『Re:rights』VS『Universal Soldier』②
「はあ、はあ、はあ...」
敵に気づかれないようにゲームでは上がるはずのない息を静かに整える。あれからマップの端まで走り抜けて来た、ここまで逃げてればしばらくは見つからないだろう。
「おい、大丈夫か」
二人して障害物を背もたれにして身を隠す。こうしていると暖かい日差しに微風が葉を揺らして心地よかった。
「はい、大丈夫です」
内海は抑えていた右腕を覗き込んだ、大事には至らないが銃弾が掠れてできた横一線の傷跡が生々しく血が滲んでいる。
この世界に囚われた内海には物理攻撃が通用する。それは苦悶とまではいかないが唇を軽く噛み、痛みを我慢している内海の表情からもはっきり分かる。
「それより、龍ケ崎さんの方こそ大丈夫ですか?」
そう言われて自身の体力ゲージを見てみると体力は半分以下になっていた
それもあの時、内海を庇うために煙に突っ込んだ時に相手の銃弾が腹部に当たったり足をかすったりで体力がごっそり削られいた。
「俺は大丈夫だ」
「すみません、私のせいで」
内海は足を折った座り方のまま軽く頭を下げたが龍ケ崎はその言葉に何も言わなかった。それからしばらくお互い息を整える為に沈黙が続いた。
両者とも何かを考えて言おうか言わまいか相手を探っているようだったが痺れを切らして最初に話しかけたのは龍ケ崎の方だった。
「相手は3人、いずれも体力は削れていない、もしくは少ししか削れていないだろう」
あの時、鴉野の声が聞こえた時だ逃げろと言っていた。その声色からかなり危うい状況だったは間違いない。
逃げている時に何度かコンタクトしてみたが反応はなかった。
そして今ホログラムを見てみると『Re:rights』の人数が4から2になっていた。
龍ケ崎の言葉に手で膝を抱え込んでその中に顔を埋めている内海は湿っぽい声色だった。
「私が飛び出した時に目の前にスナイパーがいて、私を狙ってたんです。それを見たら私、一歩も動けなくなって、そしたら鴉野さんがその方に突進していって発砲したんです。そしたら私に向けられていた銃口が少しずれて運良く急所を外れたんですけど、鴉野さんがもう一人の相手にやられてしまったんです。そしたらそれを助けようとした凛さんも飛び込んで行ったんですけど、だけど...」
それ以上言おうとはしなかったが龍ケ崎にはその続きは分かった。
しかし、気になったのはこれまで見てきた内海の様子からはだいぶ違う事だった。いつもの強気な性格はどこにいったのか、弱々しく、脆くて今にも壊れてしまいそうだった。
もしかしたらこれが内海の本当の姿なのか。死の恐怖からいつもの強気な性格というのは弱々しい本当の自分を隠すためなのかもしれない。
「俺だって悪いんだ、迂闊だった」
もっと様子を見れば良かった、安直に状況を判断してしまった結果こちらが不利になってしまった事は悔やんでも悔やみきれない。
内海は顔を伏せたままで龍ケ崎のことを見ようとはしなかった。龍ヶ崎も天井の割れた窓から差し込む日差しを見るだけでまたしても沈黙が続いた。
目を閉じると今にも眠ってしまいそうだった、考えれば考えるほどその思いが強くなっていった。
この状況で勝てる見込みはかなり低い
龍ケ崎は目を開けると隣で顔を伏せたままの内海を見た。
表情は見えないが多分泣きそうな顔を我慢しているんだろうと想像できた。当然だ、普通の人間なら自分が死ぬかもしれないこの状況で平静を保てる人間などそういない。しばらくの沈黙の後、龍ケ崎は不意に問いかけた。
「お前、勝ちたいか?」
「今なんて…」
聞こえた言葉に内海は顔を上げて龍ケ崎のことを見て聞き返す。
「だから、お前は勝ちたいのかって聞いてるんだ」
龍ケ崎は先程よりも大きな声でそういった。確実に言ったのだ勝ちたいのかと
誰が見ても絶望的状況で問いかけた龍ケ崎に内海は明らかに困惑した。
もしかしたら何か裏があるのかもしれないとすかさず聞き返す。
「それはどういう意味ですか?」
