第396話 真剣勝負故細々と決め事をするのは間違っていない

「はい。元の問題も相当独り善がりだと個人的には思いますが、さらにひどいのを作ろうと思って」

「答は?」

「時間が逆流している人間、です」

「……確かにひどいわね。言うまでもなくだめよ」

「ですよね。でも」

 天瀬が私の方を見た。

「こちらのきしさんによれば、時間を過去に戻って体験されているみたいな話をされていましたよ? タイムスリップかタイムリープかタイムトラベルか、呼び方は知りませんが、神様はご承知のはずではありませんか」

「ううっ?」

 思いも寄らない指摘に神内ばかりでなく、ハイネまでもが意表を突かれた風に反応した。

 ていうか天瀬、信じてくれてたのか、私が言ったことを。それとも相手側をやり込めるために、私の話に敢えて乗っかったというやつ?

 どちらにせよ、頼もしい。六谷がリタイア状態に追い込まれ、私の個人的な願望込みで天瀬を新たな参加者に指名したけれども、結果的に正解だったと思えてきた。

「分かった」

 ハイネが言った。事態収拾のため、いち早く決断したようだ。

「クイズとして出題できるのは、人間界の常識の範囲に収めることとする。その上で、独り善がりなこじつけが酷いものはノーカウント、相手チームの判断でノーカウントにできるものとする。これでよいですかな?」

「うーん、まだ恣意的な部分は残りそうですけれども、完璧を求めても難しそうなので妥協します。やりましょう、死神サン」

 天瀬が元気よく呼び掛けながら、音を立てて椅子を引く。ハイネは無言で陽炎のように頷いた。

 何だか天瀬が話すと、場がほんわかするな。空気が緩むっていうか。僅かだけれどもその雰囲気の変化が、神様側、特にハイネを苛々させている様子。ますますもって、風向きはこちらの有利になっているんじゃないか。

「やっと勝負方法について話せるわね」

 神内も弛緩した空気に影響されている、ように見える。尤も、この女神サンは今までも時折ふざけることがあったから、今もそうなのかもしれない。少なくとも場を楽しんでいるのは確実だ。

「お互いに三問ずつ出題し、正解した数ではなく獲得したポイントの多い方を勝者としましょう」

「ポイント?」

「これから言及するので慌てず騒がず、聞くように。一口にクイズと言っても、いくつかのタイプがあるのは分かるわよね? 普段意識しているしていないにかかわらず、これは知識がないと解けないとか、面倒くさくても論理的にじっくり考えれば解けるやつとか、とんちの効いた問題だといった問題の特徴、傾向ね。さっき天瀬さんが例に出した問題は、一応、とんちに分類されるかしら。いわゆるなぞなぞもこれに含まれる」

 神内の話の途中で、「あっ、分かったわ」と天瀬が呟く。でもそれ以上は何も言わない。最前、神内から黙って聞くようにと注意されたのが頭にあるらしい。

「ポイントというのは、そういったクイズのタイプによって、得られる点数に差を付けるってこと。知らなきゃお話にならない知識系は低めに抑えて、1ポイント。頑張ったら解けるけど単調な論理系は2ポイント。そして、なぞなぞ・とんち系は10ポイント。それぞれのポイント数が、解けた場合は解答側に、解けなかった場合は出題側に加算される仕組み」

 インフレと言っては変かもしれないが、桁が一つ違うのか。知識や論理系の問題でいくら頑張っても、一問、とんち系が解ける解けないで逆転し得る。

 でも――安心&感心した。神様って案外、良心的じゃないか。知識がないと絶対に解けない問題を連発されたら、全知全能の神に人間は絶対に勝てまい。発見間もない物理の最新理論とか、数学上の未解決問題とされていた難問の証明とか、私も天瀬も恐らく正解のしようがない。だが、こうして問題のタイプ別に差を付けてくれたおかげで、勝つチャンスはかなり広がる。

「他に条件としては解答できる制限時間があるわね。原則として二分としておきましょう。問題によっては制限時間を長くする場合もあり。それから言うまでもないことなんだけど、お互いにあとで揉めないために決めておくわ。出題及び解答はこの場にいる四名全員が理解できる言語に限る」

 言語か。確かに、天瀬の理解できない外国語で出題されたら、とんちやなぞなぞであっても答えようがない。相手は10ポイントを荒稼ぎできてしまう。

「そして、ある意味一番大事な条件を最後に付け加えておくわ。出す問題があまりにもクイズらしくなかったら、ノーカウントにして再出題を求めるから、そのつもりで」

「……よく、分からないのですが」

 神内が“最後に”付け足すと言ったからだろうか、天瀬は口を閉ざすことなく質問した。

「いくら知識系と言っても単に歴史上の人物名を答えさせるような問題はだめってこと。外国語の和訳や、無味乾燥な計算式、証明問題も同じ。つまりは学校のテストのような問題は、文字通りの問題外にするから。じゃ――」

「ちょっと待って。もう少し具体的に説明して」

 そのまま勝負に突入しそうな神内に、天瀬は食い下がる。

「だから、24+36×10=?や、法隆寺を建てたのは誰?というのはだめ」


 つづく

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