New World

「それじゃあ、まずは操作説明としましょうか」

目の前の内海のその言葉に龍ケ崎は言葉は出さずにため息混じりに小さく頷く。

「まず人差し指を出してください」

そう言うと龍ケ崎のことを指差すようにして手を出した。先程までドット絵だった人物の指先に見とれながら龍ケ崎も見よう見まねで人差し指を使って内海を指差した。

「そうしたらその指を横にスワイプしてください」

言われるがまま龍ケ崎は指先を内海に向けたまま宙をなぞるようにして動かした。

すると目の前に白い丸のホログラムが出てきて、それを中心としたサークルに様々な絵がついたアイコンが表示される。

「これを使うことで様々なことができるんです」

内海はそういながら得意げに指先を動かし何かを押した。と次の瞬間に内海の左手にはハンドガンが現れたのだ。

「こうして武器を出すことだって出来ますし、それにこんなことも」

そう言うと咳払いを一回して囁くような声を出した。

「『ソード 時雨(しぐれ)』」

そう呟くと先程まで内海の手元にあったハンドガンは消えてなくなり、その代わりに柄の長い刀が出てきた。

「事前に武器を登録していれば言葉だけでも武器を出すことが出来るんです。登録は最大で3つまで自分の好みで登録可能です」

そう言って様々な武器の名を口で言うと内海の手のひらには入れ代わり立ち代わり様々武器が握られた。

その姿を黙々と見つめる俺に対して内海は机越しに前のめりになって親に褒めて欲しい子供のように興奮気味で問いかける。

「どうです音声認識システムを使った技術です。すごくないですか!?」

すごい、すごいとは思うけど場所が場所だけにぜんぜん頭に入ってこない

それは龍ヶ崎の問題ではなく状況の問題であった

「ひとついいか」

「はい?」

「なんで、集合場所をここにしたんだ」

辺りを見渡すとメイド服姿の店員がせわしなく机と机の間を往来していた。

もちろん相手はNPCなのでこちらから話しかけるなどモーションなどがなければを気にする素振りというのはない。

「なんでってなにがです」

内海はそんなこと1ミリたりとも思っていないのか平然と疑問を投げかける。

「どうしてメイド喫茶を集合場所にしたんだ、他にもっとわかりやすいところがあっただろ」

その言葉に内海は大きく頷きを見せると言ってみせた。

「それは、それぞれのクランごとに集合場所というのが存在していて、『Re:rights』はたまたまここの場所が選ばれたってだけです。なんですか?もしかして龍ヶ崎さん嫌なんですか?」

「嫌とかそういうわけじゃねぇよ、ただ落ち着かないだけだ」

「それはこのゲームの製作者として謝らないとですね」

そう言って平謝りの内海を虚ろう目で見つめた、その時だった。

「そりゃあすげぇ、こんな可愛い子がこのゲームを作ったのか」

突然聞こえた声の方へと振り向くとそこには見覚えが有る顔が覗かせていた。

「久しぶり、龍ヶ崎先輩」

二つの声に反射的に振り返った龍ケ崎のことを見て、言葉の主は片手を上げ椅子に座る龍ケ崎の姿を見下ろした。

「凛…」

茶髪のショートヘアーの髪型、整った顔立ち。

活発な性格で身体能力が高くクランでは切り込み役としても活躍する。

歳は俺の一つ下だが性格やその容姿からはそんな感じをうかがい知ることは出来ない。今は昔から『Re:rights』とは別に入っていたクランで活躍している。

そしてその奥には鴉野の姿もあったがこちら別段懐かしむわけでもない。メガネをしており、おちゃらけた口調が特徴だ。

試合では索敵が得意で、遠距離武器での攻撃は正確に敵にダメージを食らわせる。

そんな鴉野は内海に向けていた視線を龍ケ崎に向けて一瞥した。

「『Re: Rights』再結成か」

その言葉の意味をする通りかつて栄光を手にしたクラン『Re:rights』は五年前の伝説と呼ばれた大会を最後に表に出ることはなかった。

それが、こうして無理矢理ではあるが再結成となったわけだが

「一人足りないけどな」

「いやいや、こんな美人がいるんなら問題ないぜ」

鴉野はそう言うと視線は俺の目の前に居座る内海をみつめた。その含みを持たせた視線に隣にいた凛は鴉野を睨む。

「鴉野さん、それって私は美人じゃないと言いたいの?」

整った顔が明らかに怒っているのが分かった。その迫力たるや鴉野は急いで両手を振り否定の意を伝えた。

「いやいや、決してそういうわけじゃないよ。凛ちゃんも充分だよ」

凛は掴んでいた手を離すと不服そうに鴉野に背を向けると改めて何事もなかったように内海に顔を向ける。

「ごめんなさい、こんな所を見せて」

「いえ、あなたが『Re:rights』の凛さんですね、お会い出来て光栄です」

内海は机に座ったまま丁寧にお辞儀をした。

あからさまに見せる対応の差にすこし立腹しながらも凛の言葉の続きを聞く

「それでこの人が鴉野」

「人のことをこれってひどくないかい凛ちゃん」

メイド喫茶で凛と鴉野の声が響く、この世界がゲームじゃなかったらと思うと内海に感謝するだけだった。

「面白いクランですね」

内海が凛と鴉野の言い合いに口を挟み、そこで言い合いは一時停止となった。

本気でそう言っているのかお世辞かどうかは分からないが内海の口元は少し微笑んでいるようにも見えた。

「いやいや、面白くもなんともないですよ」

「それに世界トップの強さを誇る」

「そんな昔の事…」

凛は大げさに両手を振り回す。見ててなんともわかりやすいが、言っていることは本当だ。龍ヶ崎たちが最後にクランとして活躍したのは5年前、とうの昔のことだった。そんな人間たちを再び集めて内海は何をしたいのか。

「それで」

しびれを切らしたように龍ケ崎は内海と凛との会話の間に入った。

「メンバーが揃ったんだ、クラン戦について詳しく聞きたい」

「そうでした、では早速移動しましょうか」

「また移動するのか?」

「ええ、ここはあくまで集合場所ですからね。拠点とは違うんです」

「そんなもんか?」

「そんなもんです」

内海はそう言うと手を先ほど実演したようにスワイプしホログラムを出現させてボタンを押した。と、次の瞬間、先程までとはうって変わって落ち着いた雰囲気の場所に俺たちは移動していた。

「ここが私が用意した『Re: Rights』の拠点部屋です」

辺りを見渡すと、どうやらここはカフェの店内なのだと分かる。レンガ作りの壁、いくつか並べられている机と椅子、そんな雰囲気ある店内にはそれに合わせるようにジャズが流れている。

部屋の端にはバーカウンターがありそこには一人白髪まじりの年老いた老人がいた。拠点ということは作戦会議や疲れを癒すところのはずだ。なのに見知らぬ人が居るのはどうなんだろうか。

「あれは誰なんだ?」

「ああ、あれはこの店のマスターですよ。マスターはこの世界に色々と詳しいので話をしてみたら面白い情報が聞けると思いますよ」

「なるほど」

そう言われれば確かに店には店員が必要だろう。

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