第472話 違う数にしてもいいのかな
何はともあれ、私は当初の要求を改めて提示した。
「それじゃあ、続けて6をラッキーナンバーにしてもらえますか」
「別にかまいやしないけれども、何となくセンスがないな」
センス? 何のこっちゃ。
思わずきょとんとしたであろう私を見て、ゼアトスはまた例の微笑を顔に貼り付けた。
「ラッキーナンバー6を設定したまま勝負を続けたとしても、キシ君にはさしたるメリットをもたらさないんじゃないかと思ってね。言うまでもないでしょうが、僕は6を警戒すして勝負を進めることになる。それに根本的に、僕が仕込んだ6そのままっていうのは興ざめで、これで僕が勝っても、ラッキーナンバーを密かにラッキーじゃないようにしたんじゃないかと疑義を持たれかねない。僕にとっても君にとっても、ラッキーナンバーのありがたみは半減てところじゃないかな。」
「……それなら、無茶な願いかもしれませんが」
私が、聞きながら思い付いた新たな案を口にしようとすると、被せ気味にゼアトスが「いいよ、言ってごらん」と凄いスピードで言った。神様にとっちゃあ、“無茶な”という形容詞が気に食わなかったのかもしれないなと、直後に推測した。
「ラッキーナンバーを私の指定する数に変更することはできないのでしょうか。もちろん、あなたに知られることのない形で」
「ほうほう。そりゃ興味深くも面白い提案だ。うん、無茶ではないよ」
ゼアトスはハイネの方を見た。
「ハイネ君。君が公明正大に役割を果たしてくれるのであれば、僕が関知しないまま、こちらのキシ君のラッキーナンバーを設定できると思うんだが、どうかな」
「はいはい。何でも仰せのままにやりましょう」
若干のぞんざいさを含んだ調子で請け合うハイネ。ゼアトスのことを恐れているのか疎んじているだけなのか、いまいち明確でない。
ともかく、そう返事したハイネは、すーっと音もなく私達のそばに戻って来た。だいぶ慣れたとは言え、近くで見るとやっぱり不気味さに気圧される感があるな。死神がそばに立つだけで、実際に周辺が暗くなった気さえする。
私が見ている前で、ハイネがフードを下げ、その露わになった尖った耳に、ゼアトスが顔を寄せて耳打ちを始めた。神様同士なら脳内会話ができるんじゃないのかねえ。私に分かり易いよう、ポーズを取ってくれた、とか?
些末なことについて訝っている間に、話は済んでいた。
「さて、手筈は整えた。残るはキシ君からハイネ君に、新たなラッキーナンバーとする数を伝えればよい。今みたいに耳打ちすれば、死神が責任を持って設定を終えるだろう」
あの尖った、刺さったら痛そうな耳に口を近付けるのは何とも言えない心地悪さを覚えるが、やむを得まい。私は席を立った。
と、ゼアトスの話はまだ終わっていなかった。
「キシ君が僕及びハイネ君を信用してくれないと、このやり方を捨てなくちゃならない。どうだろうか?」
「自動的に設定できないのなら、こうするほかないでしょう。信じましょう」
私がやむを得ない判断をくだしたのとほぼ同時に、何やらざわめきが聞こえた。ゼアトスやハイネから発せられたものではない、第三者的な――となると、天瀬か神内かもしれない。いや、そうであってくれ。まさかこれ以上、別の神様のご登場だったら、話がいたずらにややこしくなるだけな気がするから。
「何だろう?」
ゼアトスも関知していないらしく、至ってノーマルな反応を示した。若干、斜め上方を見据えてから、首を捻る。
「ハイネ君、何か聞いているかな?」
「はあ。恐らくは同時進行しているもう一つの対決、神内と人間の女、そうそう、天瀬美穂との勝負に何らかの動きがあったのかと。決着したのか、それとも何かの理由でこちらへコンタクトを取る場合もあり得ましょうか」
「ふむ。決着したのなら神内君に勝ってもらわないと困るなあ。もし負けたのであれば、人間側が勝利条件を満たすことになる」
ゼアトスは私の方を見て、続けた。
「このあとの勝負が消化試合というやつに堕してしまうのは避けたいね。それこそ興ざめの最たるものだ」
えっと。
もし仮に天瀬が勝利を勝ち取っていたとしても、こちらのギャンブル対決を続けるつもりでいるのかな。それはまあ私だって、腹に据えかねたことがあったから、四戦全勝して神様連中を完膚なきまでに打ち負かしてやりたいとは思っているけれども、実際問題、途中介入のゼアトスを相手にそこまで執念深くやるつもりは薄れてきている。
あ、いや、待て。四戦目をどんなシチュエーションで行うかということよりも、もっと重要な局面を迎えているのかもしれない。
そもそも、第三戦と第四戦二つの勝負を同時進行させることになったのは、第三戦の結果によっては私達人間サイドへのプレッシャーが大きくなる、だからフェアではないとの理由故だったよな。
そして、その理由に沿うようにするには、先に決着が付いたとしても結果がもう一つの勝負で闘っている両者には伝わらないようにするのが当たり前ではないか。なのに何故?
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます