capability

龍ヶ崎たちが一つの席に座ると内海は話を切り出すために一度咳払いをした。

「それじゃあ、クラン戦について詳しく説明しますね」

そういうと先ほど同様にホログラムを出現させ何かを押す動作をした。すると店内の壁に設置されていたテレビ画面に電源が入り幾つかの文字が表示された。


『SMGF クラン戦トーナメント』

1.クラン戦の対戦は原則2つのクランが対決する

2.チームキルをした場合は反則とし該当のクランは負けとする

3.一回の対戦に対しての制限時間は24時間

4.戦闘時間終了時、キル人数で決着がつかなかった場合は生存しているメンバーの体力ゲージで判定


映し出されたルールはどれも一般的なものだと言えた。

「武器に関してですが、このゲームのタイトルである『SMGF』の名のとおりソード、マジック、ガンの三種類が存在し、選べる武器は参加者全員同じです」

「つまりプレイヤーの実力次第ってことか」

龍ケ崎は自身の言葉に不敵な笑みを浮かべた。内海はその表情を見て満足しながら再び指を動かして画面の映像を変えた。

「対戦相手は一回戦ごとに勝ち残った中からランダムで選ばれます。またステージも種類は実在する場所や架空の場所を含め全部で380種、その中から毎回対戦場所をランダムで選んでいます」

「まぁ、真っ当なルールだな」

鴉野は画面を見ながら呟いた。それもその筈、それらのは全てどこのVRMMOゲームでも適用されているクラン戦のルールである。

内海は自身よりゲームの世界に詳しい三人にこれ以上話す事はないだろうと三人の顔を見て小さく笑みを浮かべると画面をいくつか飛ばした。

「それで早速なんですが、これが明日、『Re:rights』と初戦を対戦する予定のクランです」

内海の言葉と同時にテレビ画面にはクラン名と共に4人の顔写真が表示された。


『Flicker Side』


「聞いたことがないな」

鴉野は顎に手を置いて写真の人物を一人一人じっくりと見つめた。龍ケ崎も見てみたが名前は疎か人物についても見たことも聞いたことがなかった。と言っても元々、龍ケ崎は他のクランの人間には疎い方だ。

そんな龍ケ崎たちの表情をみてか、内海はホログラム上に書かれている文字を読み上げ始めた。

「どうやら最近実力を出しているクランみたいですね。大会での優勝経験は無いようですが注目視されているクランの一つで、主に遠距離武器での攻撃が得意みたいです」

内海は読み上げるとホログラム越しに俺たちの表情を伺おうと覗き込む

視線が合った龍ケ崎は内海を見つめた。

「対戦場所のフィールド範囲はどのくらいなんだ?」

「ここ秋葉原を中心とした半径8キロです」

こうしたVRMMO技術を使ったゲームではプレイヤーの自由度が上がることによってフィールドの規模が大きくなることがよくある。

実際、VRMMO技術を使ったゲームの殆どが大規模でそれは年々大きくなっているのが事実だ。それを考えるとフィールドの大きさが半径8キロというのはまだ小さいほうではあった。

「そうか、それじゃあ早速、作戦会議と言いたいところだが」

それを言ったところで龍ケ崎は内海をみると腕を組んで言い放った。

「お前の腕ってのはどのくらいなんだ」

クランには内海の名前もあった。いくらこのゲームの開発者だからといっても実際ゲームの腕は未知数、今回のクラン戦に関して言えば個々の実力がかなり重要になるし、それによって作戦も180度大きく変わることだってありえてくる。

内海は龍ケ崎を含む『Re:rights』の顔を見比べたがその表情からは実力を悟ることはできない。

「皆さんの足手まといにはなりません」

「それじゃあ、実際にやってみるか」



先ほど操作を確認してときに、ボタンの一つに『練習場』というのがあるのに龍ケ崎は気付いていた。

なので、言葉と同時にそのボタンを押してみると龍ヶ崎が最初に複数の的を射抜いた真っ白な空間が再び目の前に広がった。

目の前のホログラムに表示されるボタンの一つを押してみると練習を開始するかと書かれていて、察するにこれを押せば最初のような練習ができるのだろうと思った。

「それじゃあ、内海」

龍ケ崎は視線をそのまま内海に向けると思いを感じてか、龍ヶ崎が言う前に三人より一歩前に踏み出すと自身のホログラムを広げて練習のボタンを押してさきほど見た複数の的と共に10sの数字が刻々と小さくなる。

その時間も残りの時間がゼロになった瞬間内海は手にしたハンドガンを的に向けて二発放った。一発の銃弾はハンドガンの反動のためか大きく的の上へとそれていったがもう一発の方は的を見事に打ち抜いた。

しかし、的はすぐさま反撃するように内海に向かって銃口を向けると不規則に動き始めた。するとそれに並行するように内海も動き出し、銃口を的に向けて引き金を引くが当たるのはわずか、的の攻撃が始まり反撃の機会を伺うことすら困難になり始めた。

龍ケ崎は小さく溜息をつくと、その姿を見つめた。

最初は止まった状態で的を狙えたから命中率はそこそこだったが、的が動き自身も動き始めるのでは雲泥の差ほどある。頭では試合での動きはわかっているが、それだけで体が追いついていない。古典的な初心者によく見られる動き、持っても残り一体倒すのが精一杯だろう。

そう思いながら必死に銃弾を放つ内海の姿を見つめていた。その予想は当たり、次の瞬間には内海は足を滑らせ絶対絶命の状況になった。

龍ケ崎だけではなくゲーム経験のある『Re:rights』の鴉野と凛も、見つめながらもうおしまいだと思ったその時だった。内海は三人の予想を超えた動きを見せた。

「マジック 『フラッシュ』」

内海は右手を的に向けながらそう叫んだ。すると内海の右手から光が飛び出るとそれは真っ直ぐに的まで行き地面へと落下すると同時に視界をくらませるほどの光を放った。

「なんだ!?」

見ていた龍ケ崎たちも、突然のその光に思わず腕で目を覆った。

しかし、その影響も直ぐに再び目の前を見てみると、先程まで危機に貧していた内海が体制を立て直し二つの的のうちの一つに銃口を狙い定めている姿があった。

ハンドガンの軽い銃声が一発響くとその的は消える。とすぐにもう一つの的に銃口を向けるが、相手も素直にやられることはない。

残った的は自身に銃口を向ける相手を真似するように銃口を向けると躊躇することなく銃弾を放った。

銃弾は先ほどの閃光の影響なのか急所を外して内海の足を打ち抜いた。しかし、次の銃弾は外すことはないだろう。

試合が終わる緊張感が一瞬のうちに包み込んだ真っ白な空間に二つの銃声が鳴り響いた。

その一発は的を見事に打ち抜き、もう一発は内海の頭を真っ直ぐに打ち抜いた。


試合結果としては、初心者としか言えない結果ではあるが、龍ケ崎はその中で一つの可能性に目をつけて、無意識のうちに頬を緩ませ笑みを浮かべる。

その表情の先に見る内海は不服そうに自身の結果を見つめていた。

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