第428話 性格、ちょっぴり違う?

 神内からの問い掛けに、天瀬は黙ったまま首を縦に振った。これに応じて、神内の饒舌さに拍車が掛かる。

「その分、心が乱されるわけだから、願いに混じりけが出てしまうものなのよ。ちょっとした雑念や迷いすらだめ。つまり、ハイネを思い浮かべて僅かでも恐れを感じるようなら無理ってこと。それに、おまけで教えてあげるけれども、たとえハイネや私の排除に成功したとしても、じきに戻って来るから」

「え、そうなんですか?」

「ええ。自身の夢の中限定の神であるあなたに対して、私やハイネは正真正銘の神なんだからね。永遠に排除されるなんて、あり得ない」

「なんだー、残念」

 分かり易く、しょぼんと態度で表す天瀬。

「あの死神さんがいなくなるのなら、このあとの勝負でも有利になると思って、だいぶ安心していたのに」

 悪びれることなくそう呟いて、それからはたと気付いたように神内へ深々とお辞儀した。

「あれこれ教えてくださって、助かります。ありがとうございました」

「そ、それほどでもないわ。何か調子狂うわね」

「人間から感謝されるのは、神様にとって普通だと思ってたんですけど、違うんですか」

「いや、そういう意味ではなくって……どう言えば」

 神内は目線を天瀬から私に戻した。そして見下ろしたまま、ひそひそ声で話し掛けてくる。

「あんたの彼女、ちょっと天然入ってる? 子供の頃の方がしっかりしてない?」

「さあ……」

 正直、私にもよく分からなかった。

 夢における天瀬だから多少は子供っぽくなることもあるのかもしれないと想像したが、自分の場合に当てはめると、夢だからと言って必ずしも精神的に若返るとは限るまい。

 私が付き合ってきた大人の彼女は、どちらかというと現実的に物事を考えるタイプで、夢を見ているような空想話をするときは、聞き手にそれと分かるように振る舞う。占いや運命、パワースポットなどに関しては興味を持たないわけではないが、あくまでもファッション――流行り物としての興味にとどまっていた。

 それに対して、今、この空間にいる天瀬は若干、超常現象肯定派に傾いた感じに見える。神様との対決について話をしたら、やけにすんなり信じたように思えてきた。あれは信じ込む力が強いという証拠になるんじゃないだろうか。

 さらに想像を逞しくしてみる。私や六谷が過去に干渉した影響が巡り巡って、天瀬の人生――二〇〇四年から二〇一九にかけての十五年間――に及んだという可能性はないだろうか。性格や趣味嗜好が多少変化するほどの、何らかのスピリチュアルっぽい体験をしたとか。ひょっとしたら、私との結婚話が今のルートではあまり進んでいないらしいのも、彼女の新たな経験に起因しているのでは……。

 そのような体験をして受ける影響は、年齢が低いときほど大きいに違いない。あるいは、精神的に不安定なときもか。今の私が把握している範囲では、特に思い当たる節はないなぁ。せいぜい、渡辺による襲撃未遂ぐらいか。でも、あのあと天瀬が超常現象や占いなどに凝り出した様子はなく、前と変わらぬ態度でいる。

 まあ、いい。原因究明は後回しだ。単に私の彼女に対する見方が視野狭窄に陥っていただけで、今現れているのは天瀬の新たな一面だっていうこともないとは言い切れないんだし。

 現時点で最も気にすべきは、体力勝負の勝敗の行方と、天瀬の能力の使用がこのあとも認められるか否かだ。

「そういえば神内さん。私の能力は、勝負に使ってもいいの? 使っても無効にさせられる?」

 折りよく、天瀬が尋ねた。私が知っているよりも無邪気に聞こえる口調だ。

「今し方の説明を聞いていたでしょ。使いたいときに使えるものじゃないわ。さっきのはたまたま成功しただけだと思うわ」

「はい。でも、使うつもりがなくても、偶然、うまく行くことがあるかもしれない。さっきのがまさにそれでした。だから、もし能力がたまたま働いてしまって、そのことが原因で今の勝負なしとか反則とか言われても困ります。最初に決めておく方が絶対にいい」

 穏やかながら、しっかり主張する天瀬。白黒を付けたがる辺りは、以前の天瀬と変わらないような気がする。

 いやそれよりも、ここは能力発動が難しいという相手の言葉を容れて、能力の使用を禁じるか否かを曖昧にしておき、いざ再び発動した場合にルールで取り決めていなかったからと認めさせるのが上策だと思うのだが。

 それに、あらゆる能力の使用を認めるとなった場合、当然神様側も能力を使い放題になる。こちらに圧倒的不利だ。

「そうねぇ」

 神内が考え始めたぞ。ハイネならともかく、神内は勝負を楽しみたいタイプだろうから、能力使用を禁じる可能性大と思ったが、そんなに単純じゃないのか。

「個人の能力の使用に関して、かなりふわっとしたルールで進めてきたのは事実。私の独断で禁じると、ハイネが機嫌を悪くするだろうし」

 ということは、ハイネはやはり、次の勝負で何らかの能力を使うつもりでいるってか。この上なく、厄介そうだ。


 つづく

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