『Re:rights」VS『Flicker Side』②

「何かいい方法でも思いついてるのか?」

目の前に運ばれたコーヒーの湯気が風の流れでメガネを曇らせた鴉野はメガネをとって吹きながら龍ケ崎に問いかけた。

そんな龍ケ崎はゆっくり口に残るコーヒーを飲み干すと静かに目を閉じ淡々と答える。

「チームキルをわざと狙う」

その答えはクランのメンバーを驚かせたと同時に笑みがこぼれた。

「なるほど、おもしろい」

「チームキルをわざと狙うか...」

『Re: Rights』メンバーである鴉野と凛はそう言って何か深く考え込むように腕を組んだ。そんな中で一人取り残されたような気がした内海は控えめに当然の疑問を龍ケ崎に聞いた。

「そんな事出来るんですか?」

故意に相手の最大のミスを誘うことなんて出来るのだろうか、しかも相手は素人ではなく実力がある言わばプロ集団だ。

そんな考えを読み取った龍ケ崎は自信ありげに目の前に座る内海に堂々と宣言した。

「ああ、出来る」

龍ケ崎の目に嘘偽りはなく、何かを確信しているようだった。

「どうしてそんな、自信を持って...」

「簡単だ、敵をおびき出せばいい」

「おびき出すってどうやって?」

「所定の場所に来るよう呼び出すんだ」

「呼び出すって、そんな事して素直に敵が来るとは…」

「来るさ」

そう言うと龍ケ崎は視線を店内のテレビ画面に向ける。それにつられるように内海の視線もテレビ画面を見つめた。

そこに映し出されていたのは初戦の対戦相手である『Flicker Side』の今までの対戦動画だった。

「見ての通りあいつらは遠距離武器を使うのが得意らしい」

龍ヶ崎が言うと画面には遠距離から敵を確実に仕留める姿が映し出されていた。

それを見る限りでは、まだ出来て間もないクランといえども技術力は確かなようだ。

「つまり相手の長所と短所を利用するんだよ」

「相手の長所と短所を利用する...」

「それがわかるか?」

龍ケ崎はそう言って面白そうに内海の事をみつめる。

「長所と短所...」

敵が一瞬でも隙を見せれば遠距離から確実にヘッドショットを打ち込む。さらにリーダ日比野は類い稀なる反射神経を自身の武器として次々と倒していく。まさに新進気鋭のクランと呼ばれるだけはあると思う。

「短所なんて」

ない。そう言葉を続けようとした時、まさにその時に画面に映し出された戦闘にある共通点があることに気づいた。

「動かない」

どの戦闘を見ても『Flicker Side』のクランメンバーは所定の位置から動かずに待ち伏せをしている。負けた試合の戦績を見てみると殆どが時間オーバーによる判定負けだった。

「遠距離型の武器を使うやつには大まかに分けて二種類いる」

その言葉に内海の視線は目の前の伝説と呼ばれたプレイヤーを見据えた。

「ひとつめは武器の威力を最大限に発揮する為にわざと近接攻撃を仕掛ける奴だ。大体のゲームだと遠距離武器はかなりの高威力を持っている、つまり攻撃に特化していることになる。胴撃ちでもかなりの威力を出せるってわけだが、これはかなりの慣れと実力が必要だ。そして二つめっていうのが遠距離型だ、攻撃は近接に比べれば攻撃力が下がるが敵に気づかれないで弾を撃つこともできる。それにヘットショットをすればどんな距離でも即死になるこのゲームも同じだろ?」

「ええ、頭と心臓は人間の最大の急所、一発でも弾が当たれば即死判定です。ですがそれも演出です、このゲームじゃ血だって出ません」

「まぁ、つまりそう言うことだ」

龍ケ崎はサラッと話を終えコーヒーカップを手にする。それを見てすかさず内海は恥も知らずに攻め寄った。

「つまりどういうことですか」

握ったカップを口元まで持ってきた龍ケ崎はその言葉に手を止め内海に不機嫌そうな目を向けた。

「お前なら即死であるヘッドショットの弾が来ると分かっていたらどうする?」

「どうするも何も、それは」

ヘッドショットの弾が来ると分かっていたら、そもそもそんな事考える余裕なんてないのでは無いのだろうか。内海がそう考えている間に目の前の龍ケ崎は中身を半分残したカップを置いて正解を言った。

「普通は避けるだろ」

そこで、これまで聞き手に徹していた鴉野が龍ケ崎の言葉に付け足す

「それは敵に銃口向けるとマップ表示されるサイレントシステムのおかげだけどな、このゲームにもあるんじゃないのかい?」

「ええ、もちろんありますけど」

今ではVRMMOゲームにおいてどれにもあるシステム故もちろん搭載されている。

「それで、作戦の説明をするぞ」

龍ケ崎は出鼻をくじかれた話を戻すように腕を組んで内海を見つめた。

「さっきも言ったように敵をおびき寄せる」

「それから、が問題だね」

凛が口に手を当てて龍ケ崎の言葉を遮った。

「相手だってやられまいと何か仕掛けてくるはず」

そう言う凛が不気味に笑っているのを内海は見落とさなかった。周りをみると龍ヶ崎も鴉野も同じように笑っている、つまり自分だけ一人が内容を未だ理解できていないのだ。それは長年の信用から得られるものだろう今さっき出会ったばかりの内海には分からないことが多い。

「だからそれを利用する」

「利用ですか?」

「俺たちは最初の何時間かを動かないで入ればいいんだよ。待ち伏せっていうのは敵が動かないことには何もできやしない。つまり敵からの見え見えの囮作戦であってもそこに敵が確実に来るなら断る理由はない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る