「どうって、勝ちたいか勝ちたくないのかを聞いてるだけだ」
内海は目の前にいる龍ケ崎を見つめた。どうして今聞くのだろうかという疑問があるが、目の前にいる本人はいたって真剣に聞いている。
「もちろん、勝ちたいですよ」
内海はそう言った、それはもちろん本心だ。勝ちたいという気持ちはある。けれどこの状況を覆すことなど出来るのだろうか。疑問を投げかけるように、不思議そうな表情を浮かべた。
「そうか」
龍ケ崎はそう言うと内海から視線を再び天井へと向ける。どうやらそれだけが聞きたかったらしく口元を緩ませて大きく息を吸うとまたしても無言になってしまった。
内海もそれに応じて口を閉じて考える。今の質問の意味はなんだのだろうか、意味がないことをわざわざこのタイミングで言うとは思えなかった。
しかし、考えれば考える程質問の意味は見えてこなかった。
内海はとうとう考えることを諦めて龍ケ崎に質問の意味を聞こうと口を開いた時、龍ヶ崎が独り言のような小さな声で呟いた。
「なんで俺がゲームをやり始めたか知ってるか?」
漠然とした質問に内海は質問しようと口で答えた。
「いいえ、それが今の状況と何の関係があるんですか?」
龍ケ崎は面白そうに内海の質問を聞くと再び話を始めた。
「小学生の時だよ、最初は『CLOSE OF WOLRD』を友達に誘われたんだ。一緒にやってみないかってな」
「ちょっと、私の質問を…」
内海が止めようと話を止めようとしても龍ケ崎は口を閉じなかった。むしろ先程よりも面白そうに話を続ける。
「そうしたらどっぷりハマってな、ずっとやってても飽きなかった。いやむしろどんどん面白く感じるようになってゲームの世界にのめり込んでいった。だから『AFW』に手を出したのも自然だった」
『AFW』その言葉は内海も聞いたことがある。いや、内海だけの話じゃない、誰しもがその名前を一度は耳にしている。それもそのはず、発売された年に十代だった子供たちはセカンドティーンと呼ばれたほどの大人気ゲームだからだ。
それは単純に面白いというだけではなく2つの革新的な技術が盛り込まれていた。
というのも『AFW』が何を隠そう世界で初めてMMO技術を使ったゲームだった。
今までのゲームはそれまで、目に『Lib』と呼ばれるメガネをかけることで現実世界に視覚的に違う世界を重ねるゲームだった。しかし、『AFW』ができるとそれまで視覚だけだった物が体感的にゲームの世界に直接入ることができるようになった。
このことから、世界中で『AFW』は爆発的に売れそしてついに社会現象までを巻き起こた。
そしてもう一つの革新的な技術というのがMMO技術に伴う五感技術だった
今までのゲームではものを触れてもその感覚というのはなかった。しかしそれをこのゲームでは変えたのだ。
『AFW』は革新的で五感を全てを体感できるものだった。
それは、ゲームの世界だけではなく科学の発展にも貢献した。
この二つの新技術により発売開始時から爆発的な人気を誇った『AFW』だが、何を隠そう五年前、龍ケ崎が優勝したのも『AFW』の世界大会だった。
「『AFW』の世界で仲間と大会に出て優勝して、もっと強い相手と戦いと思った。ただそれだけだった」
龍ケ崎は言い終わると、何かを考えるように宙を見上げるが直ぐに内海の方を見て表情を確認するように言った。
「お前は今勝ちたいと言ったな」
その問い掛けに内海は疑念を残しながらも無言で頷いた。それを見た龍ケ崎は口元にうっすら笑みを浮かべ安心したように言葉を続けた。
「『Re: Rights』は負けないさ、リーダーの俺が保証する。」
その目は内海をしっかりと見据えていた。ここまで言い切れる根拠はどこから出てくるのだろう、しかし、その顔は冗談などではなく自信を持っていた。
「それじゃあ、作戦を話すぞ」
龍ケ崎は小声で隣に座る内海に話しかけた。
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