『Re:rights』VS『Universal Soldier』

クラン『Universal Soldier』と何年かぶりに顔を合わせた。場所は前回と一緒で秋葉原の交差点中央

「対戦よろしく」

龍ケ崎の目の前に立った相手のリーダー『白尾』は丁寧に手を差し伸べて挨拶をした。その行動からもゲームでの体位振る舞いに慣れているという印象を受ける。

龍ケ崎は差し出された手を受けて軽く上下に振った。

昨日、あれから随分と考えてみたがほかの誰かに話すことはやめる事にした、特にクランメンバーに話すと動揺するだろうし内海が俺だけにしか話した所を見ると、むやみに他言することは自粛したほうがいいと思ったからだ。だからあのことは龍ケ崎と内海しか知らない事になる。

内海のことを横目に見ると少し緊張しているようにも見えた。自身の身に起こっている出来事を考えれば当然だが、それでも真っ直ぐ目の前の敵を見据えているのは覚悟を決めているようだった。

「お手柔らかに」

そう言って龍ケ崎は意思を固めると光に体が包まれる。


瞬きをして様子を伺うと転移された場所は廃墟の工場だとわかった。といっても一面緑に覆われており天井の割れた窓から太陽の光が差し込んで春の優しい風が吹いており、まさに絵に描いたような日和といった感じだ。

しかし、のんきなことをしている場合じゃない、龍ケ崎は一同を見回して口を開いた。

「作戦開始だ」


第2戦

『Re: rights』vs『Universal Soldier』


『戦闘開始』



作戦通り試合早々に龍ケ崎たち『Re:rights』は二人組に別れて行動することになった。

「相手は一定距離まで近づかないと動かないはずだ。そこを二人で狙う、いいな」

蔦が絡み合う物陰に龍ケ崎と内海は身を隠すように体を丸める。

龍ケ崎の手にはハンドガン、内海の手には刀が握られ辺りを気にしながら無言で頷いた。

戦闘が開始してから20分、未だに両者とも動きはなく心地よい風が葉を揺らす音が聞こえるだけだった。

龍ケ崎には考えがあった。相手は単独行動をするはず、ならばこちらは待ち伏せをする。

当然だが一対一より二対一でのほうが有利であるのはもちろんの事。

龍ケ崎はふと後ろで自分と同じように体を丸める内海を見て昨日の事を思い出す。

肉体も精神もこの世界に閉じ込められている。つまり戦いで死ぬということは実際に死ぬということだ。

思うと引き金に置かれた指が少し震える。本人は龍ケ崎よりも平気そうな顔でいるが内心は同じ、いやそれよりも恐怖を感じているに違いない

「大丈夫ですか?」

しばらく見つめていたからか、内海は心配そうに龍ケ崎の表情を覗き込む。まさか自身よりも危うい立場の人間に心配されるなんて思ってもいなかった。

「ああ、大丈夫、ちょっと考えすぎた」

そうだ、今は試合に集中しなければいけない、いつ敵が来るかもわからない状況だ油断は出来ない。龍ヶ崎が意識を引き締めた、その時だった

葉の揺れる音に混じって何か音が聞こえた。

張り詰めた空気の中で一瞬だけ聞こえた人の足音で龍ケ崎と内海はお互いを見合っていたのをやめて音の方へと意識を集中させた。

音が聞こえたのは龍ヶ崎と内海が身を潜めている障害物の向こう側の場所から聞こえた。一瞬だったが人の足音だった、ならば障害物を挟んだ向こう側に一人いるのは確実

手に握るハンドガンに力が入った。不意を突くのなら挟み撃ちが一番だろう。

龍ケ崎はもう一度視線を内海に戻しアイコンタクトを送った。伝わるか少し不安だったが内海は無言で頷き音を出さないように慎重に身を丸めながら障害物を伝って俺とは反対側、障害物の端と端に位置を取って障害物の向こう側にいるであろう敵を追い詰める。

龍ケ崎はごくりと生唾を飲みこむ、吐く息の音でさえ出してはいけない。静かに引き金に置いた指に生暖かい風が当たる。龍ケ崎は意識を集中させる為に目を閉じ頭の中を真っ白にして余計なことを考えないよう集中させると目を開けて内海を見た。すると内海はこくりと頷きタイミングを見計らう。突撃の合図を待つその顔は運命を見据えていた。

龍ケ崎はその様子に同じく頷くと丸めた体を一瞬で起き上がらせて一歩踏み出した


障害物となる壁が徐々に視界から消えていき向こうにいる敵の姿が見えはじめる。

「ッ!!」

その光景に龍ケ崎は驚いた。確かに障害物の向こう側には敵が一人いた。高伸長でがっちりした体格をしており背中しか見えなくても丈夫な体型が分かった。

相手は背中を向けている、つまり隙を見せているといことは攻撃をするにはこれ以上のチャンスは無いだろう。それも手に握られたアサルトライフルの自身に向けられた銃口が見えるまでは

「龍ケ崎逃げろ!」

ホログラムを見る暇もなく鴉野の声が聞こえ図られたと気づいたときには遅かった。

龍ケ崎の上半身が障害物から出終わると同時に敵はアサルトライフルの引き金を引き、辺りには火薬の破裂音が耳元でキーンと鳴り響いた。

龍ケ崎は咄嗟に地面に倒れ込むように体をねじり急所目掛けて打ち込まれた銃弾を避けると手に握ったハンドガンの引き金を力強く引いた。

龍ケ崎の弾丸は敵の腹部に当たり体力ゲージが少し減ったのを確認すると反対方向から出てきた内海に叫ぶ。

「内海!」

言われた本人はいきなりの出来事に驚いたようでその視線は龍ヶ崎が対峙している敵ではなかった。

その理由は直ぐにわかった

「逃げろ!」

鴉野の声と共に大きな発砲音が聞こえると内海の右腕を銃弾が掠った。痛みからだろうか、内海は右腕を抑える

「まずい」

龍ケ崎は素早く体を起き上がらせるとハンドガンを敵に向けたまま走り出した。

敵は先ほど腹部を撃たれた事で動揺し反応が遅くなっている、その隙をついて龍ケ崎は銃口を急所の頭部目掛けて引き金を引くと銃弾は敵の頭を正確に貫き相手の体力ゲージは瞬く間に空になったと同時に光となって消えていく。ゲームの世界だから当然だ、だけど目の前で立ちすくむ内海は違う。

一発目は右腕を掠る程度だったが次は確実に急所を狙ってくるだろう。

その場合はどうなるのか先ほどの敵のように光となって消えるわけではない。

龍ケ崎は右手に持っていたハンドガンを投げ捨てると内海の方へと手のひらを向けた。

「マジック 『スモーク』!」

前の試合で内海が使った技だ、攻撃性は無いが視界を遮ることができる。

思った通り龍ケ崎の手から飛び出てきた光は内海の足元に着地すると同時に黒い煙を吐き出した。

龍ケ崎は躊躇することなくの煙の中に走り込んで内海に飛びかかり体ごと地面に倒す。煙の中にいる二人に目掛けて発砲された銃弾が抜ける。

「逃げるぞ」

龍ケ崎は倒れた内海の手を握ると素早く起き上がらせる。次の攻撃が来るのは時間の問題だった。握った手を引っ張りあたりが煙に包まれる中を走り出して逃げ出す。

その間にも銃弾は煙の中を当てもなく撃ち続けた、その銃弾をくぐり抜けるようにして龍ケ崎は内海を連れ立ちその場から一目散に離れた。

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