせているんだと思ったら、興奮してきているのが自分でもよくわかった。


和伸さんもこんな気持ちになって、私を攻めているのだろうか?


そう思いながら、私は自分の唇を和伸さんの唇と重ねた。


「――ッ、んっ…!」


口の中に舌を入れて、彼の舌と絡ませながら、灼熱を握り込んだ。


「――んっ…んんっ、んっ…!」


和伸さんがビクンと躰を震わせたのと同時に、私の手の中で灼熱が熱を放ったのだった。


唇を離したのと同時に、和伸さんは深く息を吐いた。


「――どこでそのテクニックを覚えてきたんだよ…」


荒い呼吸をしながら、和伸さんが言った。


「――気持ちよかった?」


そう聞いた私に、

「…そりゃ、頭が真っ白になるくらいにね」

と、和伸さんは答えた。


「今日はずいぶんと積極的で驚いたよ」


シュルリと、バスローブのひもが床に落ちた。


「――えっ、なっ…!?」


和伸さんが私のバスローブを脱がせていることに気づいた。


「ま、待って…!」


脱がせているその手を止めようとした私だけど、

「ダメ、待てない」


和伸さんはそう言い返すと、私からバスローブを脱がせたのだった。


パサリと、床のうえにバスローブが落ちた。


「――あっ、んんっ…!」


和伸さんの唇が胸の先に触れた瞬間、私の躰が震えた。


「俺とキスした時からずっと欲しかった?」


「――やっ、違っ…!」


そう声をかけてきた和伸さんに、私は首を横に振って答えた。


ショーツ越しになぞってきた彼の指に、私の躰がビクンと震えた。


「――待って、ダメ…」


そう訴えた私の声は、

「我慢できない」


見事に一蹴されたのだった。


ずるりとショーツを脱がされたかと思ったら、洪水状態のそこに和伸さんの指が触れた。


つぷり…と指が中に入ってきて、ゆっくりと中をかき回される。


「――あっ、ああっ…!」


彼の指に感じて、ビクビクと躰は震えてしまっている。


ずるいよ、和伸さん…。


「――やあっ、無理…」


和伸さんにそう言って訴えるけれど、

「ここでやめたら、後で舞がつらい思いをするだけだよ?」


またもや一蹴されてしまった。


「――んああっ…!」


すでに敏感になっている蕾に、彼の濡れた指がさわった。


クルクルと円を描くようになぞったり、軽く爪を立てられたりと、彼の思うままに蕾を弄ばれる。


「――ひゃっ、やあっ…!」


蕾を攻めてくるその指に逆らうことができない。


躰はビクビクと震えて、涙を流すことしかできなかった。


「俺のことを気持ちよくしてくれたお礼に、舞を気持ちよくさせてあげる」


「――んっ、あああっ…!」


蕾を激しくこすられたせいで、躰が震えた。


「――やっ、やあっ…!」


頬を伝っている涙をぬぐう余裕は、私の中にはもうなかった。


「――舞…」


和伸さんが耳元で、私の名前を呼んだ。


「――好きだよ、ずっと愛してる…」


彼はささやくように、そう言った。


「――あっ、ああああっ…!」


ビクンと躰が大きく震えて、頭の中が真っ白になった。


「――あっ、はあっ…」


フラリと後ろへ倒れそうになった私の躰を、

「おっとっと…」


和伸さんは自分の方へと引き寄せたのだった。


「舞」


ポンポンと、和伸さんが私の頭をなでてきた。


「――和伸さん…」


私が名前を呼んだら、彼は微笑んで唇を重ねてきた。


――幸せになってね、和伸さん


私はそう願った。


結婚して幸せになって、時々でいいから私のことを思い出してね…?


そう願いながら目を閉じたら、涙が頬を伝った。

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