『Re:rights」VS『Flicker Side』③
今の話を聞いて内海は自分なりに頭の中で考えをまとめた。
「それを利用する…」
龍ケ崎の言葉を頭の中で巡らせる。そんな中で一つ気になった事があった。それはテレビ画面に映し出されている対戦動画、リーダーである日比野が一人立っていた。
何のために。内海が考えようとした時、答えはすぐに映し出されていた。
「相手は囮作戦を使ってくるんじゃないですか?」
龍ケ崎はその問に満足げに笑みを浮かべると内海の話に付け加える。
「そう、相手は確実に狙うために囮を使うだろう。だから俺たちはその作戦に乗っかるんだ」
「つまり相手の囮作戦を使ったチームキルってことですか?」
龍ケ崎は内海の質問にすぐには何も言わずにコーヒーを一口飲んでから改めて口を開いた。
「作戦は簡単だ、最初の位置で数時間待ち相手にこちらは動かないという意思を伝える。そして全体に公開されるチャットで場所と時刻を敵に知らせるんだ。そうして乗ってきた相手を狙っておく必要がある。鴉野、お前の出番だ」
相手の攻撃範囲に横入りするのはかなり危険だ、熟練した勘、建物場所などから敵の位置を予想する能力が左右する。鴉野はそれに関しては『Re: Rights』で、いや世界で見てもかなりの実力がある。
「まかせとけ」
そう言って鴉野は大きく頷いた。
「凛、お前はカバーに回ってくれ」
「了解」
凛も頷くと頭の中でイメージを作り出すような素振りを見せた。その様子を見ながら龍ケ崎は次に内海の方を見た。
「お前のさっきの戦いぶりから見て、銃の扱いは初心者だ。だけどお前の戦い方で一つ可能性を思いついた」
「なんですか?」
「このゲームでマジックはどんな役割を持っているんだ?」
唐突に聞かれ内海は一瞬だけ困惑の様子を見せたがすぐに答える。
「『SMGF』内でのマジックは85種類、その全てが非殺傷性のもので、この前の『フラッシュ』のような目くらましのものから条件付きですが物質を移動させたりと、使い方によっては作戦の主要部を補うこともできます」
「開発者であるお前はその種類の特性について一番知っているんだろう?」
「ええ…まぁ」
内海は否定の言葉を口にしなかった。龍ケ崎はその反応に満足すると不敵な笑みを浮かべながら問いただした。
「それじゃあ聞くが、マジックの中に相手の視界を妨げられる煙のような物はあるか?」
「それなら、『スモーク』というのがあります。これは放った場所から半径10メートルに煙を使って視界を奪うというものです」
「なるほどな、それじゃあお前は、マジックを使って俺の合図で煙を出してくれるか」
「私がですか?」
「他に誰がいるんだよ」
その言葉にほかのメンバーを見つめてみるが、それぞれにはリーダーである龍ケ崎から適材適所の役目を与えられていた。
「分かりました」
言いながらどこか不安げな内海の顔を見て、昨日の自信有り気な言葉はどこにいったのかと言おうとして口を開けようとしたが。
「大丈夫です、私ならできます」
自分自信に問いかけるように力を込めて言った内海を見て口を閉じた。
夏の生ぬるい風が肌に当たって目を開けると龍ケ崎は勢いよく走り出した。
瞬間、敵が手にした銃を向けてきたのが分かった。引き金には手が置かれマップ上には目の前の敵の名前と位置が表示された。龍ケ崎はすかさず叫ぶ
「今だ、内海」
言葉と同時に龍ケ崎の体を避けるように通過する光が目の前で黒煙を炸裂させると同時に龍ケ崎はためらうことなくその煙への中へと突っ込んでいった。
マップに表示された敵までわずか数メートル。そこで龍ケ崎は叫んだ
「ソード 『時雨』」
柄の長い刀『時雨』 事前に登録している武器は言葉と同時に右手に握られる。
そこで龍ケ崎はわざと速度を落とし遅めに煙を切り裂くように横に振り払った。敵はもちろん攻撃が来ることを分かりきっていて上半身を反らして龍ケ崎の一撃を避ける。
刃先が敵のリーダー日比野の鼻先に微かにあたったが体力ゲージは減る様子はなかった。
そんな相手が笑ったのはその時だった、余裕ぶった顔をした瞬間、遠くから銃声が聞こえ、咄嗟に目の端のマップを見ると左のビルからの攻撃。鴉野の弾丸だ
それと少し遅れてもうひとつの弾丸が来る。マップには右からの攻撃だとわかる。つまり敵の弾丸。距離すればかなり遠い、到達するにはかなりの時間を要するだろう。
これだ!龍ケ崎は心の中で呟いた。相手のスナイパーはかなりの実力だ、一瞬の隙を見えた今、確実にヘッドショットを狙ってくるはず。一瞬の気の緩いも許されない真剣勝負、左右から来る敵味方の弾丸
その中で龍ケ崎は鴉野が放つ銃弾避けようと敵が前に体を起こそうとするのを見落とさなかった。
龍ケ崎は敵の腕を取ると、まるで敵を助けるかのように後ろに体重をかけた。
日比野は自身の腕を引っ張る龍ケ崎に目をやるとさらに驚くことが、龍ケ崎の後ろには先程までいなかった人影があったのだ。
一人では到底前のめりに斬りかかった体勢起こし上げるのは無理だ、だけど一人が後ろで支えるようにすればどうだろうか。
先程まで姿さえ見せていなかったのにどこからともなく現れたひとりのプレイヤー
ショートカットの茶髪に目鼻立ちがしっかりしている凛が龍ケ崎の体を引っ張る。
日比野は今更、前に体重をかけた体を止めることはできなかった。そのまま身に任せて前へと倒れ込もうかとした時には日比野の頭には先ほどまで龍ケ崎の頭があった場所に来ていた。
敵の囮作戦を使ってチームキルを誘う。
一見むちゃくちゃな作戦だが実際、目の前の敵は自身のメンバーが放った銃弾で倒れた。
勝負の決着は一瞬、目の前に表示された『WIN』の文字を見てため息を吐いた龍ケ崎は立ち上がり同じように勢い余って倒れた凛の手を取った。
「本当に、成功させるなんて」
遠くでその姿を見た内海は勝利を知らせるホログラムを横目に確信するように言った。
「もしかすると本当に…」
その独り言を続けようとした時、龍ヶ崎が見ていたことに気づいて内海は咄嗟に口を閉じ心の中で言葉の続きを呟いた。
(私を助けてくれるかも知れない…)
対戦結果 勝者『Re: Rights』
試合時間4時間2分34秒
『Re: Rights』
残り4人
『Flicker Side』
残り3人
『Flicker Side』の反則負けにより『Re: Rights』の勝利
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