第479話 大きな勘違い
ついつい笑いがこぼれてしまいそうになるほど、違和感のある“大ニュース”だ。唇を噛み締めながら、神内は続けて思った。
(要するにいわゆるUFOを米軍が撮影したってことらしいけど、二〇〇四年を代表するくらいの大ニュース? それ以前に、この手の超常現象をまともなニュースとして扱っていいのかどうかさえ疑問に感じる……神が言うのもあれだけど)
とりあえず頭の中でデータをサーチして、日付を確かめなくては。神内はその作業をしつつ、天瀬の顔を見た。
(迷っていたのはこれね。さすがに三つとも楽勝のネタが来ることはなかったと。それにしてもよりによってこんな、話題に困った大衆スポーツ紙ぐらいしか扱わないようなネタが当たるなんて、運の悪い)
そう思った神内だったが、サーチ結果とそこから紐付けられた情報に目を通して、少なからずびっくりした。
(あ。これはもしかしたら)
「どうでしょうか」
驚きを新たにした神内に、天瀬が問う。神内は小さく咳払いをして返事の言葉をまとめた。
「――ええ。判定は出たわ。発表の前に聞かせてちょうだい」
「気を揉ませるというのは、どちらに受け取ればいいんでしょう? いいのか悪いのか……」
「いいから。一番迷ったのは、これよね。あー、面倒くさいから読めるようにするけれども、この未確認飛行物体のやつ」
「はあ、一応、そうでした。ただ、迷ったのは、日付がはっきりしないことよりも、そもそもニュースに出ていた話を鵜呑みにしていいのかなという疑問が浮かんだものですから」
「その口ぶり……」
神内は相手を指差した。
「このニュース、知っていたの?」
「うーん、正確な言い方をすると、小学六年生の私は知りませんでした。というよりも、二〇〇四年の時点で、世の中のほとんどの人は知らなかったんじゃないでしょうか。この記事に出て来るUFO映像が二〇〇四年十一月撮影のものと米国の機関が認めたのは今年、二〇一九年なんだから」
「何でそんなことまで記憶していられたの?」
「えっ。だって、私が知ったのはつい先日なんですよ。確か、九月二十日かもう少し前辺り。本当はそこまで言ってないのに、“アメリカがUFOの存在を認めた!”みたいな扱いで、ネットではそれなりに大きなニュースでした」
二〇一九年七月、貴志道郎が交通事故に遭い、二〇〇四年五月に飛ばされた。そこから日数が経過すること三ヶ月弱。それぞれ同じ時間が流れたとすれば、二〇一九年の方は九月中旬~下旬となり、ちょうど問題の流出したUFO映像を米国が公式な物として認めた時期に重なる。
「タイミングがよかったのは分かったわ。じゃあ、どうしてあなたが未確認飛行物体なんかのニュースに興味を持っていたのかってことが気になるわね」
神内は天瀬の反応を窺いながら、言葉をつなぐ。
「日常生活を平穏無事に送っている状況下なら、UFOにさほど興味ない人でも雑談のネタにするのは分からなくもない。けれど、あなたは今、婚約者の意識不明が続いていて、UFOをネタに家族や友人とおしゃべりする心境にならなんじゃないのかしら」
「いいえ、それは逆です」
即答かつきっぱりとした相手からの返事に、神内の目は思わず見開かれた。
「何で逆?」
「道郎さん――貴志さんの意識不明が長引けば長引くほど不安が募って、神秘的な物事にすがりたい気持ちが強くなる。そういうのって分かりません? 神様でしたら、すがられる立場でしょう?」
「ま、まあ、それはそうだけど。UFOと一緒にされるのはちょっと。だいたい、あなたってオカルト系の話は、他の女子に比べたらさほど信じていない口だと見てたんだけどな」
「昔はそうでした。でも、九文寺さんから影響を受けて、ちょっぴり宗旨替えした感じかな」
天瀬は舌先を少し覗かせ、若干恥ずかしげに言った。
「九文寺薫子から? え、どういうこと。私の知る限り、あの子もかなり現実主義な小学生だったはず」
「はい。九文寺さんも私と同様、昔はそうでした。だけど、命の危険を救われたことから、信じるようになったんです」
「命を……救われた?」
神内は相手の思いも寄らぬ発言内容に、再び目を見張った。そして何度も瞬きを繰り返す。
「えっと、九文寺薫子さんはもしかして、あの東日本大震災を」
「あれ? すべてご存知なんじゃあ……?」
「いいえ。あらゆることどもを完全かつ永久に追跡するなんて、実際には面倒で無駄に疲れるだけだからしないのよ。それよりもこれまでの口ぶりだと、九文寺薫子さんは今も健在なのかしら」
「ええ、そうですけど?」
どうなってるの?――神内は神様としての立場も忘れて、叫びそうになった。
(根本的なことで、大きな食い違いが生じている? というよりも、私がまだ見ていない二〇〇四年九月以降の出来事に新たな物が加わって、それによって九文寺薫子が震災で命を落とさないで済むルートに切り替わったのか……)
いやいや、そう解釈するにしても、まだおかしいわ。神内は首を傾げた。神様として自覚を持って以降、こんなに考え込んだのは初めてかもしれない。
つづく
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