第328話 本気とはったり、違いを見抜け
「そうですねぇ~。神が験をかつぎ続けるのもおかしな話ですが、縁起がいいので変わらずインディアンポーカーで」
「もう配らなくても、君達で各自一枚ずつ取ってくれていいレベルだな」
苦笑交じりに言ったゼアトスだが、もちろんちゃんとカードを一枚ずつ配った。
神内がカードを掲げつつ前を見ると、ハイネのカードはスペードの3だと分かる。
(続けざまに低いカード。キングに対するアドバンテージもない)
通常なら強気に出るケース。でも、神内はリードを保たねばならない。ここで変に色気を出して大勝ちしてやる、なんて考え始めると段取りが狂いかねない。
(今回は私から賭ける。勝負前に吐いた台詞に沿って、降りるのがいいかしら。3を見ておきながらさすがに降りづらいけれども揺さぶりを掛ける意味で)
一連のポーカー勝負で、神内の方が長考したのはこれが初めてと言える。まだ決心が着かないでいると、ハイネが声を掛けてきた。
「お迷いでしたら、判断材料をお与えしましょうか」
「えっ」
「私のこの額のカード、スペードの3であるような気がするのですが、当たっていませんかねえ」
「ええ?」
神内は悲鳴に近い反応をしてしまった。
(言い当ててきた……。どこにもイカサマを使った気配はない。目印を付けるやり口でないのは確かだ)
死神であろうと貧乏神であろうと神は神。何らかの特殊な技倆を身につけていることは当然あり得る。ただし、心を読むとかどこでも自在に覗き見るといった能力を持っているとしても、それは神以外に有効なのであって、神同士のやり取りでは意味をなさない。
(別の方法で物理的に見ていると考えるのが妥当……隠しカメラなんて人間の利器を使うとは考えにくいんだけど。あるいは、どこかにお仲間がいてハイネの額のカードを見て、サインを送ってやっているとか?)
頭の中でめまぐるしく考える。これだという答は決められないが、次の勝負以降のイカサマ封じを試すために、絞っておく必要がある。
「スペードの3とお分かりなら、降りるんでしょうね?」
動揺を心の奥底に押し沈めて、神内は相手に聞いた。促したと言ってもいいだろう。
ハイネはカードを掲げたまま固まったように動かないでいる。ただ、吸い込まれるような色の光彩を持つ眼で、神内の頭のカードをじっと見ている。
「私は私とあなたのカード、両方とも知っています。その私が降りずに勝負に出たら、あなたこそ降りるんでしょうね?」
「スペードの3が当たっているとでも?」
引くに引けない思いから、適当な返事をしてしまった。声にしてから、ほとんど無意味な返しだったと気付いたものの、もう遅い。
案の定、ハイネもその点を突いてきた。
「スペードの3でなければ何だというんです~? いえ、私には確信がありますがぁ、それ以前に私が3で勝負に出るということは、あなたは2か1なんですよ? 逆に言えばスペードの3じゃないとしても、私の勝ち目はかなり大きい」
死神が比較的長広舌をしてくれたおかげで、神内も考える時間が少しは得られた。態勢の立て直しを図る。
「そこまで絶対の自信がおありなら、私のカードが何なのか、発表してくれてもいいのでは? さあ」
「ですから2か1だと」
「もっと明確に。と言っても、今さら遅いわ。確実に勝てるのなら黙って勝負に行くべき。なのにわざわざ言葉にして、自分はスペードの3だ、それでも勝負に行くぞ、おまえは3より弱いんだから云々としゃべり倒したのは、まともにぶつかれば負けると分かっているからよね」
「……そう来なくてはいけません。ギャンブルに強いというあなたがそこに気付かないはずがなかった」
ハイネは神内の言葉を認めるような応答をした。だが、その台詞とは裏腹に、コインを片手で無造作に掴むとテーブルに置き、数えることなく前に押し出した。
「あなたがいくら賭ける気でいるか分かりませんが、私はこれだけ用意するつもりでいます」
「……」
神内は置かれた金貨をざっと数えた。十枚前後か。
(理屈でやり込めたはずだったのに。それでもなお降りないということは、私のカードは2以下なの? ううん、こう考えさせることこそがハイネの狙いなのかも。十枚ぐらいなら、負けてもほぼ同じ枚数になるだけで、スタート地点に戻ったと考えられなくはない。けれども)
思考の迷宮に入り込んでしまった心地がする。今ならまだ引き返せる、か?
「絶妙の駆け引きね」
そこは素直に認める。認めることでより冷静になれた。
「私はリードしているのだから元々、危ないと感じれば降りるつもりだった。それなのに勝負を迷っているのは、あなたのカードが低い数だという証明になっているのよね。スペードの3と言い切ったのはあなた特有のブラフで、私の反応を見たかったのかもしれない。あなたに情報を渡してしまったのは、私自身かもしれない」
的中させていることから、はったりで言ったスペードの3がたまたま当たったんだという可能性は低い。そこは分かっているが、今大事なのは「あなたなんか怖くない」という意思表示だ。不思議な力で当てられたことを認めてはいけない。
つづく
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