第394話 よりどりみどりとは違うけど

 そんなに多忙なら、盤外戦に時間を割く暇はないだろう。チャンスの方は確かに滅多にあるまいが、元はと言えばそちらが勝手に怒って勝手に始めたことであり、私や天瀬はそのとばっちりを食らった、言うなれば被害者の立場だ。

 ということを一つ一つハイネに突っ込んだり、天瀬に説明している余裕はない。私は天瀬に「気にしないでいいよ。神様って、人のためになることもしてくれるもんだ」と伝えるだけにした。引け目やプレッシャーを感じて、萎縮して欲しくない。

「ええ。ここは“もらえる物はもらう主義”で行きましょう」

 何だか年齢を重ねた主婦みたいなことを言った。よし、過度な緊張はしていないな。

「それじゃ、具体的に対決の中身についての話に移るわ」

 神内が切り出した。珍しく、メモ書きらしき紙片を一瞥して、話を続ける。

「四回やり合う訳だけれども、勝負にはそれぞれ異なるジャンルを設ける。また、各対決において戦うのは代表者の一名とする。一人につき二回、代表を務める。――ここまではそちらの岸先生に前もって伝えていたことで、ここからは付け足しの提案よ」

「何だ? 変な条件なら、拒むだけだが」

「たいしたことじゃない。対決の組み合わせが全て異なるようにしたいの。たとえば私とあなたが初戦でぶつかったら、次に私が出て来るときは、あなたではなく天瀬さんが相手になる」

 要は、「私と神内」「私と死神」「天瀬と神内」「天瀬と死神」の四通りの勝負が実現するように端から決めておくってことか。まあ、別に拒絶するような条件ではない。むしろ歓迎すべきか。二度とも死神の相手をするよりは楽な気がする。

「受け入れてもかまわない。ただし、こっちの出す条件を飲んでくれたらだ」

 そっちの要求を渋々飲んでやるんだからという体で、話を持って行く。

「聞きましょう。何?」

「何戦目に我々のどちらかがどのジャンルで戦うかは、こちら側で選択できるようにしてもらいたい」

「そう来たか。なるほどね。――ハイネさん、どうしましょう?」

 神内が死神に意向を尋ねる。一応、この対決に限っての上司らしいけれども、話し方がぎこちない。

「駆け引きは私も好むところだし、受け入れるのは別にかまいません。それにしてもそちらの人間は、なかなか強欲ですねぇ。表現が巧みで見落としがちですがぁ、何戦目に誰が出てどのジャンルで戦うかの決定権をみんな寄越せたぁ、つまるところ三つの要求をいっぺんに通すことに外なりません」

 ハイネが私の方を鎌先で指し示しながら言った。相変わらず、個人名を覚える気も口にする気もなさそうだな、こいつは。

「拒否したいのならしてくれ。条件をいくつか取り下げてやってもいい」

「いえいえ。徹底的に倒してやるなんて啖呵を切られたからには、我々はどんと構えて受けて立ちましょ」

 ハイネの発言に、隣の天瀬が「そんなこと言ったんですか」と呆れた目で私を見てきた。あの場面は腹が立ったこともあって、しょうがなかったのだ。

「それではいよいよ開始したいんだけど、岸先生。どのジャンルを指定して、どちらが出て来るのかしら」

「四つのジャンルは、クイズ、ギャンブル、体力勝負、それに記憶力に関係する運試しでいいんだな?」

「ええ」

 四つの内で一番得体の知れないジャンルは、最後の運試しだろう。どんなことで競うのか想像しづらい。最初の勝負には選びたくない。

 記憶する対象は二〇〇四年までの出来事と言っていたから、天瀬よりも私の方が(二〇〇四年を体験した“直後”である分)よく記憶していると思われる。この勝負には私が出るべき。それとギャンブルも私だろう。必然的に、クイズと体力勝負とが天瀬の受け持ちになる。

 第一戦は天瀬ではなく私が行くのがベストだが、運試しを初戦に持って来るのを避けるとなると、ギャンブル一択。だが恐らくギャンブルだと、向こうは死神が出て来る。いきなりクライマックスって感じになるな。神内を倒すくらいだから、腕は相当立つんだろうし……。

 考え方を切り替えるべきか。まだ一敗してもかまわない内に、天瀬に出てもらって、勝とうが負けようが雰囲気に慣れる。これこそが大事な気がしてきた。天瀬を初戦に出すのなら、クイズか体力勝負を選ぶことになる。ウォーミングアップその他諸々を考慮すると、身体を動かす必要のある体力勝負は、できるだけ状況に馴染んでからの方が……でもそれは頭脳を使う場合も変わりないか。クイズ勝負は冷静な判断が必要とされるだろう。

「早く決めてくれない?」

 神内からせっつかれた。そりゃそうだよな。私だって相手の立場なら、いらつくくらいに時間を取っている。

「天瀬さん。最初はあなたに出てもらおうと思ってるんだが、四つの内のどれがいいというのはある?」

 なるべくならクイズか体力勝負を選んでくれと思いつつ、彼女の意向を問う。

「そうですね……詳しい中身はどれも分からないなら、クイズが一番自信あります。その次は運試しかな。自分が特別幸運だとは思ってませんけど、悪運は強い方かも。不幸中の幸いという形で」


 つづく

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