『Re:rights』VS『Flicker Side』

対戦の当日、お互いの集合場所は龍ヶ崎が最初にこの世界に舞い降りた交差点だった。

『Re: Rights』vs『Flicker Side』

頭上には両者のクラン名が表示されその下にお互い横一列に並び顔を合わせる。龍ケ崎は目の前に立った相手のリーダーを上から下まで眺めみる。高伸長に緑色の短髪、背中には刀の柄が少し見えていた。

「それじゃあ、早速始めるとするか」

相手のリーダー日比野(ひびの)は薄く笑みを浮かべ目の前に対峙する龍ケ崎に言った。

口調が挑発じみているのはこういうゲームではよくある話だ。そんなことにいちいち気を悪くしていたんじゃ身が持たないし変に気にして動揺し試合に影響してもいけない。

「お手柔らかに」

龍ヶ崎が淡々とそう言うと同時に頭上に戦闘開始という文字が浮かび上がり警告音がけたたましく鳴り響いた。すると先程まで龍ケ崎たちの周りを歩いていた群衆は消え去り『Re:rights』と『Flicker Side』はそれぞれ光に包まれ所定の場所へと移動させられた。

目の端にはそれまでなかった体力ゲージがあり、その下には周辺を移すマップ、反対側には事前に登録していた武器の種類などが確認でき試合が始まったことを実感出来る。

龍ケ崎はそれらを確認し終えるとホログラムを呼び出して刀を手元に出したと同時に感覚を確かめるように何度か強弱をつけて握る。

大きな溜息を吐き出し同じように準備をし終わったメンバーを一様に見つめ頷いた。

「それじゃあ、作戦開始だ」


第1戦

『Re: Rights』vs『Flicker Side』


『戦闘開始』



人影が全くなくゴーストタウンと化した秋葉原で不気味に光を放つ大型テレビの画面には戦闘の経過時間と残りのメンバーが表示されていた。

経過時間4h30m29s 『Re: Rights』残り4人 『Flicker Side』残り4人

それまでに戦闘は一切なく、それどころか最初に挨拶をして以降クラン同士はお互いの姿を見せなかった。

しかし、その状況が変わったのは挨拶を交わした交差点に龍ケ崎と内海が二人して並んで現れたからだ。

そして、その二人の目の前に立っているのは『Flicker Side』のリーダー日比野だ

お互い微妙な距離を取りにらみ合うようにして探りを合う。こうして数時間ぶりにに対峙しているのはもちろん偶然なのでは無い。話は2時間ほど前、龍ケ崎が全体の会話に時間と場所を提示したのだ。

そんなことをすれば挑発しているとしてプレイヤーから煙たがられるのは言うまでもないが、しかし相手の返事は『承認した』というものだった。

「舐めた真似を」

日が傾き始めた交差点、龍ケ崎自身の影が相手の日比野の方へと伸びていた。

挑発に怒りを覚えている相手の声に答えるように龍ケ崎は呟いた。

「早く終わらせようか」

売り言葉に買い言葉、挑発に挑発で言葉を塗りつぶす。相手が相手、ゲームがゲームなら何かペナルティを与えられる可能性もありえる。

しかし、言われた『Flicker Side』リーダー日比野は苛立ちもせず言葉を返すでも無く、ただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。

夏のような生ぬるい風が吹き龍ケ崎の肌に触れると龍ケ崎は目を閉じ静かに深呼吸をして集中する。

「行くぞ」

つぶやかれたその言葉と同時に龍ケ崎は目を大きく開け、目の前の敵に向かって走り出した。と次の瞬間、日比野はアサルトライフルを取り出し自身に走りかかって来る龍ヶ崎に銃口を向ける。さすが、反射神経は良いみたいだ。しかし向けられた銃口を見て龍ケ崎は冷静に後ろで待機している内海に叫んだ

「内海、今だ」

言葉と同時、もしくはそれより先に内海は敵に向かって手を向けた

「マジック 『スモーク』」

内海がそう叫ぶと手から光が飛び出すように敵に向かっていくとそのまま前を走る龍ヶ崎を避け日比野の目の前で炸裂した。マジックの『スモーク』はただ黒い煙で敵の視界を無くすだけのものである。

日比野は一瞬困惑するがそれも一瞬で

「ソード 『時雨』」

その言葉と同時に黒い煙の中から現れた刀が漂う煙を巻き込み切り裂くように振られる。

その突然の攻撃を日比野は類稀なる瞬発力で煙の中から突如横に振られた刀を体を後ろに反らしてギリギリ避けた。

刀が振られた事で周りの煙は消えていき辺りの風景が晴れていく。

仕留めそこねた敵を龍ケ崎は横目で見る。日比野の顔は煙の中から出てきた刀に驚いたりといった物では無く不敵に笑っていた。

その笑みを龍ヶ崎が見たと同時に遠くから鋭い銃声が聞こえた。

日比野の不敵な笑みの理由、裏をかいた作戦

待ち合わせに一人でいたのは、つまり自身を囮にする為

接近戦を仕掛け自身に突っ込んでくる敵をスナイパーで狙い撃ちをする。

見事なまでに敵の策に溺れた形の龍ケ崎は驚くわけでもなく動揺するわけでもなく。ただ、無表情だった。

その笑みを皮切りに先ほどの銃声と被さるように鋭い銃声が先程より近くで鳴り響いた。

裏の裏、つまり龍ケ崎は敵の囮作戦を知っていた。知っていて最初から本命の攻撃は龍ケ崎ではなく相手とは反対から狙うスナイパーの銃弾であった。

右から来る敵の銃弾、左から来る味方の銃弾

両者の読み合いによって生まれた危機的な状況、しかしそれを楽しむかのように笑い合う両者のリーダー

最初に行動を起こしたのは日比野だった。刀を避けるた為に反らした体を起こし自身の頭を狙うスナイパーの銃弾を避けようとした。

「!?」

その時だった、自身の体が何かに引っ張られる感覚がして日比野は目の前にいる敵の姿に心底驚いた。

敵である龍ヶ崎がよろめき立つ自分の体を助けるように強く手を握っていたのだ

「なにを...」

日比野のその言葉は続けられなかった。このゲームはいくら攻撃を受けても体力ゲージは減るが血が出るという演出はないらしい。

目の前にいる日比野の体力ゲージがなくなり地面に倒れ『WIN』の文字が見えたとき龍ヶ崎は内海の、言葉を思い出していた。

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